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昇仙峡周遊
〜奇岩と紅葉の渓谷を歩く〜

2019年11月16日、甲府市の昇仙峡周辺を訪れました。初秋の峡谷は木々も美しく色づいていまして、穏やかな青空の下に豊かな色彩を見せていました。
ロープウェイで到達した山上からは、富士山のシルエットを含め、壮大な眺望が開けていました。

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ページ設置:2021年8月3日

奇岩の峡谷を歩く 〜大地に刻まれる名勝の美〜

 2019年11月16日、まだ深夜のうちから地元を出発し、秩父方面を目指しました。秩父盆地を見渡すことのできる美の山公園で日の出を待ちました。晩秋から初冬にかけては秩父盆地では盆地全体を覆う霧が発生することが多く、この日の訪問もその光景を俯瞰することが目当てでのことでした。晴天で霧が生まれるには申し分の無い気象条件と思われましたが、この日は霧は限定的に生じたのみで、武甲山のシルエットの下、早暁の秩父盆地を見下ろす形となりました。いずれ濃霧に包まれた盆地の風景をこの目にしたいものです。見事に色づいたカエデの美しさを一瞥しながら、美の山公園を後にして、雁坂峠へと車を走らせました。

美の山公園

美の山公園から見た秩父盆地の早暁
(皆野町皆野、2019.11.16撮影)
美の山公園

美の山公園から秩父盆地の朝霧
(皆野町皆野、2019.11.16撮影)
長潭橋

長潭橋
(甲府市平瀬町、2019.11.16撮影)
昇仙峡

昇仙峡の風景
(甲府市上帯那町付近、2019.11.16撮影)
亀石

亀石
(甲府市上帯那町付近、2019.11.16撮影)
昇仙峡ライン

昇仙峡ラインの風景
(甲府市上帯那町付近、2019.11.16撮影)

 午前8時30分過ぎに、山梨県における有数の奇勝で知られる昇仙峡の入口である長潭橋(ながとろばし)に到着しました。まだ朝早い時間で、訪れていた人も未だ少なくて、早速渓谷沿いの車道へと進みました。観光シーズン中の5月から11月にかけてはこの道路は歩行者専用となるようでした。埼玉県との県境にまたがる奥秩父の金峰山を源流とする荒川が穿つ渓谷である昇仙峡は、特別名勝としては「御嶽昇仙峡」と呼ばれます。長潭橋から上流に位置する仙娥滝(せんがたき)までのおよそ5キロメートルにわたって、奇岩が連続する渓谷美が形づくられています。沈降が続く構造盆地である甲府盆地に流出する河川が大地を鋭く浸食してきた地形発達史をそのまま写す谷間を歩んでいきます。

 昇仙峡が観光地として脚光を浴びた歴史江戸時代後期と浅く、上流に位置する猪狩村(甲府市猪狩町)の人々が生活のために切り開いた新道(御嶽新道)がこの美しい渓谷に人々を惹きつける誘因となりました。渓谷道路から見下ろす木々は黄色からオレンジ色、そして赤に色づく途上にあって、早朝の未だ影の深い渓谷は、まさに幽境の静けさの中にありました。豊かな水流が洗う河床には名前のつけられた岩が多くあって、訪れる人々の目を楽しませています。亀岩やオットセイ岩、大砲岩など多様な命名がなされていました。崖上に突き出した岩にも名前がある場所があって、猿岩や大佛岩などが存在しています。歩くにつれて谷間にも日射しが差し込んできて、紅葉がいっそう鮮やかに日の光に照らし出されていきます。

昇仙峡

昇仙峡周辺の崖上の風景
(甲府市上帯那町付近、2019.11.16撮影)
昇仙峡

昇仙峡と紅葉
(甲府市上帯那町付近延、2019.11.16撮影)
天鼓林の紅葉

天鼓林の紅葉
(甲府市上帯那町付近、2019.11.16撮影)
五百羅漢

五百羅漢
(甲斐市千田、2019.11.16撮影)
羅漢寺

羅漢寺
(甲斐市千田、2019.11.16撮影)
羅漢寺境内

羅漢寺境内の紅葉
(甲府市上帯那町付近、2019.11.16撮影)

 その後も、松茸岩や柱状節理の形質を持つ五月雨岩など、岩の形をユーモラスに捉えた岩床を流れる渓谷の脇を進みます。屹立する岩肌は松や広葉樹の木々を豊かに纏わせていまして、雲一つ無い初冬の青空にそのスカイラインを隣り合わせています。川の流れは概して穏やかで、大小の岩が転がる河床を軽やかに水が流れているのがとても涼やかです。川が蛇行するその内側に、天鼓林(てんこりん)と呼ばれる穏やかな森がありました。森の中の限られた場所で足を強く踏みならすと地中から鼓のような共鳴音が響くとも言われているようです。ここでは一際多くのカエデの木がありまして、赤に黄色に美しく色づいて、木漏れ日を受け止めていました。

