Japan Regional Explorerトップ > 地域文・その他

風致と叡智の競演
〜2018年秋、立山黒部アルペンルートをゆく〜

 2018年9月18日、長野県扇沢から立山へと抜ける「立山黒部アルペンルート」を縦貫しました。この年最終運行を迎えていたトロリーバスをはじめ、黒部ダムから室堂へ、複数の乗り物を経由する行程は、秘境の開発に挑戦した叡智と、雄大な自然が作り出す風致と、存分に堪能できるものでした。
訪問者カウンタ
ページ設置:2020年4月25日

黒部ダムの偉容 〜幽境に建つ不撓の堤体〜

 2018年9月18日、初めての「立山黒部アルペンルート」の踏破のため、早朝の地元・太田駅を出発しました。高崎駅で新幹線で長野駅へ向かい、駅前からルート東のスタート地点となる扇沢(おうぎざわ)駅へ向かうバスに乗り込みました。この日は平日でしたが、バス停には乗車を待つ多くの人々の列ができていまして、満員の乗客を乗せたバスは、一路西へ発車していきました。北アルプスの山懐にある扇沢駅へ到着したのは午前10時過ぎで、そこでも多くの人々が、黒部ダムへ向かうトロリーバスを利用すべく、列をなしていました。事前にウェブ予約していた扇沢から立山駅までの通しでの乗車券を発券し、トロリーバスの発車を待ちました。

扇沢駅

扇沢駅
(大町市平、2018.9.18撮影)
扇沢駅・トロリーバス

扇沢駅・トロリーバス(現在は電気バスに転換)
(大町市平、2018.9.18撮影)
関電トンネル内

関電トンネル内をゆくトロリーバス
(2018.9.18撮影)
黒部ダム

黒部ダム
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
黒部湖

黒部湖
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
ダム工事に使用されたクレーンの土台

ダム工事に使用されたクレーンの土台
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)

 立山黒部アルペンルートは、長野県大町市に位置するここ扇沢から、まずは黒部ダムまでトロリーバスで向かい、ダムの堤上を徒歩で越えた後、地下をゆくケーブルカーで黒部平へ、そこからはロープウェイで大観峰、室堂へのトロリーバスの後は、高原バスで美女平へと進み、富山地方鉄道・立山駅へはケーブルカーで向かうという、一大観光ルートを指しています。このルートのうち、扇沢から黒部ダムへ向かうトロリーバスはこの年を最後に運行を終え、電気バスへの転換が予定されていました。そのため、トロリーバスのラストランとして、盛んにフィーチャーされていました(なお、同ルート内の大観峰から室堂の間を結ぶトロリーバスは日本で唯一の路線として運行中です)。扇沢から黒部ダムへ向かう約6.1キロメートルを約16分で結ぶトロリーバスは、黒部ダム工事のための輸送路としてつくられたトン年ルを利用しています。途中、黒部ダム建設の中での随一の難工事とされた破砕帯の箇所では、現在でも湧水が沸く様子(を見せる演出)が確認できました。

 トロリーバスで到達した黒部ダムを見下ろす風景はまさに壮観でした。堤体の主要部分はアーチ状を呈していますが、両端はダム基底の地盤が想定より弱かったため、ウイング部だけ重力式ダムとなっていることが、黒部ダムの特徴です。既に多くの著作がその偉業を称えているとおり、黒部ダムと発電所の建設事業は、高度経済成長期において断行された巨大プロジェクトの中でも指折りの規模と困難さを持つものでした。何人なりとも寄せ付けない、秘境中の秘境に完成したダムは、高さ186メートル、幅492メートルの規模を誇ります。峻険な峡谷の最上部、北アルプスや立山連峰をの間を穿つ谷間を埋める黒部湖の風景も秀麗で、ダムの上を歩きながら、その雄大なパノラマと、ダム構造物の大きさとを実感しました。日本列島の直下でプレートがせめぎ合い、隆起が続く中で黒部川が浸食を続けた山脈が見せる奇跡も圧巻でした。

虹が架かっていました

虹が架かっていました
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
立山連峰を望む

立山連峰を望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
黒部ダムの上を歩く

黒部ダムの堤体上を歩く
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
黒部湖を望む

黒部湖を望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
黒部ケーブルカー

黒部ケーブルカー
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
立山ロープウェイから大観峰を望む

立山ロープウェイから大観峰を望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)

 黒部ダムの上を歩ききりますと、地下の中を進むケーブルカーの黒部湖駅です。ここからわずか5分の所要で、黒部平へと到達します。駅の屋上の展望台からは、幽境の中に放り込まれたような、息をのむ山岳の景色を眺望できます。大観峰駅へと駆け上がるロープウェイが辿る山並みは想像を超えるスケールの迫力で目の前に迫りくるようでした。途中に一つも支柱が無い、日本最長のワンスパン式のロープウェイでその絶壁を跨ぎ、さらなる美景を目にすることができる大観峰へ。標高2316メートルの展望台からは、先ほどまで間近に見ていた黒部湖と北アルプス(後立山連峰)の峰々、反対側には大観峰の雄大な斜面を一望の下にすることができました。


