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関東の諸都市・地域を歩く


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#85 矢板市街地概観 〜自然に囲まれた地域の中心都市〜 

 日本の春は太陽の光の温かさを感じるとことから始まり、その温度が大地に徐々に広がって凍てつく空気をほどいて、やがていっせいに花が開き、山々の緑が芽吹くところでピークを迎えていきます。一日一日変化する春めいていく風景は、季節感に規定される日本文化において、最も象徴的な根幹を支えているのではないかと思われます。2014年4月12日、昼過ぎに訪れた栃木県北部の都市・矢板市街地に隣接する長峰公園は、まさにソメイヨシノが見ごろを迎えていまして、そうした日本らしい春の装いに包まれていました。
 
長峰公園

長峰公園から矢板市街地を眺望
(矢板市中、2014.4.12撮影)
長峰公園

長峰公園から高原山を眺望
(矢板市中、2014.4.12撮影)
長峰公園

長峰公園・ヤシオツツジの花
(矢板市中、2014.4.12撮影)
長峰公園

長峰公園、開花を待つツツジ
(矢板市中、2014.4.12撮影)

 長峰公園は矢板市街地が展開する那珂川水系の内川がつくる低地の端、台地の縁に設けられた自然豊かな公園です。南に開けた斜面にはたくさんのツツジが植えられていまして、栃木県花のヤシオツツジが可憐な花をつけていたほか、そのほかのまだ花を開いていないツツジたちも開花の季節を間近に桜の乱舞を見守っているようでした。シンボルタワーからは市街地や市のシンボルでもある高原山をはじめとした山並みをたおやかに望むことができました。長峰公園の素晴らしい桜を観賞した後は、公園の南でJR東北本線の鉄路を高架で越える国道の下をくぐり、その先の踏切で線路の西へと出て、矢板市街地散策へと歩を進めました。程なくして到着したJR矢板駅は、えんじ色の瓦が鮮やかな、小ぢんまりとした切妻屋根の駅舎で、ロータリー中央に植えられたヒマラヤしーだーの木が颯爽とした姿を見せているのが印象的です。

 矢板市は栃木県北部の中央やや東寄りに市域を広げる人口約3万2千の都市で、かつては塩谷郡に属しました。現在でも塩谷町やさくら市を中心とした地域を所管する県の出先機関が設けられるなど、地域の中心都市としての中心性を持っています。また、矢板市は鬼怒川を中心とした利根川の流域から、那珂川流域へと移り変わる丘陵地域に位置していることから、国道4号や東北自動車道、東北新幹線などの関東地方から東北地方へ向かう多くの交通機関も市域を貫通していまして、交通の要衝としての位置も占めています。駅前から北へ続く商店街を進み、扇町(おうぎちょう)交差点から西へ進みます。ここから本町(ほんちょう)交差点までの間が、矢板市における伝統的な中心市街地であるようで、所々に蔵造りの建物も散見されて町の歴史を感じました。藩政期、奥州道中は矢板を通過していませんでしたが、日光道中の今市宿と奥州道中の大田原宿とを結ぶ脇往還である日光北街道の宿場町として栄え、奥州道中氏家宿から会津方面へと続いた会津中街道も矢板で日光北街道と交差していました。

矢板駅

JR矢板駅
(矢板市扇町一丁目、2014.4.12撮影)
矢板駅前

JR矢板駅前の景観
(矢板市扇町一丁目、2014.4.12撮影)
矢板武記念館

矢板武記念館
(矢板市本町、2014.4.12撮影)
矢板市街地

矢板市街地の街並み
(矢板市本町、2014.4.12撮影)
木幡神社

木幡神社
(矢板市木幡、2014.4.12撮影)
木幡神社本殿

木幡神社本殿
(矢板市木幡、2014.4.12撮影)

 本町交差点は、上述した2つの街道が交差した場所にほぼ相当する場所で、その北東には、矢板武記念館の建物があり、町のランドマークとなっています。道路側に大きな長屋門を配したその和風建築は、地域の名士として、那須疏水開削など多くの事業に尽力した矢板武の旧宅です。1997(平成9)年に市に寄贈され、以降は記念館として一般に公開されています。周囲に板塀をめぐらせる記念館は、周囲が徐々に現代の街並みに取り込まれる中、宿場町として拠点性を有した矢板の町の往時を物語っているように感じられました。

 本町交差点を南へ、農地や郊外型の店舗などが交錯する郊外の風景の中を歩を進めます。木幡(きばた)交差点から東へ折れて東北線の線路を越えますと、こんもりとした杉の林が目に入りました。林は南北に細長く続いていまして、道路はそれを南へ大きく迂回するように取り付けられています。木幡神社の社叢で、樹齢200年を超える林は、緑地保全地域に指定され大切に維持管理されているようでした。木幡神社は桓武天皇(781〜806)の時代に、征夷大将軍・坂上田村麻呂が蝦夷討伐の際に戦勝を祈願したとされる由緒を持つ古社です。本殿や楼門は国の重要文化財の指定を受けています。両側に杉木立が並ぶ参道も清浄に掃き清められていまして、長く崇敬を受ける古社の風格を帯びていました。

長峰公園

長峰公園から望む夕景
(矢板市中、2014.4.12撮影)
長峰公園

長峰公園・夕刻の市街地眺望
(矢板市中、2014.4.12撮影)

 木幡神社からの帰路は、住宅地や商業地として開発が進む矢板駅東側の地域を一瞥しながら長峰公園へ戻りこの日の活動を終えました。オレンジ色にきらめく夕日の下再び眺めた矢板の街並みは、どこまでも穏やかな春の移ろいの中にありました。

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