Japan Regional Explorerトップ > 地域文・その他 > 仙境尾瀬・かがやきの時

仙境尾瀬・かがやきの時

 
#18のページ
 
#20のページへ→
#19 竜宮から見晴、白砂峠へ 〜尾瀬らしい湿原と森の風景〜

 2019年6月2日、毎年訪問している尾瀬を再訪しました。山ノ鼻から入り、尾瀬ヶ原を縦断、尾瀬沼を経て大清水へ向かう、いつものコースを歩きます。戸倉のバス発着所近くではレンゲツツジが鮮やかな花を咲かせていましたが、乗合バスで到着した鳩待峠は新緑の木々の中にも除雪された雪が部分的に残っていまして、森の間から望む至仏山はたっぷりと残雪をその身に纏わせていました。今回は、#18の稿に続き、踏破したコースのうち、竜宮から見晴を経て、白砂峠へと至る部分をご紹介します。

竜宮から見晴へ

 尾瀬ヶ原は、湿原を流下する主な河川を境として、「下田代」「中田代」「上田代」の3つのエリアに分けられます。概ね、山ノ鼻から上ノ大堀川までが上田代、そこから沼尻(ぬしり)川手前までは中田代、その東が下田代というくくりであることは前項でもお話ししています。これらの湿原を横断する河川の中でも、竜宮近くを流れる沼尻川は尾瀬を潤す河川の本流で、一際規模の大きい拠水林を伴っています。それもそのはずで、その流れは只見川の上流部にあたり、会津盆地を流れる阿賀川へとつながり阿賀野川となります。尾瀬ヶ原は水芭蕉があちらこちらに花を咲かせている季節で、沼尻川の森は徐々に芽吹きを始めているといった感じで、まだ葉の少ない林の向こうには、燧ヶ岳の山容も見渡すことができました。

竜宮十字路

竜宮十字路
タテヤマリンドウ

タテヤマリンドウ
水芭蕉

尾瀬ヶ原に咲き誇る水芭蕉
水芭蕉

水芭蕉をアップで(竜宮十字路付近)
竜宮小屋

竜宮小屋
沼尻川と拠水林

沼尻川と拠水林

 竜宮小屋の手前には、富士見峠から下る山道と、ヨッピ吊橋へとつながる木道が尾瀬を横断する木道と交わる箇所があり、そこは「竜宮十字路」と呼ばれます。尾瀬ヶ原を訪れるハイカーのほとんどはこの竜宮十字路付近までのハイキングを目的としていることから、沼尻川を越えて見晴へ、下田代方面へと向かう木道まで進む人はそう多くない傾向があります。そのため、下田代はゆったりとした散策を楽しむことができる上に、燧ヶ岳を正面に見ながら、たおやかに広がる湿原の美しさをダイレクトに探勝できることから、私は尾瀬の中でもこの下田代が最も好きなエリアです。沼尻川は群馬県と福島県の県境になっており、橋を渡りますと関東地方から東北地方へと足を踏み入れることになります。まだ春浅い森を抜け、雪解け水をふんだんに受け入れてる川の冷たさを目に感じながら、下田代へと進んでいきます。

 湿原はいまだ褐色の枯れ野で、冬の装いのままでした。尾瀬の春はまず周辺の山々を新緑に変え、その後ゆっくりとその熱量を湿原に伝えて、若葉色へと大地を染め上げていきます。そのスタートを告げるのが、尾瀬の代名詞とも言える水芭蕉の開花です。あの可憐な純白の仏炎苞と花序が湿原に彩りを添える時間が過ぎ、葉が徐々に伸びて大きくなりますと、尾瀬は早春から春本番へと移り変わっていくこととなります。下田代にも、湿原を横切る小流がいくつかあり、その規模に応じた拠水林を伴いながら、湿原を潤しています。そうした河川を越えるごとに、目の前の燧ヶ岳が徐々に大きくなって、その雄々しい姿をより間近に見通すようになっていきます。振り返りますと、沼尻川の拠水林の上に至仏山も見えています。そして周囲には尾瀬ヶ原を取り囲む山々が豊かな表情を見せて、湿原の茫漠とした表情によりみずみずしい色彩を与えています。湿原にはタテヤマリンドウもかわいらしい花を咲かせ始めていまして、仲春への序章を静かに紡いでいます。燧ヶ岳の左側(北東方向)には会津駒ヶ岳への視界も開けるのですが、この日は雲の多い陽気であったためそれを見通すことができませんでした。

沼尻川を渡る

沼尻川を渡る
下田代から燧ヶ岳を望む

下田代から燧ヶ岳を望む
下田代から至仏山を望む

下田代から至仏山を望む
下田代の風景

下田代の風景
燧ヶ岳と見晴を望む

燧ヶ岳と見晴を望む
見晴

見晴の風景(除雪された雪)

 下田代の中を進む木道を歩くにつれて、燧ヶ岳の麓に建てられた山小屋群も徐々にその大きさを増していきます。燧ヶ岳の山裾、湿原と森との間に位置するこのエリアは、見晴と呼ばれます。下田代を一望できるロケーションであることからの命名と思われるこの地区は、尾瀬ヶ原と尾瀬沼とを結ぶ位置にあって、三条ノ滝方面への中継地点ともなることから、ここで山小屋に宿泊して尾瀬を歩く人々や、休憩で利用する需要もあって、そこそこの賑わいを見せる場所となっています。私も、例年この見晴で小休止をして軽い食事を済ませてから尾瀬沼方面へ進むルーティンをとっています。森の木々も新緑をつけ始めていまして、除雪された雪の山と好対照をみせていたのが印象的でした。


