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仙境尾瀬・かがやきの時

 
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#7 尾瀬ヶ原から三条の滝、そして尾瀬沼へ

 
2009年6月14日午前6時15分、尾瀬ケ原の入口である鳩待峠に入りました。鳩待峠へは車道が通じていますが、例年観光シーズンはマイカー規制がなされており、この日も戸倉の駐車場に自家用車を置き、乗合バスでアクセスしました。朝靄の中、尾瀬ケ原へ向け出発します。この日のコースは、山ノ鼻、竜宮、見晴から沼尻へ抜けて尾瀬沼を経て大清水に至るいつものコースに加え、湿原の北に位置する三条ノ滝を訪れるやや長めのルートとなっています。

鳩待峠から山の鼻、牛首分岐を経て竜宮へ


 鳩待峠から尾瀬ケ原へ向かう拠点である山ノ鼻へはゆるやかに下る山道を歩きます。朝早い時間帯のため、新緑に覆われた木々の緑はみずみずしい空気を伴っているようで、快い山歩きを楽しむことができます。川上川のせせらぎも清涼感に溢れて耳に届きます。新緑の中にはオオカメノキやアカヤシオなどの花も咲いており、この季節ならではの出会いもあります。山ノ鼻に近づくにつれて陽が昇り始めて、木々の間から朝日が射しこんでくる森もまた、朝早い時間帯でしか味わえない神々しさが感じられます。ガスに覆われていた空は山ノ鼻につく頃までには晴れて、尾瀬ケ原へ歩みだす頃には青空に変わっていました。

 この時期の尾瀬ケ原は、一面の緑豊かな湿原とかわいらしい花々との共演が魅力であることは筆を執るまでもないでしょうか。ミズバショウはやや盛りを過ぎており多くが葉だけの状態となっていました。しかしながら、それ以外の花々は自然の織り成す緑や空の青に呼応するかのように穏やかな色彩を見せていまして、春から夏へのつなぎの色をたおやかに演出していました。タテヤマリンドウ、ヒメシャクナゲ、ワタスゲ、ミツガシワ、リュウキンカなどが代表的で、ズミやレンゲツツジ、チングルマなどの木本の花々や、食虫植物のモウセンゴケの株も見かけました。 

鳩待峠

鳩待峠を出発
オオカメノキ

オオカメノキ
アカヤシオ

アカヤシオ
朝日の森

森に朝日が差し込む(鳩待峠〜山ノ鼻)
チングルマ

チングルマ(研究見本園にて)
ミズバショウ

ミズバショウ(研究見本園にて)

 西に残雪の見える至仏山、東に空に溶け込むように佇む燧ケ岳を見ながら進む風景と、湿原周辺の山々の緑、湿原に生じた数々の池塘、湿原を横切る流れとそれに寄り添う拠水林、それらのすべてが尾瀬ケ原という舞台の上で極上の輝きを見せていました。山ノ鼻から東へ、牛首分岐を経て概ね平坦な木道を歩く部分は、尾瀬ケ原のまさにハイライトです。初夏の焼けるような日差しの下輝きに満ちた草原のような姿、早朝沸き立つ霧が徐々に晴れて光量を増す凛とした姿、草紅葉が透き通るような亜麻色を呈するさざなみのような姿・・・。そして目にしたことのない白銀の中すべてを覆い尽くす凍てつく大地そのものの姿とともに、地球が旅する命のサイクルの一片にその都度遭遇しているような、そんな壮大な気持ちにさえ行き着ける道程であるように思えます。

 山ノ鼻から見晴へとほぼ直線的に続くメインルートからそれて行き着く、下ノ大堀川を介して至仏山を眺められる場所で休息します。至仏山のたおやかな山容ににしばし心踊らされながら、こんこんと流下する水のうるわしさに、成熟しつつある草原の緑の鮮やかさに、目を向ける時間は本当に至高のひと時です。メインルートに戻り、群馬・福島の県境にもなっている沼尻(ぬしり)川手前の拠水林帯にある竜宮に到着します。いつもは東進して間近の竜宮小屋を過ぎ見晴へと進んでいましたが、今回は交差点を左(北北西方向)に行って東電小屋方面へ歩いていくこととします。

ヒメシャクナゲ

ヒメシャクナゲ
タテヤマリンドウ

タテヤマリンドウ
尾瀬ケ原

池塘と湿原と山々が織り成す尾瀬ケ原の風景
モウセンゴケ

モウセンゴケを見つけました
燧ケ岳

池塘と燧ケ岳が見える風景(牛首付近)
至仏山

至仏山(下ノ大堀川から)


