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仙境尾瀬・かがやきの時
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#16 鳩待峠から山ノ鼻へ 〜美しい森に囲まれた尾瀬ヶ原への道〜 2017年6月17日、「初夏」の尾瀬を訪れました。平地では入梅後の仲夏へ向かう時季となりますが、周囲を2,000メートル級の山々に囲まれた高層湿原である尾瀬では、春から秋の時間が短いため6月中旬以降から徐々に夏の気配が強くなります。ミズバショウが見頃を迎える季節ともなることから、尾瀬を訪れる人々が多いシーズンでもあります。例年訪れている鳩待峠から山ノ鼻に入り尾瀬ヶ原を縦断、尾瀬沼から大清水へ抜けるルートを辿りました。本稿では、そのルートのうち、尾瀬ヶ原へのアプローチとなる、鳩待峠から山ノ鼻にかけてのルートを中心にご紹介します。 鳩待峠からヨセ沢へ 尾瀬ヶ原への入山者の多くは、鳩待峠から出発します。尾瀬ヶ原への距離が約3.3キロメートルとアクセス性に優れるほか、登山ルートも階段や木道などが整備されている区間が大半を占めていまして、容易に尾瀬ヶ原へと到達することが可能なためです。尾瀬の入山シーズン(5月中旬から10月上旬にかけて)は、県道63号から鳩待峠へ分岐する津奈木から先の区間はマイカー規制が行われるため、片品川沿いの戸倉地区にある駐車場に車を止めて、乗合バスや乗合タクシーを利用し鳩待峠へ向かうこととなります。鳩待峠への所要はおよそ35分です。車窓から、小さな流れや木々の緑が織りなす美しい風景を観覧させながら、山あいの狭い道路をバスは進んでいきます。
以前は鳩待峠休憩所や鳩待山荘前の広場まで車両が乗り入れていましたが、現在はバスやタクシーは手前に整備された駐車場までの運行となっていまして、駐車場から少し歩いて広場まで進むこととなります。鳩待峠は尾瀬ヶ原の西端に位置する山ノ鼻へ向かうメインルートであるほか、東へ進めばアヤメ平へ、西へ入れば至仏山へと、それぞれ進むことができる、尾瀬の代表的な玄関口です。なお、5月上旬から6月いっぱいまでの残雪期は、植生を保護するため至仏山への登山道は閉鎖されています。この日は抜けるような快晴の朝で、周囲の山々は鮮やかな新緑で溢れて、山肌に残雪を残す至仏山もたおやかな山容を見せていました。登山口に設置されたマットで靴底の種子を除去し、尾瀬ヶ原へ向かって歩を進めます。 登山口からしばらくはやや急な下りとなります。鳩待峠は太平洋側と日本海側とを分ける稜線上、いわゆる中央分水嶺上に位置します。登山道が辿る谷筋は、日本海へと注ぐ阿賀野川水系の支流只見川の最上流部にあたり、太平洋側に県域の主要部を持つ群馬県にあって、数少ない日本海側の水系に属する範域となります。登山口から間もなくは滑りやすい岩が敷き詰められたような階段になっていまして、降雨直後などは滑りやすくなっているので注意が必要です。急な石段から木道に変わりますと、東側から大きめの沢が流入して木道を横切ります。ヨセ沢の流れは鳩待峠から1.1キロメートル、山ノ鼻からは2.2キロメートルの位置にあたり、山ノ鼻までの行程のちょうど3分の1ということになります。西側に目を向けますと、木々の間から時折至仏山の山容を眺望することができます。オオカメノキやムラサキヤシオなどの初夏の木の花も目にすることができます。清涼な小川の流れを越えて、木道をさらに進んでいきます。 テンマ沢湿原、朝日の射す森 ヨセ沢を過ぎますと、ルートは徐々に急峻さがなくなり、新緑の森に抱かれるような快い木道の上を歩くようになっていきます。ミズバショウの季節はまだ残雪も少なくなくて、木道上に雪が残っていることはほとんどないものの、傍らにはわずかに融けていない雪の塊があることもあり、尾瀬の冬の厳しさを実感します。鳩待峠の標高は1591メートルでヨセ沢渡河点が1470メートルで標高差が120メートルであるのに対し、山ノ鼻の標高は1400メートルです。倍の距離を約半分の標高差で踏破することになるので、足許に気をつけさえすれば、ほぼ快適な散策を楽しむことができる区間です。
広葉樹と針葉樹が混交する高地の緑はとても鮮やかな色彩を呈していまして、長い冬の季節を越えて一気に活力を解放させているようなきらめきに満ちているように感じられます。標高が下るにつれて川上川がつくる谷の周辺の山肌が間近に迫って、川上川のせせらぎも耳に入るようになっていきます。場所によっては西側がその谷に切り立つようになっている場所や、木道に大きな岩がせり出すようになっている箇所もあります。また、木道の側には薄紫色の可憐な花を付けるシラネアオイが決まって生育している場所もあり、そこは植生保護のために近年は囲いがなされています。さらに歩を進めていきますと、テンマ沢の穏やかな流れが森を潤したその先に、小さな湿原が現れます。テンマ沢湿原と呼ばれるその場所は、鳩待峠から尾瀬ヶ原へ向かう際に最初に到達することのできる湿原です。 テンマ沢湿原にはたくさんのミズバショウがあって、瑞々しい森の下、とてもかわいらしい花を咲かせる様子を観察することができます。尾瀬のミズバショウといいますと、大空の下、湿原に咲く白い花序というのが一般的なイメージであるように思います。テンマ沢湿原では、周囲が優しい早緑色の色彩で染まる森の中で、さわやかにミズバショウが咲いていまして、山あいの小さな湿原に春の訪れを告げる、ミズバショウのもう一つの一面を見つめることができるわけです。早朝に鳩待峠を出発しますと、この山上のささやかな湿原に到着する頃にちょうど朝日が差し込んできます。東側の森から差し込む木漏れ日がミズバショウの湿原を照らす光景は、えも言われぬすがすがしさが漲っていました。
テンマ沢湿原を越えますと、川上川の流れが同じ高さに寄り添うようになって、再び至仏山の姿が目に入るようになっていきます。川上川の橋を渡り、木立の下を進む木道を歩いて行きますと、程なくして山ノ鼻へと行き着きます。山ノ鼻はビジターセンターがあって、尾瀬ヶ原を中心としたエリアにおける花の情報や、木道の状況などを確かめることができます。山ノ鼻には3つの山小屋やキャンプスペースもあり、尾瀬ヶ原へ向かう多くの人々にとって、その準備を整える拠点となっています。 2017年6月17日・尾瀬の風景
ルート紹介として、鳩待峠から山ノ鼻までの風景を記してきましたが、この日は尾瀬ヶ原から尾瀬沼を経て大清水までの踏破を行っています。以下に、その過程で撮影した写真をご紹介します。
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