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関東の諸都市・地域を歩く


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#92 千葉県の桜を訪ねる(前) 〜市川市・真間地区の桜〜 

 2015年4月3日、早朝に地元を出発した私は、午前7時40分に東京・半蔵門駅より千鳥ヶ淵へと向かいました。3月29日に満開を迎えていた桜はまだ多くの花を残していて、花曇りの空の下、早朝のまだ肌寒い空気の中で極上の桜色を水面に映していました。平日の朝は道行く人もまばらで、千鳥ヶ淵緑道の桜の下を、ゆったりと散策することができました。

千鳥ヶ淵

千鳥ヶ淵の風景
(千代田区北の丸公園、2015.4.3撮影)
千鳥ヶ淵の桜

千鳥ヶ淵の桜
(千代田区九段南二丁目、2015.4.3撮影)

 半蔵門駅から千鳥ヶ淵緑道を北へ歩き、靖国通りを経て九段下駅へ。そのまま数本の列車を乗り継ぎ、市川市の京成電鉄国府台駅へと進みました。国府台駅から松戸街道(県道1号)を経て弘法寺(ぐほうじ)へ向かい、真間川沿いを経て市川真間駅へを戻るルートを進みました。この一帯は2009年11月にも訪れていまして、この地域が古来は「真間の入り江」と呼ばれる内湾が現在の江戸川のあたりから深く切れ込んでおり、真間川の流れがそのかつての内海を跡づけるものであること、海に面する低地を見通す台地が展開するこの場所は豊かな風光で知られる歌枕の地であるとともに、また多くの文人墨客に愛されてきたことなどを紹介しています。現在では海岸線は遙か彼方となり、穏やかな住宅地の中にかつての勝景の名残ともいえる松林があって、往時の姿を彷彿させています。

 国府神社への石段を一瞥しながら北側の道路を東に入り、照葉樹に包まれた緩やかな坂道を上っていきますと、程なくして弘法寺の境内への参道へと到達します。境内の南側は台地末端部の斜面林が形成されていまいて、その中に植えられたソメイヨシノがいっせいに美しい花を咲かせていまして、芽吹き始めた若葉と、さわやかなグラデーションをつくっていました。弘法寺は、737(天平9)年、行基が真間の手児奈の霊を慰めるために建立した求法寺が始まりと伝えられます。時代が下り平安時代には空海が七堂を構えて真間山弘法寺とし、さらにその後天台宗に転じたとされます。鎌倉時代に日蓮の布教を受けて時の住持が日蓮宗僧との問答の末に、日蓮宗に改宗、多くの武将の寄進などもあって今日まで寺勢を維持しています。境内には伏姫桜と呼ばれる樹齢400年の枝垂桜があって、ソメイヨシノの桜路の並みに穏やかに包まれながら、そのしなやかな枝を春風にそよがせていました。

真間川

真間川
(市川市市川四丁目、2015.4.3撮影)
国府神社

国府神社への石段
(市川市市川四丁目、2015.4.3撮影)
弘法寺へ

弘法寺へ進む道
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)
弘法寺境内のソメイヨシノ

弘法寺境内のソメイヨシノ
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)
弘法寺

弘法寺
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)
弘法寺・伏姫桜

弘法寺・伏姫桜
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)
市街地俯瞰

弘法寺境内から市川市街地を見下ろす
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)
弘法寺仁王門

弘法寺・仁王門と若葉
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)

 台地の斜面を下る石段を進み、閑静な住宅街となっている参道を歩きます。前述の市川訪問の段でも言及している「真間の継橋」は、真間の入江が存在していた古代、国府台の地に下総国府があった当時に、上総の国府とを連絡する官道が市川の砂州を通っており、この入江の湾口にはいくつかの洲ができており、その洲から洲へ架けられた橋であると伝えられています。現在は住宅街の間に、朱塗りの欄干の小さな橋がモニュメントのように佇むだけです。しかしながら、この国府台から真間にかけての地が古代における地方政治の中心地であり、また海と台地とに抱かれた景勝地であったという歴史を思いますと、その小さな橋の存在がとてもかけがえのないもののようにも思えてきます。

 再び真間川のほとりに出て、東の下流方向へと川沿いを歩きました。川に沿ってソメイヨシノの並木が連続していまして、満開のその桜の帯は、とても華やかに、大都市近隣の住宅地域となった原価の町並みを彩っていました。いわゆる桜の名所と呼ばれるような、公園などに割拠して咲き乱れる桜は春の絢爛を体現するかのような圧巻の美麗を見せますが、こうした日常の住宅地や学校の敷地などに添えられるようにしてある桜もまた、実に質実で、慎ましやかな麗しさがあるように思います。人々の生活に寄り添い、多くの感動や安寧を与えながら、春の到来を告げる桜は、何物にも代えがたい地域の財産であるといえるのかもしれません。



弘法寺・仁王門への石段
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)


弘法寺参道の風景
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)
真間の継橋

真間の継橋
(市川市真間四丁目、2015.4.3撮影)
真間川沿いの桜並木

真間川沿いの桜並木
(市川市真間二丁目、2015.4.3撮影)
桜土手公園

桜土手公園
(市川市真間三丁目、2015.4.3撮影)
松並の見える市街地風景

松並の見える市街地風景
(市川市真間一丁目、2017.10.15撮影)

 かつて真間川に流入する用水路の土手に生育していた桜並木は、今日では住宅地の中にある小規模な遊歩道となり、ベンチや遊具などを設置した「桜土手公園」となり供用されています。周辺の家々の壁に迫るようにして花を咲かせるソメイヨシノの下を散策しながら、市川真間駅へと到着し、市川市における桜の訪問を終えました。市川真間駅へと進む途上で歩道に松の木が数本生じている箇所があり、砂州に青松の風景が卓越していたであろう彼の地の原風景を感じさせていました。

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