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関東の諸都市・地域を歩く
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#77 茨城県内桜周遊記 〜偕楽園から日立へ〜 2012年4月1日、偕楽園から石岡へ向かったフィールドワークで、気にかかったことがありました。偕楽園やその周辺において、満開の梅をよそに平年であれば大体開花を迎えているはずのソメイヨシノがほとんど開花していなかったことです。気象庁の観測では、2015年までの統計で平年の開花日は4月2日、満開日は4月8日となっていますが、2012年は開花が4月6日、満開が4月12日と、やや遅れものとなりました。4月に入るまで梅の見ごろが続いたことも考慮します、この年は寒い冬であったことが理解されます。園内の「左近の桜」も、その時はまったく開花していない状況でした。ようやく桜が満開を迎えた後の4月15日、偕楽園を再訪しました。
左近の桜は、枝いっぱいに桜色をまとっていまして、まさに見ごろを迎えていました。園内や千波湖畔のソメイヨシノもいっせいに花を開いていまして、視点を変えると桜色のヴェールが幾通りにも重なって見えて、青空との極上のコントラストを見せていました。左近の桜といえば、京都御所の紫宸殿前に植えらているものが有名です(右近の橘と対になっています)。偕楽園の桜も、京都御所にその端緒を持ちます。1831(天保2)年に、水戸藩主・徳川斉昭正室の登美宮(とみのみや)が降嫁の折、仁孝天皇から京都御所の左近の桜の鉢植えを賜りました。その後何回かの移植や代替わりを経て、現在の桜は1963(昭和38)年に弘道館改修工事の完了を記念して、茨城県が宮内庁より京都御所の左近の桜の系統を受領し、弘道館と偕楽園に植えたものであるとのことです。左近の桜はヤマザクラの一種の「白山桜(しろやまざくら)」で、幹回り3.84メートル、樹高16メートルの堂々たる大木です。花と共に赤みがかった葉が生えていまして、ヤマザクラの特徴が認められました。ほとんどの花が散り、若葉が芽吹き始めていた梅にとって代わるように、桜があちらこちらでそのあたたかい色彩をひらめかせていました。 水戸市の北、那珂市にある阿弥陀寺は、浄土真宗二十四輩(にじゅうよはい)本蹟の十四番にあたります。二十四輩とは、浄土真宗の宗祖とされる親鸞の、関東時代における高弟24人と、その24人を開基とする寺院のことです。阿弥陀寺の開祖は二十四輩十四番の弟子・定信坊です。境内の枝垂桜は樹齢320年、春風に優雅になびくさまは、時流にさからうことなく、ただ陽春のあたたかさを受け止めて泰然と構えているようにさえ感じられます。山門は二層になっていて、上部は鐘楼を兼ねた構造になっています。その山門と本堂との間にしなやかなたたずまいを見せるエドヒガンの枝垂桜は、喜びの季節を純粋に受容し輝いているようでした。本尊の阿弥陀如来仏は、県指定文化財の指定を受けています。
この日の最後の訪問地は日立市街地でした。JR日立駅前から国道6号まで伸びる平和通り(県道293号)は、美しい桜並木で知られます。1951(昭和26)年に戦災復興事業の一環として開通したという道路は、市民に親しまれる桜の名所となって、今日多くの人々の心にうるおいと安寧とを与える存在となっているようでした。国道に向かって緩やかな登りとなっている並木道は、歩道橋上などの高い場所から眺めますと、まさに桜で覆われた川のような華やぎに溢れています。鉱工業都市として興隆し、成長してきた街並みを明るく照らす光の道であるようにも感じられました。 市街地の桜の下を逍遥した後、平和通りと共に「日本さくら名所100選」に選定されている日立市かみね公園へ向かいました。動物園や遊園地、レジャーランドを備えた高台の公園は市民の憩いの場として親しまれています。頂上展望台付近にはまとまった桜が植栽されていまして、満開の桜の海に浮かぶように市街地、その向こうの太平洋へと視界が広がります。1695(元禄8)年、徳川光圀が神峰神社に参拝した時、海上から朝日の昇る様子を「朝日の立ち上る様は領内随一」として、一帯を日立と命名したという由緒そのままのきらめくような市街地の俯瞰が眼下に展開していました。シビックセンターの現代的なフォルムや工場の煙突が穏やかに混在する風景は、日立市が歩んだ歴史そのままが投影されているようで、とても感慨深いものでした。
春本番を迎えた茨城県の諸地域は、満開の桜の下、地域の今昔をたおやかに体現しながら、いきいきとした姿を見せていたことが、たいへん印象的な行程であったように思います。 |
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