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仙境尾瀬・かがやきの時

 
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#2 2006年10月13日、秋の尾瀬を歩く(前編)

 尾瀬周辺では、観光シーズン中は指定車両以外の通行を禁止する「マイカー規制」が行われています。この日の入山口である鳩待峠(はとまちとうげ)へは国道沿いの戸倉で自動車を降り、乗合バスやタクシーにより向かいます。戸倉から鳩待峠まではおよそ20分の所要、運賃は片道900円となります。はじめは坤六峠を経てみなかみ町藤原方面へ抜ける県道を走り、峠への道はその中途で分岐します。ルートはカーブの多い狭い山道であり乗合バスでは少々気分が悪くなってしまうかもしれません。周囲の山々は少しずつ染まり始めていまして、紅葉もたいへん美しいエリアです。


鳩待峠〜山の鼻


 自宅を午前5時30分に出発、国道122号線から県道沼田大間々線経由で国道120号線に入り、片品村戸倉へ。このルートは近年大幅に道が整いまして、沼田市利根町の薗原ダム周辺が道幅が狭いものの、基本的には快適なドライブルートとなっています。村営並木駐車場(駐車料金は1日あたり1,000円)に駐車し、乗合バスを利用して尾瀬の入口、鳩待峠へ。気温は12〜3度ほどだったのでしょうか、朝方はかなり冷んやりとしました。念のためフリースと手袋を持っておりましたので、着用後出発しました。出発は午前7時44分。入口には外来植物の種を入れないよう泥を落とすマットが敷かれています。また入山者をカウントする装置も設置されています。青空の下、尾瀬ヶ原の入口・山の鼻を目指します。

 スタートがすでに峠ということもあり、山の鼻までは下り道です。ごく一部せりだした突出部をまたぐ恰好の場所もあるものの、鳩待峠に近いあたりにあるやや急な坂の部分を除けばほぼ全線にわたって木道が整備されています(写真3)。周囲は針葉樹と落葉樹が混在する穏やかな山林です。時々西の方向が開けますと、至仏山のたおやかな姿を望むことができます(写真2)。途中、「人間が通行していることを知らせてあげましょう」、というメッセージが添えられた鐘が設置されているところがありました。その周辺はちょっとした湿地帯となっていまして、初夏にはミズバショウも見られる場所です。熊の出没しやすい場所なのでしょうか。周辺はカエデの仲間の木々が多く、色づいた梢がさんさんと降り注ぐ朝日に輝いていました(写真4)。気持ちのよい林の中を歩くこと45分、木道は川上川の流れを越えます(写真5)。周辺はひときわ紅葉した木々が多くてたいへん鮮やかです。ここからは道は平坦となり、あまり歩くことなく山の鼻へと到着できます(写真6)。

鳩待峠

(1)鳩待峠出発(7:44)
至仏山を望む

(2)至仏山を望む(7:56)
鳩待峠〜山の鼻

)緩やかな坂道を下る(8:04)
差し込む朝日

(4)山に差し込む朝日(8:17)
川上川

(5)川上川をわたると山の鼻はすぐ(8:28)
山の鼻

(6)山の鼻に到着(8:30)

※各写真キャプション後ろのカッコ内は撮影時刻です。尾瀬散策の目安にしてください。


山の鼻〜牛首分岐〜竜宮

 山の鼻地区にはビジターセンターをはじめ、数軒の山小屋があります。山の鼻地区は北に広がる尾瀬ヶ原へのまさに入口となる一方、一旦湿原へと足を踏み入れますと、次にトイレ等の休憩施設があるのは竜宮であり、歩いて1時間程度を要することになります。尾瀬ヶ原へ向かう前に山の鼻でしっかりと休憩・準備を整えましょう。山の鼻の西側には「植物研究見本園」と呼ばれる一角があります。湿原の一部に尾瀬の植物を集めた散策路でして、一周約40分の散策で尾瀬の多くの植物を見ることができるのだそうです。

 小休止の後、尾瀬ヶ原へ進んでいきます。尾瀬ヶ原はほぼ平坦な高層湿原です。湿原の只中を一筋の木道が延びていきます。東方向正面には燧ケ岳のややごつごつした姿が、また反対正面西側には至仏山のなめらかな山容が眺められます。まっすぐで平らな道ですので、ゆっくりと無理なく進むことができます。ただし先に紹介した竜宮までは木陰ひとつない木道です。東屋のような施設も一切ありません。晴れた日は日差しがきついですので注意が必要ですね。雨宿り等もできませんので、雨合羽等の準備が必要なこともあるでしょう。

 山の鼻付近は川上川や猫又川などの流れに沿った拠水林がありまして、湿原と林と山並みとが並びあう景観を楽しめます(写真7、8)。至仏山も間近で、けっこう迫力があります。東電小屋方面の木道が分かれる牛首分岐までは、草紅葉が鮮やかな湿原と、木々をまとった小さな流れとが交互に訪れます。朝早いこともあって逆光気味の燧ケ岳も見えてきます(写真9)。横たわった牛が首を突き出しているような山容から名づけられたのでしょうか、湿原に張り出した牛首と呼ばれる丘陵の手前には、上田代と呼ばれる池塘群があります。ここは燧ケ岳と湿原を写真に収めるには絶好のポイントの1つです(写真10)。天気がよければ水面に燧ケ岳が写りこむ“逆さ燧ケ岳”が見えることがあります。牛首分岐には材木でしつらえられたベンチが比較的多数設置されています。牛首分岐は山の鼻と竜宮とのほぼ中間地点です。ゆずりあいながら、ここで休息をとりましょう。

