Japan Regional Explorerトップ > 地域文・関東甲信越地方 > 関東の諸都市地域を歩く・目次
関東の諸都市・地域を歩く
←#147(奥日光編)のページへ |
#149(長瀞編)のページへ→ |
|||||||||||||||||||||
#148 嵐山渓谷とその周辺 ~梅雨空とラベンダーと緑の彩~ 2018年6月23日、埼玉県中部に位置する埼玉県嵐山(らんざん)町の武蔵嵐山駅へとやってきました。この日は終始どんよりとした曇り空で、梅雨時らしい天候でした。駅の南口から住宅地を歩き、菅谷小学校と中学校の間を抜けて国道254号(嵐山バイパス)を歩道橋で越えます。国道の南側一帯は雑木林となっており、中世の城郭である菅谷館跡の遺構が残されています。鎌倉時代の有力な御家人の一人である菅谷重忠が居住したと伝わります。遺跡には、郭、二の郭、三の郭と、それらを囲む土塁や空堀が含まれていまして、往時の城柵の佇まいが保存されています。
菅谷館跡の森を抜けますと、都幾川の穏やかな流れを渡り、その右岸の堤防上を進みます。左手の低地には田植えの終わった田園風景が広がって、すっかり色濃くなったソメイヨシノの樹冠と、背後の外秩父の山々の緑と重なります。最初に到達した橋を渡った先には、嵐山町における各種団体が協働して設立した協議会の手による「千年の苑 ラベンダー園」が整えられています。訪れたこの日は、多くの圃場でラベンダーが芳しい花をいっぱいにつけていまして、入梅の曇天の暗鬱さを爽快な空気によって緩和させていました。やさしい薄紫の色彩が重なって、周囲の緑や北側を流れる槻川の水辺へとつながる環境がとても美しく、しなやかな印象を与えていました。水辺の再生プランとしてつくられたと目される回廊を一瞥しながら、槻川を渡る県道の橋脚の下をくぐって、嵐山渓谷へと歩を進めます。 都幾川の支流である槻川は、この付近において岩場によって流路が狭隘になり、豊かな緑に包まれた渓谷が形成されています。北にある大平山から伸びる細原と呼ばれる部分において川は大きく蛇行していまして、さながら半島のような地形となっているのも特徴の一つです。1928(昭和3)年にこの渓谷を訪れた本多静六博士が、その風光が京都の嵐山に似ているとの感慨を抱き、ここを「武蔵嵐山」と命名しました。その景勝は多くの人々に愛されるようになり、やがて町の町名も、元来の「菅谷村」から町制へ移行する際に現在の「嵐山町」に改められた経緯があります。幽谷の静寂感を漂わせる河畔の森と、その間をゆるやかに流下する槻川の流れに沿って歩き、渓谷の中程にある飛び石を渡って、その「細原」と呼ばれる、尾根筋が川の流路をねじ曲げさせた箇所へと進みます。
景勝地として多くの人々の感動を呼んだ渓谷と森の織りなす風景は、川に沿って進む道の随所で堪能することができました。沿道にはカエデが多く認められまして、秋の紅葉の時季の美しさもまた格別なのだろうと想像します。細原を進む散策路の途上には、際の経緯から町名の発祥の地であることを伝える石碑や、この地を訪れて歌を残したとされる与謝野晶子の歌碑も建立されていました。細原の先端部からは、河原へ下りていくことができます。長瀞の岩畳を思わせる結晶片岩の岩場を穏やかに浸食する槻川の流れは、長い年月をかけてこの地層を穿ってきたことを思わせないくらい、穏やかな水面に、まわりの木々の碧を映す翡翠色のヴェールを纏わせていたのが印象的でした。 細原からは、大平山の山頂へと続く山道を辿りました。大平山(標高178.9メートル)は嵐山町における最高峰で、その頂からは比企丘陵や岩殿丘陵、そしてそその西側の外秩父山地の山々に抱かれるようにしてある、槻川流域の小盆地や、関東平野北縁の一帯を幅広く眺望することができますが、この日は鼠色の空の色が山塊のスカイラインをしっとりと乳白色に滲ませていたため、梅雨時の幻想的な風景が広がっていたと表現できる、季節感の満ちたパノラマを楽しむこととなりました。大平山での小休止の後は、北側の千手院や春日神社のある谷間へと下って、谷津を埋める水田と集落とが重なる景観や、それらに寄り添うようにして建立された千手院や春日神社の結構を確認し、地域の歴史の一端に触れました。
千手院の境内で、灰色の空と呼応するような、クリアなグラデーションを見せていたアジサイの風合いに心躍らせながら、JAの直売所や大型スーパーマーケットなどがある一角を通って武蔵嵐山駅前へと戻り、この日の活動を終えました。埼玉県内、特に関東山地やそれに連なる丘陵地に近いエリアでは、四季を通じて多様な自然景観に出会えるたくさんのコースがあって、多くの人々を惹きつけています。平地における雑木林と畑地がつくる人工的な景観とともに、埼玉県における貴重な美観的資産であると思われました。 |
←#147(奥日光編)のページへ |
#149(長瀞編)のページへ→ |
||||
関東を歩く・目次へ このページのトップへ ホームページのトップへ |
|||||
Copyright(C) YSK(Y.Takada) 2020 Ryomo Region,JAPAN |