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仙境尾瀬・かがやきの時
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#12 夏の尾瀬ヶ原一周、花に溢れる風景 2014年6月14日、初夏の花が随所に咲いている尾瀬ヶ原を訪れました。この日は日光・中禅寺湖へも訪問予定であったため、山ノ鼻から見晴へ抜けた後は、尾瀬ヶ原北の東電小屋からヨッピ吊橋、牛首分岐へと戻り、鳩待峠へ至る尾瀬ヶ原周回ルートを辿りました。曇りベースの天気でしたが、幻想的な雰囲気の湿原では、数多くの花が咲いていまして、訪問者を楽しませていました。 靄にけむる湿原、初夏を飾る花々 みずみずしさに溢れた新緑に包まれる鳩待峠の周辺は、その鮮やかな色彩とは対照的な曇天の下にありました。山荘前の広場の一角には雪の塊が残されていまして、尾瀬が通り抜けてきた厳しい冬の態様を伝えていました。美しい木々の緑の下、アカヤシオやオオカメノキが方々で花を咲かせる山中の木道をゆったりと下っていきます。
ミズバショウはやや盛りを過ぎていまして、山ノ鼻のビジターセンター手前の群生地は既にいきいきとした葉が旺盛に生育している状態でした。木道沿いに毎年咲いているシラネアオイも健在です。晴天であれば望むことのできる至仏山は生憎見ることはできませんでしたが、空を覆う雲はいっぱいの水分を含んで、この森にこの上ない活力を与えているようにも感じられます。大地から森、水流、湿原そして空へ、有機的につながる自然の姿をまさにあらわしているかのような、清々しい空気に包まれる気分に浸りながら、山ノ鼻へ。尾瀬ヶ原へと繰り出しますと、木道周辺にはニリンソウをはじめ、リュウキンカやオオバタチツボスミレなどが花弁をほころばせていまして、夏の湿原を色鮮やかに照らしていました。 湿原の場所によってはミズバショウがまだ純白の花をいっぱいに残している場所もありました。湿原を流下する小川やその周辺の水分を多く含んだ地面を埋めるように咲くミズバショウの群落は、緑色の湿原を染め抜く白い帯のように、どこでも彼方へ続いているように見えました。タテヤマリンドウの水色の可憐な花や、桃色の小ぢんまりとしたヒメシャクナゲも所々に咲いていまして、尾瀬の花の季節を盛り上げていました。チングルマの花もあちこちに咲いています。牛首分岐経て、周囲の山並みから湿原まで、どこまでも美しい緑色が穏やかなさざなみをつくる湿原の只中を進みます。至仏山のビューポイントである下ノ大堀川での小休止では、清冽な下ノ大堀川の流れの向こうに鎮座する至仏山は、山肌に残すわずかな雪を見せながら、その頂を乳白色の空へと浸していました。
下田代から見晴、東電小屋からヨッピ吊橋を経て尾瀬ヶ原の北縁を歩く
竜宮小屋から沼尻川の拠水林の緑を楽しみながら川を渡り、福島県内へ。下田代の湿原は心なしかまだ枯草の呈する黄白色の部分が緑の隙間に見え隠れしているようにも見えます。沿道にはタテヤマリンドウやチングルマ、ワタスゲが随所に認められまして、目を楽しませています。目の前に見通せるはずの燧ケ岳はぼんやりとしかその山容を見せていませんでしたが、その靄が周囲の山々をも静かに覆っていまして、幻想的な風景をつくっていました。日が昇るにつれて徐々に空の高いところには雲間に青空が見え始めていまして、少しずつ湿原がその本来の輝きを取り戻しつつあるようでした。木道のそばに見慣れない白い花びらを持つかわいい花を見つけて写真に収めました。後日確認し、それがミツバオウレンの花であることが分かりました。 見晴で少し休息して尾瀬ヶ原の風景を眺めた後、三条ノ滝方面への木道を進みます。左は拠水林の森を彼方に眺めながら歩を進めるごとにさまざまに表情を変える下田代の湿原、右手は燧ケ岳の山裾を埋める美しい森というロケーションを歩いていきます。およそ800メートルの道のりで、東電小屋方面への木道の分岐点へと到達します。ここからさらに先にある赤田代に因み、「赤田代分岐」と通称される交差点です。分岐を折れて西南に歩きますと、程なくして只見川に架かる橋へと差し掛かります。豊かな森を従えた流れはふんだんに水を運んでいまして、やがて大河となる川の風格を感じさせます。尾瀬の水はこの川に集約し、日本海へと進みます。地球を循環するエネルギーが豊かな水流を育み、多くの生命を支えている、そうしたサイクルのほんの一部が目の前に、川の流れに現出しているということを思いますと、人間の存在の小ささを改めて実感します。この橋から東電小屋のある一角は尾瀬ヶ原の中でもわずかに新潟県域が入り込む場所になります。森に抱かれるような東電小屋のまわりでは、タネツケバナやオゼタイゲキの花を見つけることができました。
東電小屋を過ぎて、湿原の北を流下するヨッピ川に架かるヨッピ吊橋を渡ります。この吊橋に到達する前までには再び群馬県域に入っています。ヨッピ川も雪解け水をいっぱいに溶け込ませて、大地を潤していました。吊橋の袂からは竜宮小屋方面へも木道も分岐しています。この頃までにはだいぶ空も明るさを取り戻していまして、至仏山や燧ケ岳の山容もだんだんと見通せるようになっていました。ここから牛首分岐までは、右手に間近に迫る山並みの緑を見やりつつ、左手から前方に広大な尾瀬ヶ原の風景を観ながら快いハイキングを進めていくことができます。青い空と雲を水面に映す池塘もほんとうにすがしくて、時間を経るごとに光量を増す日光に湿原もその輝かしさを取り戻していきます。タテヤマリンドウも温かい日差しを小さな花びらにいっぱいに受け止めて、その瑠璃色を宝石のように湿原に散りばめさせていました。 牛首分岐からは山ノ鼻へ、元来た道を戻ります。朝方は目視することができなかった至仏山ははっきりと目の前に見えるようになっていました。朝の7時20分に鳩待峠を出発し、尾瀬ヶ原を一周するようにめぐり、午前11時30分過ぎに山ノ鼻へ帰着する行程の中で、湿原は靄にけむる幻想的な光景から徐々にその霧のヴェールをはがしていき、見事に輝きを取り戻す、劇的なショートフィルムを完成させて見せてくれているかのようでした。山ノ鼻から鳩待峠へ山道を登り、この日の尾瀬散策を終えました。
尾瀬には多様な散策ルートがあって、季節ごとに、そして1日の時間ごとに、刻々と変わる風景を楽しむことができます。この日は雄大な尾瀬ヶ原を一周する道筋を行きましたが、その彷徨は湿原を彩る花々に見送られながら、変化する湿原と周辺の山々を存分に感じるものとなりました。それは自然が織りなす豊かで崇高な物語のほんの一瞬を切り取ったものであるにすぎませんでした。 |
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