Japan Regional Explorerトップ > 地域文・その他

仙境尾瀬・かがやきの時

2005年7月、福島、群馬、新潟の3県にまたがる高層湿原・尾瀬を歩いてきました。台風一過の快い空の下、かがやきにあふれた尾瀬が展開していきました・・・。


<特集>
 時間を追って尾瀬の散策を楽しめる「ヴァーチャルツアーシリーズ」です。ぜひご覧ください。

尾瀬ヴァーチャルツアー#9」(2014年6月14日撮影) ・・・仲夏の尾瀬。尾瀬ヶ原一周と花々を中心に。
尾瀬ヴァーチャルツアー#8」(2013年9月21日撮影) ・・・仲秋の尾瀬。草紅葉が始まった尾瀬。未紹介の場所も含めて紹介。
尾瀬ヴァーチャルツアー#7」(2011年9月10日撮影) ・・・初秋の尾瀬。本格的な草紅葉の前の季節を撮影。
尾瀬ヴァーチャルツアー#6」(2010年6月6日・7月24日撮影) ・・・春のミズバショウと夏のニッコウキスゲ。アヤメ平再訪。
尾瀬ヴァーチャルツアー#5」(2009年9月26日撮影) ・・・初秋の尾瀬と草紅葉。尾瀬沼の南岸を辿りました。
尾瀬ヴァーチャルツアー#4」(2009年6月20日撮影) ・・・初夏の尾瀬や花々を特集。三条ノ滝・平滑ノ滝へ進んでいます。
尾瀬ヴァーチャルツアー#3」(2008年6月14日撮影) ・・・初夏の尾瀬や花々を特集。アヤメ平へも足を延ばしています。
尾瀬ヴァーチャルツアー#2」(2007年6月16日撮影) ・・・初夏の尾瀬を特集。花々の写真に重点を置いています。
尾瀬ヴァーチャルツアー#1」(2006年10月13日撮影) ・・・秋の尾瀬に迫ります。ルート紹介に重点を置いています。
尾瀬ヶ原と至仏山

尾瀬ヶ原と至仏山
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)
大江湿原と尾瀬沼

大江湿原と尾瀬沼
(福島県檜枝岐村、2005.7.28撮影)
訪問者カウンタ
ページ設置:2005年12月30日

2005年7月28日、尾瀬は過ぎ去った台風の置き土産で雲ひとつない晴天のもとにありました。尾瀬は、群馬県の地域や風土を題材とした「上毛かるた」では「せ」の札で取り上げられ、“仙境尾瀬沼花の原”と詠まれています。仙境とは、まさに仙人の住むような俗界を離れた景勝の地のこと。標高およそ1400メートルに、約760ヘクタールにわたって展開する尾瀬ヶ原は、2000メートル級の山々に囲まれたまさに別世界 ということなのでしょうか。ミズバショウをはじめとした四季折々の植物たちが可憐な姿を見せる湿原、それらのみずみずしい草原をたおやかに見下ろす緑の峰々のすがすがしさ、点在する池塘や小川の水のきよらかさ、そして天空の恵みがそのまま舞い降りてきているかのような屈託のない空。尾瀬を巡る道程はそのような慈恵を満喫しながらのものとなりました。

尾瀬ヶ原を歩く

 尾瀬では観光シーズン中に一般車両の進入を禁止するいわゆるマイカー規制を行っており、2005年からはその日数がさらに増やされました。群馬県側からの登山口の1つである鳩待(はとまち)峠へは国道沿線の戸倉から乗合タクシーやハイヤーなどを利用します。鳩待峠からの登山道は比較的緩やかな坂道で、木道や階段なども十分に整備されていますので、はじめて尾瀬に来る方にとってもたいへん歩きやすいルートです。新緑を過ぎて成熟した鮮やかさのまぶしい木々の間からは時折なめらかな女性的な山容が美しい至仏山の姿も垣間見られます。川上川のせせらぎを聞きながら、鳩待峠からの尾瀬ヶ原の入口・山ノ鼻に到着しました。ここから牛首分岐、竜宮を経て見晴まで向かうルートが尾瀬ヶ原のメインルートとなります。さわやかな夏の陽射しの下、湿原、山々、空はいっせいにとびきりの輝きをみせていきます。尾瀬をわたる風は夏の爽快さそのままに、真っ白な光のスペクトルを内包させているかのような透明感あふれる色を呈しています。

鳩待峠〜山ノ鼻

鳩待峠〜山ノ鼻より至仏山を望む
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)
ノアザミ

ノアザミの花
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)
至仏山

尾瀬ヶ原より至仏山を望む
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)
燧ケ岳

尾瀬ヶ原、池塘と燧ケ岳
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)

 尾瀬の代名詞ともいえるミズバショウは花期をとうに過ぎて、黄緑色の大きな葉をいっぱいに伸ばして地に張り付いていました。それに変わり、木道の周辺にはさまざまな花を見ることができました。正確に名前を調べられないのですが、ノアザミやヤマユリ、ホタルブクロなどが小さいながらもそれぞれに野趣あふれるかわいらしさを見せていました。牛が伏して湿原に向かって首を下げているようにも見える牛首からは、東電小屋方面への木道が分かれていきます。このあたりまで来ますと、尾瀬ヶ原を東西から見守る2つの山の姿がくっきりと、穏やかに見えるようになっていきます。仏に至る山と書く至仏山は最初にも書きましたとおりゆるやかな山容が美しい、女性的なイメージの山です。標高1700メートル付近を境として上方は蛇紋岩、下方は花崗岩で形成されているこの山は、その地質的な特質に合わせるように森林は中腹までで消え、山の上半分は草本を中心とした植生に覆われています。至仏山と尾瀬ヶ原を挟んで反対、東の方向に見える燧ケ岳は、対照的にごつごつした稜線を持つ山です。円錐状の火山に側噴火が生じて溶岩ドームが発達したことから複雑な山容が形成されたとのことです。竜宮へ向かう途中、池塘に燧ケ岳の姿が映りこんでたいへん晴れやかな風景が展開する場所があります。クリアな輝きと緑に彩られた燧ケ岳の姿に酔いしれました・・・。

