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そして、近江路へ・・・


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#5 石山寺界隈 〜水と緑と歴史に彩られる場所〜

 晩秋の石山寺は、晴天の秋空から放たれる目映いばかりの朝日に照らされた、とびきりの紅葉の輝きの中にありました。瀬田川の穏やかな流れを前に、緑に満ちた伽藍山の懐に鎮座する石山寺は、大都市圏近郊の住宅地域が展開するエリアの中にあっても一段と自然豊かな印象を与えています。

門前

石山寺・門前の風景
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
東大門

石山寺・東大門
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
参道

石山寺・参道
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
参道

石山寺・参道
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)

 透き通るような冷たさがかすかに頬をなでるような空気の中、真っ赤に染まったカエデに彩られた東大門をくぐり境内へと進みます。1190(建久元)年に源頼朝の寄進により建てられ慶長年間に大修理を施されたという大門(後述する淀殿の寄進に時を同じくして行われたもの)は、両脇に仁王像を従え、入母屋の屋根をいっぱいに広げて威容を見せています。
 
 紅葉が色づきつつある参道を歩いていますと、オレンジに染まった葉のバックにいまだ緑色を呈する樹冠が見事に重なって、石灯篭や石畳の続く風景がいっそう秋めいて感じられます。さらに奥へ向かい、本堂への石段を上りますと、石山寺の名の由来ともなった国の天然記念物「石山寺硅灰石(けいかいせき)」が隆起する一帯へと至ります。硅灰石は、石灰岩が地中から突出した花崗岩と接触しその熱作用によって変質したもので、石山寺に存在するものは特にその雄大さから1922(大正11)年に天然記念物の指定を受けたものであるようです。大地からほとばしるような奇岩の連続する姿は古来より目立つ存在であったことに違いなく、信仰のよりどころとなってきたのでしょうか。寺の縁起によれば、開基は747(天平19年)。761(天平宝字5)年)に伽藍が整備されたようです。以来、西国三十三所観音霊場の13番札所として多くの庶民の信仰を集めてきました。

硅灰石

石山寺硅灰石
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
石山寺

石山寺・紅葉
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)


石山寺・紅葉
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
多宝塔

石山寺・多宝塔
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)

 国宝の本堂や多宝塔、近江八景のひとつ「石山秋月」の舞台としての石山寺のシンボルである月見亭などの建造物を味わいながら、所々で燃えるような色づきを見せる紅葉を楽しみます。眼下に望む瀬田川の流れも実にのびやかです。木立の中に佇むようにして在る本堂は1078(承暦2)年の火災焼失後、1096(永長元)年に再建されたもので、滋賀県下最古の木造建築物とされます。正面7間、奥行4間の本堂と、正面9間、奥行4間の礼堂との間を、奥行1間の「合の間」でつないだ形をとっており、斜面に建つ礼堂は多くの柱で構造物を支える「懸造」となっています。この礼堂は1602(慶長7) 年に、淀殿の寄進により増築されたといわれています。

 もう一方の国宝である多宝塔は、源頼朝の寄進により1194(建久5) 年に建立されたとされ、日本最古の多宝塔であると目されています。下層は方形、上層は円形の平面に宝形造の屋根を載せた二重の構造をとっており、上下左右の広がりが美しく洗練され、均整のよくとられた建築であると評価されています。

月見亭

石山寺・月見亭
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
瀬田川

石山寺から望む瀬田川
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
本堂

石山寺・本堂の懸造
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)
瀬田川

瀬田川(石山寺門前付近)
(大津市石山寺一丁目、2008.11.22撮影)

 琵琶湖より唯一流出する河川である瀬田川は、よく知られているように京都府に入って「宇治川」と名を変え、大阪府では「淀川」となって大阪湾へと注いでいきます。古くから水運の動脈として開かれてきた淀川水系は古来より人の手による改変が多く加えられ、石山寺周辺の地域も歴史的事象の舞台となってきました。現代でも水田が卓越してきた田園風景が都市化により一変し、大都市圏近郊における住宅地としての色彩を強く帯びるなどの変貌を見せています。そうした趨勢の中にあっても、瀬田川の流れは変わることなく穏やかな水面を輝かせ、観音霊場として開かれた山々は極上の緑を絶やすことはありませんでした。そしてこの一時、秋ののびやかな青空の中で、この上ない鮮やかさを目の前に展開させていました。

 石山寺には、紫式部が訪れて「源氏物語」の着想を練ったという伝承が象徴するように、多くの文学作品にも登場する名刹でもあります。信仰の場は文人の憧憬の場として時代を経ることに昇華し、すがすがしい水と緑と光が織り成す風景に、味わいのある風雅をまとってきたのでしょうか。参拝後、瀬田川沿いに京阪石山寺駅へ続く道を戻り、石山駅にてJRに乗り換え、草津市方面へ向かいました。石山寺で感じた現代と歴史が交錯する素晴らしい地域の姿は、この先に続く近江路フィールドワークで目にすることとなる数々のドラマの序章となっていたのかもしれません。


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