 天鼓林を過ぎますと、橋で川の対岸へ渡れる場所がありました。橋の先は右岸にある羅漢寺へと進むハイキングコースとなっていまして、そこは渓谷道路とは違った、土や岩の山道を辿る山林の風景を楽しめるようになっていました。五百羅漢が鎮座する羅漢寺は豊かに錦に染まる山を背にしていまして、紅葉の木々と針葉樹とが混交する初冬のしなやかさにそれは満たされていました。土産物店の集まる一角からは車道を逸れて川沿いの遊歩道へと進んでいきます。その先では、昇仙峡でも随一の景勝とされる覚円峰(かくえんぽう)が頭上に聳えているのを見ることができます。風化浸食された花崗岩の石塔状の岩で、それは高さおよそ180メートルもの規模を持ちます。この岩の頂で沢庵禅師の弟子である覚円が座禅を組んだとされることがその名の由来とされているとのことです。白い岩肌が木々に覆われ、その上にしなやかに輝く雲を浮かべる青空が包む景観は、爽快以外の形容が見当たりません。覚円峰を望む一帯は「夢の松島」と呼ばれ、巨岩が水に洗われる水辺近くまで歩いて行くことができます。

昇仙峡・覚円峰

昇仙峡・覚円峰
(甲府市高成町付近、2019.11.16撮影)


急流となる荒川
(甲府市高成町付近、2019.11.16撮影)
昇仙峡・石門

昇仙峡・石門
(甲府市高成町付近、2019.11.16撮影)
昇仙峡・仙娥滝

昇仙峡・仙娥滝
(甲府市高成町付近、2019.11.16撮影)
昇仙峡

昇仙峡周辺の山々の風景
(甲府市川窪町付近、2019.11.16撮影)
昇仙峡ロープウェイ

昇仙峡ロープウェイ内からの風景
(甲府市猪狩町付近、2019.11.16撮影)

 紅葉が美しい遊歩道を進みますと、巨石が覆い被さるように張り出す「石門」から、昇仙橋を経て、中国の神話に登場する女性・嫦娥のことを指すという仙娥滝(せんがたき)」へと導かれました。仙娥滝には滝壺にうっすらと虹が架かっていまして、まさに仙境にふさわしい優雅な光景が展開されていました。滝に沿った石段を上り、金桜神社の扁額が掲げられた鳥居をくぐりますと、土産物店や飲食店の並ぶエリアへと到達し、遊歩道はここで途切れます。このエリアにある昇仙峡ロープウェイに乗り、パノラマ台と呼ばれる山上を目指しました。


パノラマ台の風景、そして武田神社へ 〜甲州の初冬の空に魅せられる〜

 昇仙峡ロープウェイの仙娥滝駅から頂上のパノラマ台駅へ。荒川がつくる狭い渓谷と、それらを囲む山々が眼下に広がり、それらに包まれる荒川ダムの能泉湖がその風景に穏やかなアクセントを添えていました。南側には甲府盆地が細くたなびくように続き、そのパノラマ台からはわずかな面積が覗く盆地に覆い被さるように周囲の山々が迫る風景も、実に甲州らしい風情に溢れているように思われました。秀峰富士も優美な姿をその上に見せてくれています。

パノラマ台

パノラマ台より富士山を望む
(甲府市猪狩町付近、2019.11.16撮影)
パノラマ台

パノラマ台から甲府盆地を望む
(甲府市猪狩町付近、2019.11.16撮影)
パノラマ台

パノラマ台から八ヶ岳方向を望む
(甲府市猪狩町付近、2019.11.16撮影)
武田神社

武田神社周囲の堀
(甲府市古府中町、2019.11.16撮影)
武田神社

武田神社
(甲府市古府中町、2019.11.16撮影)
武田神社

武田神社・本殿
(甲府市古府中町、2019.11.16撮影)

 松を中心に頂上付近に茂る林の中の散策路を進みますと、やがて鎖が穿たれた岩場の上へと達しました。その上に注意しながら上りますと、甲府盆地を囲む富士山や南アルプス、八ヶ岳と、それらに続く山々がまさに壁のように地域を包囲する様子をくっきりと望むことができました。山々は針葉樹の割合が多いようで、その常緑の木々に埋もれるように広葉樹も秋色に染まっている様子も、季節の移り変わりを感じさせる極上の風景であるように思われました。そして、それらすべてを統括するような冬の伸びやかな青空と日射しは、どこまでもすがすがしく、そこまでも清冽でした。

 昇仙峡訪問の帰路には、甲府市街地北郊の武田神社に立ち寄りました。この神社は、甲州一帯を支配した武田氏の居館跡に建てられています。武田氏館は、別名「躑躅ヶ崎館」とも呼ばれ、武田信玄の父信虎が、1519(永正16)年に拠点を石和からこの地に移したことから始まっています。藩政期以降は現在の甲府城がつくられており、それまではこの場所が甲斐国の政治的な中心となっていました。現在でも境内の周囲には環濠が残されていて、往時を偲ばせていました。


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