 竜宮小屋に近づくにつれて、山吹色が輝かしいニッコウキスゲの群落が目立つようになってきます。中田代から望む至仏山は、尾瀬を代表する風景として知られています。ポスターなどに使用される写真も多くはここで撮影されたもので、残雪輝く至仏山をバックにミズバショウが咲き乱れる風景は多くのハイカーを尾瀬に惹き寄せています。沼尻川を越えて福島県に入ると、燧ケ岳はいっそう間近に、緑に満ちた頼もしい姿を見せるようになります。沼尻川がたわむれる森の向こうには、至仏山のたおやかな姿も寄り添っています。木道の両側の花々もそれぞれに個性的な色彩を見せていまして、草原を渡る風に、大地に降り注ぐ夏の陽射しに、豊かな微笑を返しています。燧ケ岳の裾、見晴の小屋街に到達し小休止をとりました。見晴から尾瀬沼にかけてはしばらく山道が続きます。 

牛首と至仏山

牛首と至仏山
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)
見晴と燧ケ岳を望む

見晴と燧ケ岳を望む
(福島県檜枝岐村、2005.7.28撮影)
竜宮付近

竜宮付近の尾瀬ヶ原
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)
中田代

中田代から望む至仏山
(群馬県片品村、2005.7.28撮影)


尾瀬沼とニッコウキスゲ

見晴から尾瀬沼へ向かう山道は、完全に木道が整備されておらず、台風一過だったこともあり所々に水溜りがあったりぬかるんだりしていて、山道に慣れていない私にとっては少し歩きにくい場面もありました。私よりもずっと年配のハイカーも皆さんも元気に山歩きを楽しんでおられます。時々沼尻川のせせらぎの音が涼やかに聞こえてきます。尾瀬の水は只見川となり、阿賀川、阿賀野川となって日本海に注いでいきます。尾瀬ヶ原のみずみずしい大地に清冽な水を供給する尾瀬沼に向かって、その水の音を感じながら歩きました。緑はどこまでも鮮やかで、夏の太陽の光を透かして、いっそう若々しく輝きます。これまではなかったオオシラビソやトウヒ、コメツガなどの亜高山性針葉樹が混じり始め、標高がやや高いことを実感します。倒木も多く、落雷による結果を予想させます。最後にひときわきつい白砂峠の登り坂を越えて下っていくと、白砂田代の小湿原に達しました。


白砂田代の湿原の一角に、「湿原の復元」と題された説明版が据えられていました。その説明によると、この小湿原は利用者が入り込んだため一度裸地化したのだそうです。1971(昭和46)年より莫大な労力と費用をかけて復元に取り組んだものであるとのこと。一度失われた自然の復元が難しいものであると結ばれていました。ほどなくして再び視界が開け、正面に穏やかな水を湛えた湖が広大な湿原の向こうに広がっているのが見えてきました。尾瀬沼・沼尻休憩所から尾瀬沼をしばし眺めました。沼尻からの道は、湿原の中を進んだり、木々の中を縫ったり、右手に尾瀬沼の静かな湖面を眺めながら平坦な道程となります。湖面は夏空の青と湖岸の木々の緑のエッセンスを巧みに織り込みながら、絶妙な青色・蒼色を見せています。岸辺は水深に応じて沈水植物、浮葉植物、拠水植物などさまざまな水草の生育の場となっていまして、その植物の腐葉土などの堆積によって長い年月をかけて湿原へと変わっていきます。燧ケ岳の火山活動によって生まれたこの尾瀬沼も、遠い遠い未来には一面の豊かな湿原となっているのでしょうか・・・。

尾瀬沼への山道

見晴〜尾瀬沼間の山道
(福島県檜枝岐村、2005.7.28撮影)


白砂田代
(福島県檜枝岐村、2005.7.28撮影)
尾瀬沼

沼尻から眺めた尾瀬沼
(福島県檜枝岐村、2005.7.28撮影)
大江湿原のニッコウキスゲ群落

大江湿原のニッコウキスゲ群落
(福島県檜枝岐村、2005.7.28撮影)

 そして、最大の感動は突然にやってきました。尾瀬沼ビジターセンター方向への道と沼山峠方面への道が交差する付近の湿原一帯に、大規模なニッコウキスゲの群落が目の前に現れたのでした。湿原を覆い尽くす山吹色の絨毯は圧巻の一言で、ここまでの疲れが一気に吹き飛んでしまうくらいの感動を覚えました。夏の陽射しを一身に浴びて、湿原に舞い降りた花々は、大地への感謝と慈愛に満ちた交響楽を奏でる楽団のように晴れやかな容貌を呈していました。抜けるような青空、迸る夏の陽光、こぼれんばかりの緑の背景の中にあってはじめて輝きを増すニッコウキスゲの“乱舞”は、まさにこのかがやきの時にだけ巡ってきた奇蹟であったように思いました。

 仙境・尾瀬を歩くたびに、自然の姿に圧倒され、癒され、穏やかな血流が体にしみわたっていくような気持ちになります。今後とも機会を見つけて尾瀬を訪れ、自然に敬意をはらいながら、その恵みに浸っていきたいなと思います。




このページの最初に戻る

地域文・その他の目次のページにもどる     
トップページに戻る

Copyright(C) YSK(Y.Takada)2005 Ryomo Region,JAPAN