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関東の諸都市・地域を歩く


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#98 2016年、神奈川県桜探訪 〜名所100選と地域の桜を訪ねる〜 

 2016年4月4日、午前7時30分過ぎに半蔵門駅へと到達しました。ここから北へ進み、桜が満開を迎えていた千鳥ヶ淵へと進みました。この日は平日に訪れることができたことと、天候が雨模様であったこともあり、朝の千鳥ヶ淵緑道を歩く人の数はあまり多くありませんでした。しかし、雨に濡れる桜はいっそうつややかに感じられ、周囲の若葉を芽吹き始めた木々のみずみずしさも相まって、曇天の空にしなやかな桜色のヴェールを立てかけているように感じられました。半蔵門から九段下までを散策しながら、この年も堀端を艶やかに染め上げる桜の波に酔いしれました。

千鳥ヶ淵緑道

千鳥ヶ淵緑道の景観
(千代田区三番町、2016.4.4撮影)
千鳥ヶ淵緑道

千鳥ヶ淵緑道のソメイヨシノ
(千代田区北の丸公園、2016.4.4撮影)
千鳥ヶ淵の桜

千鳥ヶ淵の桜
(千代田区北の丸公園、2016.4.4撮影)
千鳥ヶ淵の桜

千鳥ヶ淵・お堀と桜の風景
(千代田区北の丸公園、2016.4.4撮影)
二ヶ領用水沿いの桜

武蔵小杉・二ヶ領用水沿いの桜
(川崎市中原区今井南町/市ノ坪、2016.4.4撮影)
渋川沿いの桜

武蔵小杉・渋川沿いの桜
(川崎市中原区今井南町、2016.4.4撮影)

 九段下駅からは、渋谷駅を経由し川崎市へ、近年交通網の充実からタワーマンションの建設が進み、住みたい町の上位に名を連ねる武蔵小杉へ向かいました。駅周辺を歩いた部分についてはこの後予定している別稿にゆずりますが、再開発により大きな変貌を遂げたこの町の中でも、昔ながらの町並みに寄り添うような桜の名所が存在していました。高層化の影響でビル風が逆巻き、雨も降っている天候の下、駅の南東側を流れる二ヶ領用水沿いのソメイヨシノは、周囲を駅前の商店街に包まれながらも、しなやかな桜色がよどみなく流れる用水の水面を漂っていました。

 二ヶ領用水を上流に辿り、そこから分流する渋川沿いへ。この用水に沿っても多くのソメイヨシノが植栽されていまして、辺りを春色に彩っていました。かつて一面の田園風景が広がっていたこの地域を支えた農業用水は現在、水辺を気軽に散策できるプロムナードとして整えられていまして、その上を包み込む桜の天蓋は春の天水をふんだんに宿した鈍色の空にゆるやかに連接して、春の雨がすずやかな空気を演出する中、この上ないみずみずしい情景を都市の中に現出させていました。

下末吉六丁目

下末吉地区の宅地内から三ツ池公園を望む
(横浜市鶴見区下末吉六丁目、2016.4.4撮影)
三ツ池公園・下の池

三ツ池公園・下の池
(横浜市鶴見区三ツ池公園、2016.4.4撮影)
三ツ池公園

三ツ池公園・溜池と桜の風景
(横浜市鶴見区三ツ池公園、2016.4.4撮影)
三ツ池公園

三ツ池公園・江戸時代建立の石碑
(横浜市鶴見区三ツ池公園、2016.4.4撮影)
三ツ池公園

三ツ池公園・中の池の風景
(横浜市鶴見区三ツ池公園、2016.4.4撮影)
三ツ池公園

三ツ池公園・桜と山林の風景
(横浜市鶴見区三ツ池公園、2016.4.4撮影)

 武蔵小杉駅に戻り、そのまま横浜市の鶴見駅へ、そこからバスを利用して神奈川県立三ツ池公園へと進みました。日本さくら名所100選に名を連ねる園内では、農業用溜池として藩政期に造成された谷間の池を中心とした穏やかな山林が、まさに見頃を迎えていたソメイヨシノや、新緑が芽吹き始めた木々によってやわらかな輝きを放ち始めんとしていました。朝からしとしとと降ったり止んだりを繰り返していた雨は、三ツ池公園に足を踏み入れた頃からようやく止んできまして、次第に青空も覗くようになっていました。静かに水を湛える池の周りを散策しながら、しっとりとした薄紅色を呈するソメイヨシノが織りなす風景を目に焼き付けました。池のほとりには三ツ池が水田の灌漑に重要な役割を果たして、涸れること無く農民に恩恵を与え続けたことを詠んだ和歌が刻まれた石碑(1843(天保14)年建立)もあって、この池の歴史を今に伝えていました。下の池から中の池、そして上の池へと回るにつれて、周辺の森はよりその厚みを増して、山笑う季節の美しさに満ちあふれていました。桜の花弁を通してまたたく春の日も、春空の淡い青色と重なって、きらめいていました。

 三ツ池公園を散歩した後は鶴見駅前へ戻り、京急線で横須賀中央駅へ、バスでやはり桜の名所として日本さくら名所100選のひとつとなっている衣笠山公園へと足を伸ばしました。バス通りから衣笠山へは、住宅地となっている傾斜地をおよそ10分ほど歩きます。丘陵地に開かれた宅地の中でも、ソメイヨシノが植えられていたり、菜の花や花桃が鮮やかな色合いを見せていたりしていまして、公園までの道のりは里山のテイストも感じさせながらの行程でした。山の容姿が馬の背に鞍を置いた風に見えることから元来鞍掛山と呼ばれていましたが、現在では衣笠山の名で広く親しまれているとのことでした。1907(明治40)年に日露戦争の戦死者を慰霊するために整備された来歴を持ちます。公園からは横須賀をはじめ、横浜方面や東京湾への眺望が開けまして、満開のソメイヨシノと、しなやかな若草色の山林に抱かれた町並みとが、のびやかに目の前に展開していました。海と山が比較的狭い平地と傾斜地とをもって隣接し、そうした台地と低地とをなぞるように市街化が進展した横須賀の町並みは、水鏡のような東京湾に軽やかに向き合って、春本番の錦への中にゆったりとその身を委ねているように感じられました。

宅地にある桜

衣笠山公園へ向かう道路沿いの桜
(横須賀市小矢部四丁目、2016.4.4撮影)
衣笠山公園近くの菜の花

衣笠山公園近くの宅地に咲く菜の花
(横須賀市小矢部四丁目、2016.4.4撮影)
衣笠神社

衣笠神社
(横須賀市小矢部四丁目、2016.4.4撮影)
衣笠山公園

衣笠山公園のソメイヨシノ
(横須賀市小矢部四丁目、2016.4.4撮影)
衣笠山公園

衣笠山公園からの眺望
(横須賀市小矢部四丁目、2016.4.4撮影)
衣笠山公園

衣笠山公園から横須賀の町並みを望む
(横須賀市小矢部四丁目、2016.4.4撮影)

 春の雨の中、都心の千鳥ヶ淵から始まった今回の桜を訪ねるフィールドワークは、こうした桜をはじめとした生命をよみがえらせる雨水の柔和な佇まいに導かれながらの探訪であったように思います。冬に葉を落とした山々が春を迎えていっせいに葉を生長させて、山肌を瞬く間にさみどり色へと変化させる光景は本当にドラスティックで、その淡い緑色と桜色とが絶妙に交錯するグラデーションは、日本の春ならではの極上の色彩であることを改めて実感させました。その風合いは、地域が田園から都市へと大きく変わってもなんら変わることは無いのでした。


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