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そして、近江路へ・・・


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#4 大津市街地を行く(後) 〜浜大津から唐橋へ〜

 疎水に沿って琵琶湖方向に歩いていきますと、程なくして京阪三井寺駅の近くへと到達します。京阪石山坂本線は三井寺駅を過ぎますと、浜大津駅のターミナルに到達するまでの間は車道を走る、いわゆる路面電車の形態をとります。付近は所々にマンションなどの中層建築物が建てられているものの概して低層の建物が卓越した住商混在地域といった様相です。その佇まいは現代の大都市圏内における高層化に象徴されるような都市化からは、相対的に隔絶された雰囲気で、昔ながらの下町的な風景とさえ表現してもよいような感覚を覚えます。犬矢来を備えた町屋風の建物も認められ、穏やかな花街的な伝統を持つ地域であったのかもしれません。

 やがて、左手に巨大な建物が目に入ってきます。「明日都浜大津」と呼ばれる再開発建物のようです。低層部分に商業施設や公共施設が入居し、高層部分はマンションとして供されるこの建物は、1998(平成10)年に「浜大津オーパ」を核店舗とする複合商業施設としてオープンしました。1981(昭和56)年に、石山坂本線と京津線で別れていた浜大津駅が現在の位置に移転・統合された際、旧京津線の浜大津駅の場所に建設されました(石山坂本線の駅は一般道を挟んで離れた位置で営業していたそうです)。現在の浜大津駅は、既に廃止された江若鉄道の浜大津駅の跡地を利用して建設されたとのことです。かつては国鉄もこの場所に路線を伸ばしていて、初代の大津駅も現在の浜大津駅の場所にありました。

浜大津

浜大津の町並み
(大津市浜大津二丁目、2007.12.14撮影)
明日都浜大津

明日都浜大津
(大津市浜大津二丁目、2007.12.14撮影)
浜大津駅前

京阪石山坂本線車両(浜大津駅前)
(大津市浜大津二丁目、2007.12.14撮影)
浜大津駅前

浜大津駅前、南方向(京津線方向)
(大津市浜大津一丁目、2007.12.14撮影)

 明日都浜大津を左に見ながら、正面に浜大津駅舎が見えてきます。右手(南)からやはり路面電車の形をとっている京津線の鉄路が入ってきて、京都市営地下鉄東西線に乗り入れる列車が入線してきます。駅舎と明日都大津、そして東側に立地するシネマコンプレックスとの複合商業施設・浜大津アーカスとを連接するペデストリアンデッキに躍り出ますと、駅を中心にゆったりとしたスペースを持つ商業施設や、連接して建つ中低層の商業・オフィスビル群などの集積性を見て取ることができます。高層建築物が少ない分、背後に横たわる山並みのスカイラインガ町並みを包み込んでいるようで、印象的な風景が展開されていきます。

 相対的に穏やかな市街地が形成された背景には、京都市中心部と直結しているものの、京都の圧倒的な中心性に集客面でやや劣勢になるなどの影響が、あるいはあるのかもしれません。京阪神圏との強固なアーバンネットワークを形成しているJR東海道線(琵琶湖線)沿線で中心性を高める膳所駅周辺等との競合関係もまた気になるところではあります。しかしながら、初代の大津駅がここに完成して以来、一貫して大津市街地における主要なターミナルとして継続してきた浜大津は、このまちにおける伝統的な中心市街地の一角を占めていることには変わりはないのではないかと思います。ペデストリアンデッキからは北に雄大な琵琶湖が展開します。大津港へもペデストリアンデッキからの通路が連結しており、今も変わらず湖上交通の中心としても機能しています。琵琶湖の水上交通の発達とともにあったこの地域のオリジンをも継承し続けているという意味においても、浜大津はかけがえのないものを内に秘めているといえるのかもしれません。

浜大津駅

浜大津駅より西方向を望む
(大津市浜大津一丁目、2007.12.14撮影)
大津港

大津港
(大津市浜大津一丁目、2007.12.14撮影)
唐橋西詰

唐橋西詰付近の商店街
(大津市唐橋町、2007.12.14撮影)
唐橋

瀬田の唐橋
(大津市瀬田一丁目、2007.12.14撮影)

 夕闇がいよいよ市街地に影を落とすようになる中、京阪線に乗車し、大津市街地をさらに東へ進みました。膳所、石山など個性豊かな町並みが展開する市街地は、行政的には滋賀県全体を統括する機能が集積する一方で、経済的には京都を中心とした京阪圏の影響を大きく受ける大津は、複雑な都市間関係の中で今日を迎えました。しかしながら、一時期都が移されるなど、歴史的にも重要な位置を占め続けてきた地域性はそうした都市機能における輻輳性のなかにあって、一際濃厚な色彩をこのまちに与えているように感じられます。

 新幹線が京都の駅に到着する前、瀬田川を渡るあたりで一瞬垣間見える大津の町並みは、美しい琵琶湖の姿と現代都市とが織り成す風景に代表されるごく一般的な印象を与えます。実際に歩いた大津の市街地はそうした一般的な要素に加え、琵琶湖や周辺の山々の佳景も手伝って、溢れるほどの歴史的地域性をアピールしてきます。のびやかな住宅地域を縫うように進む京阪電車を唐橋前駅で下車し、昔ながらの町屋が並ぶ穏やかな雰囲気の商店街を抜け、やはり重厚な歴史の積み重ねのある「瀬田の唐橋」へ向かいました。瀬田川のたおやかな流れにかかる瀬田の唐橋は、近江八景における「勢多(瀬田)の夕照」の情趣そのままの姿を見せながらも、現代都市の血流たるおびただしい自動車の波を流す現代都市のライフラインとしての機能もしっかりと果たしていました。


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