山の鼻付近

(7)山の鼻付近の尾瀬ヶ原(8:35)
至仏山

(8)山の鼻付近、至仏山も間近に望める(8:40)
燧ケ岳シルエット

(9)上田代手前、燧ケ岳のシルエット(8:44)
上田代

(10)上田代、“逆さ燧ケ岳”観覧ポイント(8:53)
牛首分岐

(11)牛首分岐にて至仏山・牛首を望む(9:04)
中田代

(12)尾瀬ヶ原のハイライト、中田代(9:17)
草紅葉

(13)竜宮手前、輝かしい草紅葉(9:31)
竜宮目前

(14)竜宮は目前(9:37)

 秋の尾瀬は二度目です。前回は十月も下旬の訪問でかなり肌寒くて、湿原の色も見頃を過ぎてこげ茶色にくすんでいました。今回は秋晴れのすがすがしい天気のもと、ほんとうに輝かしい草紅葉を観ることができました。背後のゆるやかな稜線の山々も赤に黄色に染まり始めていまして、山裾にたなびく木立の色彩とあいまって、気持ちのよい秋のグラデイションをつくっていました。湿原を渡る秋風が湿原の草をさざなみのように揺らしながら、秋のやわらかな光がその穂波を返してみせます(写真13)。牛首分岐と竜宮の中間くらいに、木道が北方向に分岐しているところがありますので、その方向に折れてみましょう。数分歩きますと、尾瀬ヶ原最大の観覧スポットの1つ、中田代へと至ります(写真12)。至仏山をバックに、ゆるやかに流れる川のほとりに咲き乱れるミズバショウ、尾瀬の観光ポスターに必ずといっていいほど採用されるあのアングルは、ここ中田代から撮影したものです。

 中田代を過ぎますと、燧ケ岳のシルエットの袂に、木立が並んでいるのが見えてきます(写真14)。尾瀬沼から流下する沼尻川が形成する拠水林です。その手前、木道が交差するポイントが目指す竜宮です。山の鼻から尾瀬ヶ原をひたすら歩いて、やっとたどり着く木陰と休憩場所です。山小屋やトイレもありますので、しっかりと休んでいきましょう。みずみずしい空気をたっぷりと含んだ周りの林は、紅葉のデコレーションを纏いますととてもきれいです。沼尻川を越えると、福島県となります。次の目的地、見晴へ向けて歩を進めてまいりましょう。


竜宮〜見晴

 竜宮を出発し、森のような沼尻川の流れを越えますと(写真15)、再び広大な湿原地帯へと入っていきます(写真16・17)。至仏山ははっきりと眺められるものの次第にその姿は小さくなり(写真19)、目の前には燧ケ岳がだんだんとその存在感を増してきます(写真18)。燧ケ岳はもともとは富士山と同じように整った円錐形の山だったところに、南側から側噴火が生じて、現在のような複雑な形の山となりました。見晴は燧ケ岳の山裾と湿原との境界付近に発達した森林帯の中に位置しています。尾瀬では最も多くの山小屋のあるエリアの1つで、尾瀬ヶ原と尾瀬沼との中間に位置していることに加え、富士見峠・アヤメ平方面や平滑ノ滝・三条ノ滝方面へ向かうルートの交差点ともなっていることから、多くのハイカーが宿をとる場所となっています。竜宮と見晴の間の湿原は竜宮までのそれよりはやや小ぢんまりとしながらも、周囲の山並みや木立とのコントラストが絶妙です。ちょうどこのあたりを歩いていた頃、一時的に雲が広がって日が翳りました。日差しが減りますとその分体感温度も下がります。気温はおよそ14〜5度であったと思われますが、10月下旬、私が最初に訪れた秋の尾瀬は、正午でも気温0度という寒さでした。尾瀬は長時間歩くことを強いられるエリアですので、いざというときのためにもこの季節は防寒の備えも不可欠であると思いますね。

 再び太陽の光が覗いてきますと、草紅葉の輝きも復活してきます。手前は翳っていても、遠くの方は日がさしていることもあって、その対照が美しく見えたりもいたします。草紅葉は光の加減によって微妙にその色彩を変えながら、豊かな味わいを見せてくれます。尾瀬ヶ原を歩きながら、そのようすをめいいっぱい堪能し、さわやかなトレッキングができました。湿原の中の十字路、見晴が次第に迫ってきます。六兵衛堀と呼ばれる流れとその拠水林のつくる木々の群れを抜けますと、燧ケ岳はいっそう大きく見えてきます。木々が穏やかに紅葉し始めていた見晴へは午前10時過ぎに到着できました(写真20)。鳩待峠を出て約3時間の道のりでした。草紅葉や木々の紅葉目当てに、見晴では多くのみなさんが休憩を取っておられました。私もここで早めの昼食をとることにいたしました。山小屋で買うカップラーメンとコーヒーがここ数年来の定番になっております。持参してきていたおにぎりとともにおいしくいただきました(おにぎりの包装のみでなく、カップラーメンの空き容器も荷物に入れて下山しました)。見晴はその名のとおり湿原の様子を見晴らすことのできる場所です。その景観をしばし眺めておりました。見晴で尾瀬ヶ原とはお別れとなります。ここから尾瀬沼まではやや急な坂を含む山道となります。

沼尻川

(15)竜宮・沼尻川にかかる橋(9:50)
竜宮〜見晴

(16)竜宮〜見晴の湿原(南方向、9:52)
草紅葉と木の実

17)湿原の草紅葉と木の実(9:53)
燧ケ岳と見晴

(18)燧ケ岳と見晴を望む(10:01)
至仏山の眺め

(19)竜宮〜見晴からの至仏山の眺め(10:05)
見晴

(20)見晴に到着(10:12)


後半へ続きます。
 
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