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シリーズ京都を歩く

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17.緑風典雅の響 ~2016年京都・新緑の輝き~
第四十五段 東山、青紅葉の典雅 ~静を纏う緑風の鼓動~

 圓通寺からは国際会館駅前に戻り、東山山麓の白川通を経由するバスの乗り換え、錦林車庫前バス停で下車、秋の美しい紅葉で知られる真如堂を再び訪れました。真如堂は正式には真正極楽寺といい、真如堂は通称です。その名のとおり川底が白い砂で覆われる白河を渡り、丘陵上の真如堂を目指しました。

白川

白川の風景
(左京区浄土寺真如町、2016.5.7撮影)


真如堂の新緑
(左京区浄土寺真如町、2016.5.7撮影)
真如堂

真如堂・三重塔と新緑
(左京区浄土寺真如町、2016.5.7撮影)
真如堂

真如堂の新緑
(左京区浄土寺真如町、2016.5.7撮影)


真如堂・本堂と新緑
(左京区浄土寺真如町、2016.5.7撮影)
真如堂

真如堂・境内の新緑と夕日
(左京区浄土寺真如町、2016.5.7撮影)

  早朝の嵐山から行動を開始したこの日、真如堂に到着した頃には既に時刻は午後5時前となっていました。天気は日中はほぼ薄曇で推移していたものの、夕刻が近づくにつれて陽も徐々に射し込み始めて、空にはうっすらと青い部分も見えるようになっていました。黄昏へと進む山内では、多く植栽されているカエデの枝を揺らしながら、芳しい風がゆったりと吹き渡っていまして、それは初夏の風合いをいっぱいに含んでいました。984(永観2)年、延暦寺の僧・戒算が延暦寺の常行堂にあった阿弥陀如来像を東三条院藤原詮子の離宮に安置したことがこの寺の始まりとされます。応仁の乱による混乱を経て、1693(元禄6)年に現在地に再建されました。太陽の光線越しにきらめくようなカエデの葉は、筆舌につきしがたい輝きに溢れていました。本堂裏手のカエデの林や、三重塔の基壇を覆うように樹勢を伸ばすカエデの青は、訪れる人もほとんどない境内を渡る夕方の快い風に揺れて、やがて訪れる錦秋の端麗とはまた違った野趣を帯びていました。

 真如堂の新緑を噛みしめた後は、再び白川通方向に進んで通りを横断し、京都を象徴する観光地のひとつである哲学の道へと足を伸ばしました。東山に向かって緩やかに上る道を進み、琵琶湖疎水の分流に沿って整えられた哲学の道を歩きます。哲学の道に沿って少し北へ進み、疎水を渡った先にある法然院を訪ねました。法然院は「善気山法然院萬無教寺」と号する、浄土宗系の単立寺院です。法然が弟子の住蓮、安楽とともに六時礼賛を行った草庵を起源とし、ほとんど荒廃していたものを、1680(延宝8)年に知恩院の第三十八世萬無が、弟子の忍澂とともに念仏道場として再興しました。境内は東山の落葉広葉樹の輝かしい木々に抱かれながら、カエデなども植えられた森の中に佇んでいまして、より自然の只中に存立しているような穏やかさの中にあるように思われました。

法然院

法然院
(左京区鹿ヶ谷御所ノ段町、2016.5.7撮影)
法然院

法然院・山門
(左京区鹿ヶ谷御所ノ段町、2016.5.7撮影)
安楽寺

安楽寺・山門
(左京区鹿ヶ谷御所ノ段町、2016.5.7撮影)
霊鑑寺(谷御所)

霊鑑寺(谷御所)
(左京区鹿ヶ谷御所ノ段町、2016.5.7撮影)
哲学の道

哲学の道の風景
(左京区鹿ヶ谷桜谷町付近、2016.5.7撮影)
哲学の道から望む夕景

哲学の道から望む夕景
(左京区南禅寺北ノ坊町付近、2016.5.7撮影)

 法然院を訪れた後は、哲学の道よりも一段高い位置を通る法然院門前の市道を南に辿りながら、新緑に穏やかに包まれる寺院の山門を一瞥しながら、徐々に夕闇に染まりつつある東山の山懐を歩いていきました。安楽寺や霊鑑寺(谷御所)などが、石段の上に厳かに山門を向けていて、東山の山並みを背にして京都盆地を見守るようにしてある佇まいが印象的でした。再び哲学の道まで下り、カエデやソメイヨシノが美しい青葉を茂らせて水面にその影を落とす、初夏らしい風情に彩られた散策路をゆっくりと歩き、季節の移ろいを味わいます。西側に目をやりますと、眼下の町並みと夕日の茜色とが重なって、オレンジとグレーの見事なコントラストを浮かび上がらせています。疎水沿いの木々も夕日を浴びていっそうまばゆくはためいて、一日の時間の中で変遷していく青葉の典雅に息をのみました。

 哲学の道の南端近くの熊野若王子神社の境内で、白色の藤を観賞し、夕日に染まる東山を仰ぎ見て、永観堂(禅林寺)方面へ、黄昏の町並みの中を進む下り坂を歩きました。時刻は午後6時近くとなり、寺院の拝観時間は過ぎている時間帯でしたので、永観堂も門前の美しい紅葉の青を確認するだけでしたが、その新緑は、「秋はもみじの永観堂」として知られる名声そのまま鮮烈さを湛えていました。そして、日没間近の南禅寺へ。多くの参詣者を集める屈指の名刹も、日が落ちる時間帯を迎えて訪れる人影も少なく、境内を覆う新緑が著名な山門を豊かに装飾していました。命が萌える春から、成熟する夏へ、劇的に変貌する生命の輝きを象徴するかのような深緑の木々は、これまでも、これからも変わらぬ猛々しさとみずみずしさを備えてゆくのでしょう。

哲学の道

夕日に映える哲学の道の新緑
(左京区南禅寺北ノ坊町付近、2016.5.7撮影)
熊野若王子神社

熊野若王子神社
(左京区若王子町、2016.5.7撮影)
東山の照る夕日

東山に照る夕日
(左京区若王子町、2016.5.7撮影)
夕日に輝く町並み

夕日に輝く町並み
(左京区若王子町、2016.5.7撮影)
永観堂

永観堂門前のカエデ
(左京区永観堂町、2016.5.7撮影)
南禅寺

南禅寺・三門と新緑
(左京区南禅寺福地町、2016.5.7撮影)

 秋の紅葉への対比から、初夏の新緑の木々を指して「青紅葉(あおもみじ)」という表現が生まれて、定着しつつあるように思います。今回の京都訪問は、黄葉の名所と呼ばれる場所は当然に青葉の季節も美しいに違いなく、それをこの目で確かめたいという目的からの企図でした。嵐山から嵯峨野、洛中から洛北、東山へと及んだ今回の散策は、そうした期待を満足させるにあまりある風趣に溢れていました。梅香から桜花、そして青葉へ。季節の変化はしっかりと色彩のバトンを次代へ伝えて、京都の雅趣を演出していました。


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