Japan Regional Explorerトップ > 地域文・関東甲信越地方 > 関東の諸都市地域を歩く・目次

関東の諸都市・地域を歩く


#89(奥日光編)のページ

#91(白岡編)のページへ→

#90 秋の見沼田んぼを歩く 〜田園にさいたま新都心を望む風景〜 

 2014年9月28日、この年の初夏に訪れていた「見沼田んぼ」の秋の風景を確認しようと思い立ち、自家用車をさいたま市へと走らせました。この日訪れたのは、度々訪問している見沼代用水東縁に沿ったエリアではなく、よりさいたま新都心に近い見沼代用水西縁の近く、芝川流域に形成された樹脂状の低地をまず目指しました。この一帯は舌を伸ばしたように広がる大宮台地を細く侵食した低地が連続する地形となっていまして、見沼田んぼと総称される稲作地帯の一角を構成している場所です。

見沼田んぼ

見沼田んぼと台地上の住宅地域
(さいたま市見沼区上山口新田、2014.9.28撮影)
見沼田んぼとさいたま新都心

見沼田んぼから見た首都高速・さいたま新都心
(さいたま市見沼区上山口新田、2014.9.28撮影)
見沼田んぼと首都高速

見沼田んぼと首都高速
(さいたま市見沼区上山口新田、2014.9.28撮影)
さいたま新都心を望む

刈り入れが終わった田とさいたま新都心
(さいたま市見沼区上山口新田、2014.9.28撮影)

 首都高速埼玉新都心線の高架が芝川に沿って伸びる足元を、広大な水田が東西に細長く広がっています。大地の麓に沿ってゆるやかにカーブする道から眺めますと、低地を埋めるように茫漠とした範域を広げる水田が実に爽快に目に入ります。刈り入れが終わった田は刈り取られた稲の根元が等間隔に並んでやがて訪れる冬を予感させ、収穫を待つ稲穂は黄金色にきらめいて、実りの秋をしなやかに体現していました。遠景にはさいたま新都心のビル群が広々とたなびく稲の海の上に島のように屹立しています。さいたま新都心から東へわずか2.5キロメートルほどの場所に、江戸時代の新田開発以来守られてきた美田が輝きを見せる姿は、稲作とともに風土を育んできたわが国の歴史をそのまま投影しているように感じられました。

 水田を眺望した後は、台地上に上がり地域を概観しました。現在は住宅地域となっている台地上は、元来水を得にくい地勢であることもあり、雑木林や畑地、小規模な集落がまばらに点在する場所であったと思われます。キンモクセイが香しい香りを漂わせる中、住宅地の中に緑豊かな境内を持つ円蔵院へ。建立年代は定かではないものの、開山の法印隆景僧都が1405(応永12)年に死去していることから、室町期より存続する寺院であるようです。参道脇に屹立する大銀杏は高さ23メートル、幹回り4.7メートルの堂々たる大木で、見沼田んぼの低地帯からも見上げられる、地域のランドマーク的な存在であったことでしょうか。現在は周囲が都市化されてその景色も移り変わっていますが、その銀杏の木の大きさに、沼沢地から水田、そして大都市圏近傍における住宅地域へと姿を変えた地域を変わらず見守ってきた懐の深さを感じました。

コスモスと水田

コスモスと刈り入れ後の田の風景
(さいたま市見沼区上山口新田、2014.9.28撮影)
円蔵院

円蔵院
(さいたま市見沼区中川、2014.9.28撮影)
円蔵院

円蔵院と大銀杏
(さいたま市見沼区中川、2014.9.28撮影)
台地上の住宅地景観

台地上の住宅地景観
(さいたま市見沼区中川、2014.9.28撮影)

 見沼代用水西縁周辺の美しい田園風景を確認した後は、見沼田んぼを横断して見沼代用水東縁に沿って立地する見沼自然公園へ移動し、周辺の田んぼの景観も確かめることとしました。田植えの季節、初夏の太陽を湛えた水面いっぱいに受けて、この上ない光彩に包まれていた見沼田んぼは、猛々しい夏を越えて蓄えたエネルギーを極上の秋色へと昇華させて目の前にその成熟した姿を見せてくれていました。用水路の土手には彼岸花がいっせいに花開いており、豊穣の光に包まれる水田を祝福しているかのように赤いヴェールをほころばせていました。台地上の雑木林も徐々に落葉の季節へと進む静かさを秋風にしみこませるようにささやいて、「はさ」に干された稲穂の束はやわらかな秋の日射しをたっぷりと受けていました。

 大都市圏に程近い都市的エリアを至近に控えながら、広大な水田と雑木林とが織りなす昔ながらの風景を今に残す見沼田んぼは、今日もその豊かな伝統を残しながら、、この秋も素晴らしい秋の色どりを見せてくれていました。見沼代用水東縁に沿った「緑のヘルシーロード」を辿りながら、時折土手を下りて水田に近づいて、のびやかに頭を垂れた稲穂の質感をこの目で確かめました。そして、藩政期における新田開発の前まではこの低地に大きく水面を張り巡らせていた「見沼」の風景を想像しました。

稲穂

「はさ」に干された稲穂
(さいたま市緑区上野田、2014.9.28撮影)
見沼田んぼ

彼岸花と水田(見沼代用水東縁付近)
(さいたま市見沼区加田屋二丁目付近、2014.9.28撮影)
見沼田んぼ

見沼田んぼと台地斜面林の風景
(さいたま市見沼区加田屋二丁目付近、2014.9.28撮影)
見沼代用水東縁

見沼代用水東縁
(さいたま市見沼区加田屋二丁目付近、2014.9.28撮影)

 近年の農業を取り巻く情勢もあり、見沼田んぼのエリアの一部では耕作が存続していなかったり、畑地や花木の栽培地となっていたり、他の商品作物の作付が認められたりといった状況も散見されます。そうした場所を目にしながらも、なお水田地帯としての輝きを持ち続ける見沼田んぼの今を、存分に確かめることができました。

#89(奥日光編)のページ

#91(白岡編)のページへ→

関東を歩く・目次へ    このページのトップへ    ホームページのトップへ

Copyright(C) YSK(Y.Takada) 2017 Ryomo Region,JAPAN