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シリーズ京都を歩く

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18.閑寂凛烈の黙 ~2017年京都初冬の風景~
第四十六段 東山周辺、初冬を装う景観(前)

 前年の初夏以来訪れた京都駅前は底冷えの朝を迎えていました。朝日が雲間から差し込んでいて、わずかながら青空も覗いていました。日本海側から寒気が流れ込んだ影響からか、この日は気象の分類では「晴れ」となる陽気ではあったもの、終始雲が多い天候で推移していました。午前7時過ぎ、まだ人通りも少ない駅前のバスプール横を過ぎ、駅前を東西に貫通する塩小路通を東へと歩き始めました。

京都駅構内のツリー

京都駅構内のツリー
(下京区東塩小路町、2017.12.9撮影)
京都駅

京都駅全景(烏丸口)
(下京区東塩小路町、2017.12.9撮影)
鴨川と東山の朝焼け

鴨川と東山の朝焼け
(下京区川端町、2017.12.9撮影)
塩小路橋より中心部方向を望む

塩小路橋より中心部方向を望む
(下京区川端町、2017.12.9撮影)
蓮華王院南大門

蓮華王院(三十三間堂)・南大門
(東山区三十三間堂廻リ、2017.12.9撮影)
京都国立博物館

京都国立博物館
(東山区茶屋町、2017.12.9撮影)

  河原町通を横断し、高瀬川の小さな流れを渡りますと、鴨川の穏やかな川端へと到達しました。東山のたおやかな山並みを照らす朝の日射しが、鴨川の川面にきらきらと反射していまして、冬らしいセピア色の朝焼けの風景を目の前に現出させていました。上流に目をやりますと、京都市中心部の町並みの向こうに、比良山系や丹波高地へと連なる山並みを美しく眺望することができました。塩小路橋を渡りきりますと、通りの両側のしなびた家並みの向こうに東山を正面にみながら、道路はゆるやかな上り勾配へと変化していきます。築地塀が続く先には、蓮華王院(三十三間堂)の南大門が質実な佇まいを見せていました。門の下は市道となっていて、自動車も通過できる普通の道路となっていることも、平安京を礎として発展したこの町の特質を端的に表現しているように感じられました。

 拝観時間前の本堂を一瞥しながら、向かい側の平安中期創建の法住寺の前を進み、京都国立博物館の近代建築前を右折、東山七条交差点に相対する智積院門前へ。早朝の境内はとても静かで、一段下を貫通する東大路の喧噪とは一線を画していました。東大路を北へ歩き、国道1号(五条通)の高架下をくぐり、五条坂下へ。そのまま坂道を上って、茶椀坂を進んでいきます。坂の名前は、この一帯が清水焼の発祥地であることの由来しているようです。焼き物の町として今日もその生業を継続する町並みの向こうには、清水寺の三重塔が覗いていまして、名刹とともに歩んだ地域の穏やかな表情がしなやかにそこには展開していました。壮麗な仁王門と三重塔を経て、目下平成の大改修が行われている本堂へ。舞台周辺の紅葉は7割ほどはすでに落葉していまして、残る緋色の枯れ葉とともに冬の装いへとその容貌を変えていました。午前6時から開門している境内には、午前9時前という時間帯でしたが修学旅行生をはじめ既にたくさんの参詣者が訪れていまして、京都における屈指の人気スポットである同寺の日常を実感しました。そして、相変わらず美しい京都市街地への眺望も確認しました。

智積院

智積院
(東山区東大路通七条下ル東瓦町、2017.12.9撮影)
妙法院門跡

妙法院門跡
(東山区妙法院前側町、2017.12.9撮影)
茶碗坂

茶碗坂
(東山区五条橋東六丁目付近、2017.12.9撮影)
清水寺本堂

清水寺本堂(大改修中)
(東山区清水一丁目、2017.12.9撮影)
清水寺舞台から京都市街地を望む

清水寺舞台から京都市中心部を望む
(東山区清水一丁目、2017.12.9撮影)
八坂の塔付近の町並み

八坂の塔付近の町並み
(東山区桝屋町付近、2017.12.9撮影)

 葉を落としたカエデの木は冬の朝の冷気を浴びて、落ちる時を静かに待つ枯れ葉に寄り添っていました。その枝の間には冬芽をいっぱいに付けた木蓮の枝が重なって、鈍色の空の先にかすかに滲む、やがて訪れる春の息吹を想起させました。清水寺からは産寧坂の石段を下り、八坂の塔のたもとを歩いて、清水寺界隈の穏やかな景観を概観しました。東大路を横断して、清水道交差点を西へ入り松原通を進みますと、六道珍皇寺の門前へとたどり着きます。平安京の時代、都の東郊に位置するこのあたりは鳥部野(東山区南部、五条坂から今熊野あたりまでの古称)の葬送地へ向かう野辺送りの場所として「六道の辻」と呼ばれました。境内には小野篁があの世へと通ったとされる伝説の井戸も所在していまして、現在では京都市街地の一部に組み込まれる地域の中にあって、同寺の存在があの世とこの世の境界とも目された地域の来歴を伝えています。

 六道珍皇寺を拝観後は、同寺もその所属寺院としている臨済宗建仁寺派の大本山・建仁寺へ。臨済宗開祖栄西を開山とする、京都においても古い歴史を持つ禅寺の諸堂は、初冬の寒空の下、静かに佇んでいるように感じられました。北側に有数の風雅と格式を誇る祇園の町並みを控えて、しっとりとした風合いの景観で整えられた境内は、緑を維持する松波と、今まさに朱色から煉瓦色へと変わって落葉の時を迎えつつあるカエデの対照がとても情趣に満ちていました。花見小路を中心に落ち着いた町並みを見せる一帯は、明治期に建仁寺の塔頭を整理してできた空閑地に建設されました。祇園の名も、近世までは「祇園社」と称した八坂神社の境内地であったことに由来します。長い歴史を持つ寺社と関わりを持ちながら、我が国を代表する都市として幾星霜の時を刻んだこの町の並々ならぬ矜持に思いをいたしました。

六道珍皇寺

六道珍皇寺
(東山区大和大路通四条下る四丁目小松町、2017.12.9撮影)


建仁寺・法堂
(東山区大和大路建仁寺内通四条下る小松町、2017.12.9撮影)
建仁寺

建仁寺・方丈内の風景
(東山区大和大路建仁寺内通四条下る小松町、2017.12.9撮影)
花見小路

花見小路
(東山区祇園南側町、2017.12.9撮影)
円山公園のしだれ桜

円山公園のしだれ桜
(東山区円山町、2017.12.9撮影)
円山公園と東山の山並み

円山公園と東山の山並み
(東山区円山町、2017.12.9撮影)

 午前10時を過ぎて、花見小路から四条通へと進む道すがらには徐々に道行く人も増えてきて、週末の京都らしい活気が認められるようになっていました。八坂神社へと進み、参詣後は東側の円山公園へと歩きます。シンボルであるシダレザクラはしなやかにその枝を冬の空気になびかせて、刹那青空を覗かせた大空にその身を委ねていました。園内の葉を落とした木々のシルエットと、照葉樹も混じる東山の山並みとのコントラストが、冬の日差しを受けた池の水面に、とても鮮やかに反射していたのが印象的でした。


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