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東京優景 〜TOKYO “YUKEI”〜

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#49 “染井の里”を歩く 〜ソメイヨシノの「ふるさと」をめぐる〜 (文京区・豊島区・北区)

 2012年4月7日、満開を迎えていた東京の桜をめぐるフィールドワークに出かけました。この日は終始穏やかな陽気で、青空の美しい一日でした。午前9時過ぎに到着した駒込駅前も、みずみずしい桜色に包まれていました。駅からほど近い六義園でも、枝垂桜が見事な花を咲かせていました。ここが柳沢吉保が1702(元禄15)年に造園した大名庭園をその端緒としていて、明治期以降岩崎弥太郎の所有を経て東京市に寄贈され、現在は都立庭園となっていることは過去にもご紹介しているとおりです。

駒込駅前

JR駒込駅前
(豊島区駒込一丁目、2012.4.7撮影)
六義園・枝垂桜

六義園・枝垂桜
(文京区本駒込六丁目、2012.4.7撮影)
駒桜

駒込小学校内・駒桜
(豊島区駒込三丁目、2012.4.7撮影)
旧丹羽家腕木門

旧丹羽家腕木門
(豊島区駒込三丁目、2012.4.7撮影)
門と蔵のある広場

「旧丹羽家住宅蔵」と門と蔵のある広場
(豊島区駒込三丁目、2012.4.7撮影)
染井神社前の桜並木

染井稲荷神社前の桜並木
(豊島区駒込六丁目、2012.4.7撮影)

 駅の北側に、「染井吉野櫻発祥の里 駒込」と刻まれた表示板があります。かつての駒込は、豊島区から文京区にかけての範域を持っており、前者の豊島区内の駒込地域の一部は染井と呼ばれていました。この染井は、西に接する巣鴨と共に、江戸時代には花卉・植木の一大産地であったことが、その表示板には記されていました。前述の六義園(柳沢家下屋敷)のほか、付近には津藩藤堂家の下屋敷もあり、そうした大名屋敷に出入りする造園師や植木職人が染井周辺に集まって、サツキやツツジ、カエデなどを生産する「植木の里」となっていました。そうした染井で売り出され今や桜、ひいては日本を代表する花の一つともなっている花木が、ソメイヨシノです。エドヒガンとオオシマザクラの交配種であるソメイヨシノは、桜の名所吉野に因み「吉野桜」と名付けて取り扱われましたが、吉野山の桜はヤマザクラであることからそれと区別するために、染井の名を採り「ソメイヨシノ(染井吉野)」と後に命名され今日に至ります。

 駒込駅から本郷通りを挟んで反対側、山手線に面した位置にある大國神社の脇の路地を入り、駒込小学校方面へと進みます。小学校の南には、「門と蔵のある広場」と呼ばれるスペースがあります。そこには植木屋として活躍した旧丹羽家の腕木門(区指定有形文化財、前出の藤堂家から移設されたと伝わる)と蔵(国登録有形文化財)とがあって、当地の歴史を伝えています。この広場から小学校西側の染井稲荷神社、そして隣接する染井よしの桜の里公園にかけての一帯には多くのソメイヨシノが植栽されていまして、植木の里から都会の住宅地となった現在にあっても、櫻に彩られるのびやかな風景が広がります。小学校の校庭には、「駒桜」と呼ばれるソメイヨシノがあります。1952(昭和27)年に植栽された数本の桜のうち一本が成長したもので、後に児童会により駒桜と命名されたものであるとのことです。この地で脚光を浴び、全国に広がったソメイヨシノは、その「発祥地」でも地域の歴史を溶け込ませながら、やさしい桜色を春空に届けていました。

染井稲荷神社

染井稲荷神社
(豊島区駒込六丁目、2012.4.7撮影)
染井よしの桜の里公園

染井よしの桜の里公園
(豊島区駒込六丁目、2012.4.7撮影)
染井霊園付近の桜

染井霊園付近の桜
(豊島区駒込五丁目、2012.4.7撮影)
染井銀座

染井銀座商店街
(豊島区駒込六丁目、2012.4.7撮影)
旧古河庭園

旧古河庭園
(北区西ヶ原一丁目、2012.4.7撮影)
六義園枝垂桜・ライトアップ

六義園枝垂桜・ライトアップ
(文京区本駒込六丁目、2012.4.7撮影)

 染井霊園の桜を一瞥しながら、駒込地域を北に進み、昔ながらの地域の商店街として賑わいを見せる染井銀座から霜降銀座を抜けて本郷通りに到達、近傍の旧古河庭園へと至りました。その後はアークヒルズや千鳥ヶ淵緑道の桜とめぐりながら、夕刻再度六義園へ戻り、ライトアップされた枝垂桜を観賞しました。空が徐々に闇に包まれるにつれて、桜は闇夜にほとばしる噴水のようななまめかしさを見せて淡くきらめき、春の夜をつややかに演出しているように感じられました。

 江戸郊外の植木の里から全国へ広がったソメイヨシノは、その艶やかさや散り際の情趣もあいまって、日本の春を象徴する存在となりました。その発祥の地とされる駒込のソメイヨシノは、そうした全国区の花となった素振りはみじんも見せずに、あくまで地域をやさしく見つめる穏やかさの中に存立しているように思われました。

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