<参考>
 鳩待峠〜山ノ鼻〜牛首分岐〜竜宮 約7.5km
 鳩待峠出発 6:18   山ノ鼻到着 7:00 (研究見本園を20分程度散策) 牛首分岐到着 7:58 竜宮到着 8:34
 (私が当日実際に歩いた時間です。参考にしてください)


竜宮〜ヨッピ吊橋〜赤田代〜三条ノ滝〜見晴

 多くのハイカーが行き過ぎる山ノ鼻〜竜宮〜見晴のメインルートから折れますと、木道周辺の植生がより身近に感じられるように思います。リュウキンカやミツガシワの花や、ワタスゲの綿毛が実に生き生きとして目に映ります。左手に至仏山を引き続き仰ぎながら、右手に沼尻川沿いの拠水林の上に頂を覗かせる燧ケ岳を見やりながら、青空の下光に溢れる湿原の木道を進みます。やがて牛首分岐からやってくる木道と合流しますと、程なくしてヨッピ川に架かるヨッピ吊橋へと至ります。

 ヨッピ川という、どこかかわいらしい語感の名前は、一説にはアイヌ語で、「呼び」「別れ」「集まる」といった意味があると言われているのだそうです。幾筋もの支流が合流し集まる川というニュアンスを含むものとも解されているようで、このことは古くより人々が通う場所であったことを想起させるようで、一気にタイムスリップをしてきたような思いに駆られます。悠々と水を運ぶヨッピ川の流れに悠久の時間の蓄積を感じながら木道をさらに進み、東電小屋の前を通り、沼尻川を東電尾瀬橋で越えますと、至仏山はいよいよ小さくなり、燧ケ岳の山体を間近に感じるようになります。見晴からのルート合流し、温泉の鉄分を含み赤く見えることから「赤田代」と呼ばれる湿原を北へさらに歩きます。山小屋のあるあたりからは湿原に別れを告げ、ヨッピ川と沼尻川が合流して只見川となった川のつくる渓谷にそった山道へと変わります。

リュウキンカ

リュウキンカ
ミツガシワ

ミツガシワ
ワタスゲ

ワタスゲ


湿原と拠水林(沼尻川)
ヨッピ吊橋

ヨッピ吊橋
ヨッピ川

ヨッピ川

 木の根が剥き出しになっていたり、大きな岩場を鎖を頼りに降りたりといった山道を苦労して進んできますと、平滑ノ滝(ひらなめのたき)を見下ろす展望台へとたどり着きます。展望台といっても、人工の構造物があるわけではなくて、滝の直上にある天然の岩肌の上から滝を眺めるといった格好の場所です。一枚岩の岩盤上を文字通り滑り降りるように流れ落ちる滝は、新緑の森の中をひときわ爽快な空間へといざなっているかのようです。

 平滑ノ滝からさらに起伏の激しい山道を降り、三条ノ滝へと進む山道を折れて急な下りの山道をひたすらに進みます。尾瀬の水を一身に集め、その天の力を一気に放出しているかのような豪快さを見せる三条ノ滝展望台に辿り着く頃にはかなり体力を消耗してしまい、しばし瀑布のすさまじい水しぶきに心と体を預けるように休憩しました。三条ノ滝から平滑ノ滝の横を通り赤田代までは元来た上りの道を戻ることとなります。文章ではさらっと書いていますが、沢を渡る部分あり、数日前からの天候によってはかなりのぬかるみを呈する場所あり、大きな岩肌を這うように進む場所ありと、一般的な尾瀬のイメージとは対極をなすような険しい山道の往復となります。万全の装備と余裕のある踏破計画をもって臨みましょう。

赤田代

赤田代
平滑ノ滝展望台

平滑ノ滝展望台
平滑ノ滝

平滑(ひらなめ)ノ滝
三条ノ滝

三条ノ滝
山道

小さな沢を渡る(赤田代〜三条ノ滝)
レンゲツツジ

見晴付近、レンゲツツジ

 赤田代からは木道をそのまま南へ歩いて、見晴の山小屋エリアに進みました。ここで休憩をとり、尾瀬沼方面へ進んでいきます。
 

<参考>
 ○竜宮〜ヨッピ吊橋〜赤田代 約4.3km
 竜宮出発 8:34   ヨッピ吊橋通過 8:54 赤田代到着 9:39
 ○赤田代〜平滑ノ滝〜三条ノ滝 約1.8km
 平滑ノ滝到着 9:53  三条ノ滝到着 10:36
 ○三条ノ滝〜平滑ノ滝〜赤田代〜見晴 約3.5km
 平滑ノ滝通過 11:28 赤田代通過11:40 見晴到着 12:02
  (私が当日実際に歩いた時間です。参考にしてください)



