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点描千葉市とその周辺
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#13 市原市五井の風景 〜養老川沿い、京葉工業地帯を眺める〜 2016年11月26日、快晴のJR五井駅を訪れました。五井駅は市原市の代表駅として内房線内でも有数の利用客を集めています。市原市には「市原駅」という名前の駅はありません。市原市は、養老川の流域を範域とするかつての市原郡の地域をほぼ踏襲して発足しました。明確な中心地が存在せず、同一郡内の町村が並列的に合併したまちであったわけです。客観的に見て、現在の市原市における「中心市街地」として機能しているのは五井駅を中心とした地域ですが、ここに存在する駅が「五井」駅を名乗っていることも、そうした地域性を物語っています。
五井駅西口周辺の駅前商業地域を抜けて、五井大橋へと続く街路を進みます。五井は房総半島の西海岸を進む「房総往還」と呼ばれる街路上に発達した宿場町をその礎としています。明治期の地勢図を確認しても、現在の県道24号がほぼそれに比定される街道沿いに発達した市街地が描かれています。県道が町の入口で大きく鉤の手になっているのは地勢図と同じで、多くの宿駅や城下町などに見られる、防衛上の都市構造が現在まで存続しているのはとても印象的です。五井大橋の手前まで来ますと建物密度も粗放的になり、房総らしい穏やかな青空が頭上に大きく広がります。養老川の土手に出て、しばらく冬の透き通るような大空の下を歩きました。 養老川は房総半島の中部、外房海岸に近い水源から北へ流れて東京湾に注ぐ流域面積245.9平方キロメートルの、千葉県内でも有数の規模を誇る河川です。中下流域に広大な水田を形成している養老川の緩やかな流れの先には、臨海部の石油化学工場や火力発電所の煙突が多く屹立しているのを遠望することができました。房総半島のたおやかな自然そのままにゆったりとカーブを描く養老川の表情と、彼方にそそり立つ工業地帯の煙突から吐き出される白煙とが重なる風景は、高度経済成長期を経て大きくその姿を変えてきたこの地域の変遷を端的に表現しているようにも感じられます。潮見大橋をわたって西へ、かつての海岸線のラインをなぞるように進む国道16号を越え、京葉工業地帯のエリアへと足を踏み入れました。
本稿でも触れてきましたとおり、今回訪れている市原市を含む東京湾の沿岸地域は高度経済成長期以降、その遠浅な海岸が埋め立てられて、広大な石油化学工業地域へと変貌しました。筆者が小学校から中学校にかけて地理で教わった「石油化学コンビナート」と呼ばれる工業地域です。異なる生産工程を経る工場群が有機的に結びついて、特定の地域内で石油の精製から製品の製造までを一貫して行う業態を指します。広い敷地内に縦横に張り巡らされる配管と、巨大な体躯を青空に並ばせるプラントの群れ、そして雄大に天空へ身を乗り出すようにする煙突。低成長時代に入り、海外との競合などより変動的な産業環境に移行して久しい現在にあってもなお圧倒的な存在感を示す工場群は、火力発電所などの立地も相まって、多くの人々が結集し経済成長を牽引した現代史を愚直に物語っているように感じられました。 大規模な工場の間を行く道路をひたすらに進み、海辺の養老川臨海公園へ。緑豊かな公園に接し、市が運営する海釣り施設があります。施設の建物からは東京湾を間近に望むことができました。湾岸の工場群から東京湾アクアラインを経て横浜の遠景、そして東京から幕張にかけての沿岸を一望のもとに見渡すことができました。うっすらとではありましたが、富士山や東京スカイツリーも確認することができまして、東京都中心とした臨海部の今を確認しました。施設に設置されていた、俯瞰できる建造物や山岳などを風景のイラストに重ねて表現した表示には、東京スカイツリーやアクアラインは描かれておらず、それは、東京湾岸が直近の数十年間においても大きく変化してきたことを示していました。
工業地帯からの帰路、国道16号の養老大橋近くの卯の起公園の一角に、石油化学コンビナート建設の際に犠牲となった貝類の供養のために1969(昭和44)年に建立された「はまぐりの碑」があるのが目に留まりました。かつての内房の沿岸一帯は豊富な魚介類に恵まれた風光の地でした。天賦の恵みを失ってまで工業化に奔走した時代の激浪と、その豊穣の海を生活の舞台としてきた人々の葛藤とを、その日は何よりも語りかけているように感じました。 ※今フィールドワークは、JR東日本開催の「駅からハイキング」、「工場風景と東京湾を望む! 養老川河口沿いハイキング in 五井」に参加することにより実施しました。 |
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