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シリーズ・クローズアップ仙台
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#55 岩切の町並み 〜街道の分起点に位置する伝統的な町場〜 宮城野区の北部、利府町や多賀城市に程近い場所に岩切はあります。地域は概ね平坦で、七北田川が地域を東西に貫流しています。鶴ヶ谷団地の東側に接する部分のみ岩切一丁目〜三丁目として住居表示が行われています。近年は市中心部への利便性からJR岩切駅周辺の都市化が著しいようです。駅の北側では土地区画整理が進捗し、利府町・県総合運動公園方面から連接する都市計画道路も駅前まで完成していまして、商業機能の集積や機能的な駅前広場の出現などもあいまって、岩切としての地域の顔はこれら駅前のエリアへとシフトしつつあるようです。 東北本線の利府支線の分岐点でもある岩切は、利府町民バスも発着する交通の結節点としての性格もあります。土地区画整理により現代的な町並みが整えられつつあり、東西に地域を貫通する予定の都市計画道路が完成しますと、近隣エリアの中心地的な都市核のひとつとして、拠点性をも兼ね備えられる潜在性も期待されているようです。しかしながら、この岩切の交通結節点としての役割は、このような鉄道駅の存在や都市化の進展によって初めて生成されたものではなく、それよりずっとずっと前に遡ることができることは、存外気がつきにくいことであるのかもしれません。
私が本稿の文章を書くにあたりしばしばご紹介している、明治期から現代までの仙台の地形図がセットになった図集を紐解きますと、岩切には明治期には既に道路に沿った町場(「街村」と呼びます)が形成されていたことが理解できます。七北田川の南、今市と呼ばれる小字の街道に連接して直線状の町場が存在していました。岩切大橋によって七北田川を越える「利府街道」は戦後に完成した新道で、町場は今市橋へと続く旧道沿いに発達していました。古くからの街道筋がまさにこの今市地区に発達した街村でして、石巻方面に通ずることから「石巻街道」と呼ばれていました。 この石巻街道に加えて、今市橋の北詰で七北田川の流れに沿うように東西方向に通じている道路も昔ながらの街道筋で、東方へ続く道筋は塩竈街道と呼ばれました。現在では広復員の県道となっている道路ですが、八坂神社の南付近から県道から東南方向に分岐し、岩切大橋北詰の下をくぐり、岩切駅方面へと続く細い道路が旧街道筋に当たるようです。現在でもこの付近には古い町並みが残っておりまして、往時を偲ぶことができます。今市橋から南へ、七北田川を越えて今市の町並みを歩きます。
橋に近い一帯は主に自家用に供されていると思われる、たくさんの野菜が栽培された畑が卓越する風景でした。さらに周囲には広大な水田が広がり、ここが茫漠とした平地の中に計画的に作り出された町場であることを彷彿とさせます。伊達政宗の時代、兵藤大隅信俊なる人物がここに移り住み、新道を作り、新田を開発し、町場を割り出して、政宗より新町取立ての許しを得て、六斎市(1か月に6回市が開かれる定期市のこと)の立つ町場を完成させました。これが今日の今市の町並みの礎です。町人が足軽に取り立てられ、岩切は街道筋における賑わいのある町場として近世を生き続けました。今日では商店の少ない、一見して古い雰囲気が濃厚な住宅地域の印象です。しかしながら、時折歴史を感じさせる門構えの旧家があったり、長い塀の続く立派な敷地を有する民家があったりと、地域の交通の要衝として、市場の立つ町として、一定の中心性を有した地域の歴史を感じさせます。地域のほぼ真ん中に佇む耕田寺)は、地域の新田開発に寄与した足軽の人々の菩提を弔う寺院として建立されたとされ、地域の祖兵藤大隅の菩提寺でもあります。 しばらく街道筋の町並みを歩いた後、横道に入って家々の裏側方面へ徒歩を進めました。こんもりとした屋敷林を従えた町並みは、美田を後背地に抱えながら、いっそうの穏やかさ、美しさを感じさせました。その一方で、彼方に見える鶴ヶ谷の、丘陵いっぱいに開発された団地や、生産調整のために粗放的に植えられた枝豆が幅を利かせる水田の風景は、現在の仙台をある一面において象徴しているように感じられました。岩切は、先述の江戸期における新町の開発以前より、南北と東西の街道筋が交差し、七北田川の水運も活用できる要衝として拠点性を有していました。そうした歴史性を古くからの町並みの中に残しながらも、その拠点性は鉄道や幹線道路を主体とした交通体系の中に生き続けています。時の流れの中で変化する地域の中で、一貫して近隣地域の拠点的な性格を再生産すること、これが岩切という地域に運命づけられた、大いなる奇蹟であるのかもしれません。 |
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