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そして、近江路へ・・・
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#10 伊吹山麓の旧宿場町を歩く 〜柏原宿と醒井宿の風景〜 2014年7月12日、未明に地元を出発して一路西へ、午前9時前に滋賀県米原市の旧中山道柏原(かしわばら)宿に到着しました。良い天気に恵まれたかつての宿場町は、穏やかな朝を迎えていました。宿場町はJR東海道線・柏原駅の南をほぼ東西に貫く旧道沿いに発達しています。この旧道のさらに南をバイパスのように貫通する国道21号近くにある公共施設の駐車場に車を止めて、散策を開始しました。
街道に突き当たりますと正面に「柏原歴史館」の看板の立つ旧家が目に留まりました。1917(大正6)年建築の個人宅を宿場町の展示や交流用の施設として供しているもので、複雑な屋根や格子戸を含む結構が重厚な姿を見せていまして、往時の町場の活況を物語っているようです。柏原宿は「伊吹もぐさ」で知られます。江戸時代にはもぐさを扱う店舗が十軒を数えたという柏原には、現在は1軒を残すのみとなっています。柏原歴史館から東へ程ない場所にその店舗が往時のままの佇まいを見せていました。 さらに街道筋を東へ、昔ながらの町屋がたおやかに残る街並みを訪ねます。市場川のほとりには石造りの常夜燈があって昔を偲ばせます。柏原宿は中山道の全69宿の中では規模が大きかったようで、宿場の長さ13丁(約1,420メートル)は10番目、戸数人口も周辺の宿に肩を並べるほどであったと紹介されていました。陸上交通上の重要な拠点として栄えた町場が流通体系の変化に伴い急速に衰微し、その結果近世以降の美しい伝統的な集落景観が良港に保存された経緯が想起されます。町の中央に立地するJR柏原駅の利用客数は東海道本線内では最も少ないとのことで、そうした町の歴史を象徴しているように思われます。鉄路を越えた北側からは、鮮やかな田園風景の彼方に伊吹山をうっすらと望むことができました。
柏原宿を歩いていますと、古い家屋が多いことに新鮮な感動を覚えます。それらが生垣や庭木のつややかな緑にしなやかに寄り添っていて、その美観をいっそう印象深いものにしていました。道幅や軒の低い2階建ての町屋が続く風景は、道路が舗装されていたり、電線が空中を張り巡らされたりなどの現象を除けば、藩政期におけるそれとあまり大差はないのではないかとも感じる、実に奥ゆかしい景観が連続していきます。旧宿場町を東へ辿り、東端から折り返して西へ進む道のりにあっては、問屋場跡や町の東西に1つずつ設けられていたという荷蔵跡、脇本陣跡、本陣跡などには丁寧な説明看板が設置されていまして、多くの往来に溢れていたであろう町の歴史への理解を深める一助となりました。 西の荷蔵跡を過ぎて、さらに西へ歩きますと、天野川を渡って家並が途切れるあたり柏原一里塚跡の石碑があり、一里塚が復元されてありました。この辺りが宿場の西の入口で、食い違いの土手があって「西の見付」と呼ばれていたとの説明が表示されていました。付近には松並木もあって、周辺の水田の風景も相まって、かつての街道筋の風景を現代に伝えていました。
柏原宿の散策の後は、車に戻って国道21号を西へ進み、1つ隣の旧宿場町・醒井(さめがい)へと向かいました。地蔵川の清冽な流れに沿って展開する街並みは、柏原宿とはまた違った風情をまとっています。地蔵川は生息域が岐阜県と滋賀県の一部に限られるという希少な淡水魚・ハリヨの棲息地として知られます。また、夏の時期にはバイカモ(梅花藻)が可憐な花を水面に広がることでも有名です。この日はノウゼンカズラやキキョウなどが晩夏の街並みを彩る中、川面に一面にバイカモが咲いているのを見ることができました。 地蔵川のほとりをそぞろ歩きながら、「居醒(いざめ)の清水」へ。地蔵川の源泉であるこの湧き水は、「古事記」や「日本書紀」 に登場し、ヤマトタケルノミコトが熱病に倒れた時に体毒を洗い流した霊水とも伝えられる名水です。地蔵川にそって、十王水や西行水といった清水も沸いていまして、水に恵まれた穏やかな宿場町の景観を楽しむことができました。十王水の近くでJR醒ヶ井駅へと続く道路が分岐して、直線的な街並みを形成しています。沿道にはヴォーリズ設計の擬洋風建築である旧醒井郵便局もあって、駅の開業に伴い新たに発達した町場であることを想像させました。柏原宿、醒井宿とめぐる道程は、古来からの歴史とやわらかな自然美とにいっぱいに触れることのできる極上の時間となったように思います。 |
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