見晴〜尾瀬沼〜大清水

 見晴から白砂峠を越えて沼尻に至り、大江湿原から尾瀬沼湖畔へ、三平峠を経て大清水へと向かうルートは、これまでのヴァーチャルツアーでもご紹介してきている道程となります。見晴周辺は広葉樹(ブナなど)に覆われた大変心地よい森の中を進む山道です。木道が整備されている区間もある一方で、沢を超える場所やぬかるみが生じる場所がある峠越えであるため(段小屋坂;だんごやざか)、十分に時間を取りながら、緑に囲まれたゆたかな色彩を楽しむ気持ちで進むとよいと思いますね。

 標高が増すにつれて針葉樹(オオシラビソなど)も混交するようになり、かすかに聞こえる沼尻川の水音と相まって、より安らぎに満ちた風景に出合えるルートであると思います。ただ、白砂峠付近はややきつい上りとなりますので、一歩一歩を着実に記しながら、体に負担をかけないよう歩く必要もあるでしょうか。白砂峠を越えると反対に岩の頃がる旧坂を急速に下って一気に白砂田代の湿原へと至ります。この白砂田代をはじめ、尾瀬沼北岸は針葉樹の森と沼の入江に発達した小規模な湿原とが交互に続く、トレッキングには楽しい道筋です。沼尻休憩所で峠を越えてきた疲れを癒しながら、尾瀬沼のなめらかな水面や燧ケ岳の雄々しい姿を目に焼きつけて、時折ひっそりと咲いているタテヤマリンドウなどの花々などを愛でつつ、自然の中の散歩を心ゆくまで楽しみましょう。

ズミ

ズミの花(見晴付近)
至仏山

見晴付近から眺める至仏山
段小屋坂

緑に溢れた山道(見晴〜沼尻)
段小屋坂

段小屋坂、オオシラビソの混じる林
白砂湿原

白砂湿原
沼尻

沼尻付近の尾瀬沼

 尾瀬沼ビジターセンター周辺は、尾瀬ヶ原東の見晴エリアとともに多くの山小屋が集積する場所です。福島県側から入山する道筋にあり、また盛夏にはニッコウキスゲの大群落が輝きを放つ大江湿原に近い場所であることから、シーズン中は多くの登山客が認められる場所です。尾瀬沼の静かなたたずまいと燧ケ岳のごつごつした男性的な風貌が、茫漠とした湿原に総括される尾瀬ケ原とはまた違った魅力となっています。沼の北岸から東岸は起伏が少なく、ほぼすべてにわたって木道が整備されているので、そうした尾瀬沼の風景を楽しみながら、心を落ち着かせて歩くことができると思います。

 大清水へのルートの入口となる三平下で十分に休息をとって、大清水までの長い長い踏破に備えます。ここからは再び急峻な山道と、山道が終わった後の延々と続く未舗装の砂利道とがおよそ5.5kmも続く道のりとなります。三平峠までは比較的緩やかな上り、三瓶峠を越えてからは急激な下りの山道の連続となります。私は尾瀬沼からの下りでしかこのルートをとったことがありませんが、もし大清水からこの坂を登るとなったら、あまり体力に自信がありません。それほどの傾斜の山道を下っていくこととなります。



木々の間に尾瀬沼を望む(沼尻〜尾瀬沼VC)
大江湿原と燧ケ岳

大江湿原と燧ケ岳
尾瀬沼とミズバショウ

尾瀬沼と成長したミズバショウの風景(尾瀬沼VC〜三平下)
三平峠

三平峠
大清水へ

険しい山道を進む(三平峠〜大清水)
大清水へ

未舗装の道路(一ノ瀬休憩所〜大清水)

午後3時20分、ようやく大清水の登山口まで到着しました。大清水から戸倉方面への路線バスの最終便は午後3時50分発ですので、なんとか間に合う形となりました。ほぼ青空と穏やかな気候に恵まれた尾瀬探索は、湿原と滝、沼や森、多くの川といった尾瀬の多様な自然に触れ合うことのできる、極上のネイチャリングとなりました。

<参考>
 見晴〜沼尻〜尾瀬沼ビジターセンター〜大清水 約14.8km
 見晴発 12:23   沼尻到着 13:15   尾瀬沼VC到着 13:48   大清水到着 15:20
 (私が当日実際に歩いた時間です。参考にしてください)

 
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