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尾張・三河探訪


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#6 碧南市大浜を歩く 〜湊町として栄えた歴史を残す町〜

 2015年12月19日、夜行バスで未明の名古屋駅前の到着した私は、駅前で軽い食事を済ませた後、JR線から名鉄三河線を乗り継ぎ、同線の終着駅である碧南駅へと移動しました。現在は終点であるこの駅も、2004(平成16)年4月に廃止されるまでは同西尾線・蒲郡線の吉良吉田駅まで路線が続いていました。早朝の冷たい空気が支配する中、快晴の町並み散策へと出発しました。

碧南駅

名鉄碧南駅
(碧南市中町五丁目、2015.12.19撮影)
九重味淋

九重味淋大蔵
(碧南市浜寺町二丁目、2015.12.19撮影)
碧南市臨海公園

碧南市臨海公園の風景
(碧南市浜町、2015.12.19撮影)
西方寺太鼓堂

西方寺太鼓堂
(碧南市浜寺町二丁目、2015.12.19撮影)

 碧南(へきなん)市は、1948(昭和23)年に碧海郡南部の4町村が合併し誕生し、市名も「碧」海郡の「南」であったことによります(碧海郡はすべて市域となっているため現存していません)。その現在の碧南市を構成した旧町村のうち、碧南駅周辺を範域としたのがかつての大浜町(おおはまちょう)です。大浜は室町・南北朝時代より湊町として興隆しており物流や漁業の拠点として成長し、醸造業などの有力な地場産業も発展していました。岡崎市に続き西三河地域では2番目に市制施行したことも、この町の繁栄を物語っているといえます。1954(昭和29)年に市名に合わせて改称されるまでは、碧南駅は「大浜港駅」を名乗っていました。駅前の細い道路を進み、かつての大浜の経済を支えた動脈である大浜街道(県道43号)沿いへと歩を進めました。

 部分的に拡幅工事が進んでいると思われる県道の沿線には、林泉寺(りんせんじ)や常行院(じょうぎょういん)があって、昔ながらの町並みを残す風景が広がっていました。そうした歴史的景観を象徴する事物の一つが、九重味淋の大蔵(1706(宝永3)年築造、1787(天明7)年移築改造)です。1772(安永元)年創業という日本最古のみりんメーカーの大蔵は、早暁のやわらかな光の中で、神々しいまでの風格を見せていまして、この歴史ある町を見守っているように感じられました。町並みの西に広がる碧南市臨海公園からは、かつて風光明媚な内湾として「衣が浦」と呼ばれ、現在は製造業や鉄鋼業などの工場が立地し衣浦港として変貌を遂げた臨海部の風景を概観することができました。

路地風景

板塀の続く路地風景
(碧南市浜寺町二丁目、2015.12.19撮影)
津島社

津島社
(碧南市浜寺町二丁目、2015.12.19撮影)
大浜漁港

大浜漁港の風景
(碧南市浜寺町一丁目、2015.12.19撮影)
大浜稲荷社

大浜稲荷社
(碧南市浜寺町二丁目、2015.12.19撮影)

 県道沿いに戻り、多くの寺院が甍を並べる町並みをそぞろ歩きます。寺院の多さは、それらを支える檀家としての商家の存在が不可欠であることから、この町がいかに反映したかを如実に示すものであるといえます。そうした寺の一つである西方寺は、道路に面して楼閣状の構造物がある太鼓堂を擁する古刹として知られます。この太鼓堂は明治初期に「新民序」と呼ばれる学校の校舎として使用されたことから、碧南における学校教育発祥の地ともされています。西方寺と九重味淋の間の路地は、瓦屋根の乗った板塀が続く落ち着いた雰囲気が印象的で、その奥ゆかしい光景は漁業者の信仰が篤かった津島社のこぢんまりとしたお社を慎ましやかに包み込んでいるように感じられました。現在は産業用地として大規模に埋め立てが進んだ衣浦湾も、かつてはこの町並みのすぐ裏手は海岸となっていました。堀川の河口部は漁港となっていまして、漁業の拠点としても栄えた地域の歴史をつないでいました。

 堀川沿いを東へ、地域の鎮守である大浜稲荷社の境内を一瞥しながら、寺院や昔ながらの家並みがたおやかな佇まいを見せる県道沿いへと進みます。堀川の南は県道は狭隘になって、歴史的な雰囲気がさらに濃厚になっていました。そんな町並みの一角には、旧大浜警察署の鉄筋コンクリートの建物があって、近代以降もこの町の反映が続いたことを象徴していました。清浄院(しょうじょういん)や本傳寺(ほんでんじ)、そして観音寺へ、大浜の町並みを象徴する寺院建築を訪ねながら、奥ゆかしい美しい町場の風景を目に焼き付けました。中でも広い境内を持つ称名寺(しょうみょうじ)は、第十五世一天和尚が徳川家康の幼名「竹千代」を命名したことで知られています。

旧大浜警察署

旧大浜警察署
(碧南市錦町一丁目、2015.12.19撮影)
称名寺

称名寺
(碧南市築山町二丁目、2015.12.19撮影)
県道沿いの景観

県道沿いの景観
(碧南市築山町一丁目、2015.12.19撮影)
路地の景観

路地の景観
(碧南市錦町一丁目、2015.12.19撮影)

 現代のスケールでは手狭な街道筋には、こうした多くの歴史を伝える寺院や商家の古い建物が隣接していまして、西三河地域でも随一の賑わいを見せたという、大浜の往時を存分にアピールしていました。そうした建物を縫うように進む路地裏の風景もどこかノスタルジーを感じさせる要素に溢れていまして、この町の最大の魅力となっているように感じられました。そうした細道を北へ、陶器店や書店の伝統的な商家が残る通りを歩いて、碧南駅前へ戻りました。城下町岡崎をはじめ、東海道周辺の諸地域に目が行きがちな西三河地域にあって、近世以降独自の地勢を生かして大いに台頭した史実を今に伝える風景に出会えたことは、またとない、かけがえのない経験として脳裏に刻まれることとなりました。

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