見晴から白砂峠へ、段小屋坂と呼ばれる山道を進む

 見晴地区には6つの山小屋が立地し、尾瀬エリアの中でも最大の「山小屋街」が形成されています。鳩待峠または大清水から尾瀬に入って見晴まで歩いて一泊し、周辺の三条ノ滝などを訪問したり、燧ヶ岳に登ったりしながら尾瀬ヶ原あるいは尾瀬沼へ抜けるといったハイクを楽しむ需要が多いものと想像します。尾瀬ヶ原と尾瀬沼という、尾瀬における二大観賞スポットの中間点に位置する見晴地区は、前述のように山歩きの途上で休息する人も少なくありません。

見晴

見晴の風景
見晴から至仏山を望む

見晴から至仏山を望む
段小屋坂の風景

段小屋坂の風景
オオカメノキ

オオカメノキ
沼尻川を見下ろす

沼尻川を見下ろす
礫がむき出しの山道

礫がむき出しの山道

 見晴から尾瀬沼へは、「段小屋坂」と呼ばれる山道を進むこととなります。山道は尾瀬沼に源を発する沼尻川に沿ったルートをとりますが、沼尻川はこの区間において渓谷状の地形を呈することから、山道は川には寄り添わず、白砂峠と呼ばれるピークを経由して、白砂田代、そして尾瀬沼湖畔の沼尻休憩所へと進む形となります。見晴を出てしばらくはみずみずしい森の下、整備された木道を緩やかにのぼる形となりますが、徐々に木道はなくなって、時折ぬかるみや小さな沢を渡る山道へと移り変わっていきます。途中には燧ヶ岳へ登るルートも分岐していまして、ここが燧ヶ岳の山麓であることを実感させます。尾瀬沼は、燧ヶ岳の火山活動によって沼尻川が堰き止められてできたと考えられています。そのため、段小屋坂のあるあたりは沼尻川が溶岩流を浸食し、深い谷が形成されました。山道からは時折木々の間、眼下に沼尻川の流れを見下ろすことができます。白砂峠へ向かって徐々に上る坂道を、この沼尻川の快い瀬音に励まされながら上っていきます。道中には、木々がまばらになって、なだらかな斜面となっている箇所がいくつか存在していまして、過去の地すべりの痕跡と目される地形であるとも思われました。

 標高が増すにつれて、トウヒなどの針葉樹が多くなっていきます。それとともに、残雪もだんだんと多くなり、白砂峠に近い場所では山道を覆うまでになっていきます。水芭蕉の季節には、段小屋坂を通るこのルートは、未だ雪に覆われていることが多いと覚悟しての踏破が必要となります。周りの森は針葉樹に覆われた広葉樹は新緑を芽吹かせて春の雰囲気を高揚させていますが、足許はざらざらした雪が一面に地面に広がる箇所が多いので、注意が必要です。滑りやすいのはもちろんですが、木道の上で融雪が進んでいる場所では、既に雪の厚さが薄くなっていることも少なくなくて、木道の間の穴に足を取られる「踏み抜き」で思わぬ怪我を負ってしまう危険もあります。白砂峠へは、いくつかの沢を越え、やや急な坂道を断続的に進みながら、残雪の山道を進む形となります。

雪が未だ残る

雪が未だ残る
残雪で覆われた山道

残雪で覆われた山道
段小屋坂周辺は針葉樹が混交する

段小屋坂周辺は針葉樹が混交する
白砂峠付近

白砂峠付近
沢を渡る山道

沢を渡る山道
雪が被さる木道

雪が被さる木道

 残雪に細心の注意を払いながらやっとのことで到達した白砂峠を越えますと、今度は大小の礫で覆われた急な下り坂を下りて、白砂田代と呼ばれる小さな湿原へと進む道のりとなります。この坂も日陰にあたることもあって、この日はほとんどの箇所が雪で覆われていまして、一歩一歩足許を確かめながら、慎重に歩を進めました。


2019年6月2日・尾瀬の風景

 ルート紹介として、竜宮から白砂峠への風景を記してきましたが、この日は尾瀬ヶ原から尾瀬沼を経て大清水までの踏破を行っています。以下に、その過程で撮影した写真をご紹介します。


戸倉バス待合所付近のレンゲツツジ

戸倉バス待合所付近のレンゲツツジ
鳩待峠の風景

鳩待峠の風景
鳩待峠から見た至仏山

鳩待峠から見た至仏山
山ノ鼻付近の木道

山ノ鼻付近の木道
テンマ沢湿原の水芭蕉

テンマ沢湿原の水芭蕉
山ノ鼻の風景

山ノ鼻の風景
上田代の風景

上田代の風景
雪解けの水

雪解けの水が木道下を流れる
湿原と周辺の山々

湿原と周辺の山々
逆さ燧の見える池塘

逆さ燧の見える池塘
下ノ大堀川と至仏山

下ノ大堀川と至仏山
水芭蕉の群落

水芭蕉の群落
白砂田代

白砂田代
沼尻休憩所付近の尾瀬沼

沼尻休憩所付近の尾瀬沼
大江湿原と燧ヶ岳

大江湿原と燧ヶ岳
三平峠

三平峠も雪に覆われていました

 
#18のページ
 
#20のページへ→




このページの最初にもどる   仙境尾瀬・かがやきの時にもどる

地域文・その他の目次のページにもどる     トップページにもどる

Copyright(C) YSK(Y.Takada)2020 Ryomo Region,JAPAN