室堂平から弥陀ヶ原へ 〜火山が作り出した高原の風光〜

 大観峰からは、立山連峰の直下を貫通するトンネルを行く立山トンネルトロリーバスを利用し、立山観光の中心である室堂平へと向かいます。室堂平は、火山活動によって流れ込んだ噴出物によって出現した山中の平原です。この日は輝けんばかりの秋空が全天を覆い尽くしていました。立山連峰もくっきりと眼前に広がり、氷雪によって浸食された、なだらかな山容をみせていました。立山連峰の主峰である雄山の頂には山荘と祠があるのがはっきりと見て取れまして、古来から多くの信仰を集める山岳霊場としての歴史も垣間見られました。

大観峰から黒部ダムを望む

大観峰から黒部ダムを望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
大観峰の風景

大観峰の風景
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
立山トンネルトロリーバス

立山トンネルトロリーバス
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
室堂平の風景

室堂平の夜桜
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
室堂平

室堂平、火山性の岩石が点在する
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
室堂平から立山連峰を望む

室堂平から立山連峰を望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)

 室堂平の中心には、水蒸気爆発による火口跡に水がたまってできたミクリガ池があって、高地の透明な空の青を水面に映しています。静謐な湖水は立山連峰の壮大な風景をそのままに落としていまして、清澄たる信仰の大地を極上の天上の楽園へと染め上げていました。室堂平では、幾星霜の時を超えて隆起し完成された立山連峰の美しさはさることながら、ミクリガ池をはじめとした透明感溢れる湖沼、そして現在進行形で火山活動を続ける地獄谷の荒々しい光景などを散策しながら観察することができまして、黒部ダムの工事を契機として観光ルートとしての整備が進んだ今を存分に探勝することができました。そうした佳景の中に、重要文化財の「室堂」が残されていまして、巡礼地としての立山の歴史を物語っていました。周辺の高原の地名へと転化した「室堂」は、元来はこの木造建築を指していまして、江戸時代より山小屋として供されてきたその簡素な佇まいに、幽境としての立山の歴史を感じさせていました。

 立山連峰は、我が国唯一の氷河を、その東斜面に残存させている極寒の地としても知られます。長年降り積もった氷の厚い層が山肌を削り、形成するU字状の地形はカール(圏谷)と呼ばれます。室堂からも、「山崎カール」と呼ばれる氷河地形を俯瞰することができます。遙か異国の「アルプス」と名付けられた中部山岳の山々が、その本家の姿そのままに目の前に広がる光景は、ここが我が国あって唯一無二の急峻な層巒の存在感を、何よりも如実に表現していました。高原を吹きゆく風は、空の輝かしさとは幾分その熱量を落とした爽快感に満ちていまして、地上とは隔絶された別世界に身を置いているということを改めて実感させました。

立山・雄山

立山・雄山
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
立山室堂

立山室堂
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
室堂・地獄谷

室堂・地獄谷
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
山崎カール

山崎カールを望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
ミクリガ池と立山連峰

ミクリガ池と立山連峰
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
ミドリガ池

ミドリガ池
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)

 室堂からは、一般車両の通行が規制されている立山有料道路を下る立山高原バスに乗り、雄大な立山山麓を進みました。いくつかのカーブを描きながら斜面を下るバスは、弥陀ヶ原(みだがはら)へとさしかかりました。ここでバスを途中下車し、広大な火砕流台地の高原である弥陀ヶ原を散策することとしました。冬季における豪雪がもたらす豊富な水と、夏でも冷涼で強風にもしばしば見舞われる気候の影響で、弥陀ヶ原は高層湿原のような環境になっていまして、夏から初秋にかけては湿原に多数の池塘が現れます。途中下車する際に、係員の方に次に来るバスへ乗車する予約を行い、バスが来るまでのおよそ40分の中で弥陀ヶ原を歩いてみることとしました。

 弥陀ヶ原を一周する散策路は、道路に近い部分でわずかな段差があるものの、平原内はほとんど平坦で、遙か室堂方面へ視界が広げる湿原内を爽やかに散策することができました。池塘が点在する木道の途中に、「ガキの広場」という場所があります。これは、立山信仰との関係で餓鬼が池塘で田植えをしたという伝承があり、池塘を「ガキの田」と呼ぶことに因んだものであるようです。湿原はだんだんと枯れ色に変化していまして、その草の影ではリンドウが咲き、ナナカマドも色づくものもあって、深まる秋を実感しました。

弥陀ヶ原

弥陀ヶ原の風景
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
弥陀ヶ原

弥陀ヶ原、色づくナナカマド
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
弥陀ヶ原のリンドウ

弥陀ヶ原、リンドウが咲いていました
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
称名滝

滝見台から称名滝を望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
立山駅

立山ケーブルカーから立山駅を望む
(立山町芦峅寺、2018.9.18撮影)
夕焼けの田園風景

夕焼けの田園風景(地鉄車窓より)
(立山町榎付近、2018.9.18撮影)

 再び乗車した立山高原バスは、途中称名滝を遠望する滝見台で一時停車した後、立山スギの巨木(仙洞スギ)を車窓に見ながら美女平へ到着、そこから立山ケーブルカーに乗車し富山地方鉄道(地鉄)の立山駅へと行き着き、同鉄道に乗り換えて富山駅まで進んでこの日の活動を終えました。ローカル色にあふれた地鉄の車窓からは、夕焼けの茜色に染まりゆく黄金色の田園風景を眺望することができました。



このページの最初に戻る

地域文・その他の目次のページにもどる     
トップページに戻る

Copyright(C) YSK(Y.Takada)2020 Ryomo Region,JAPAN