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三景巡礼
~海と信仰に導かれる路~

 松島、天橋立、厳島の日本三景は、古来よりその美観と歴史的な価値により多くの人々によって称えられてきた景勝地です。三景を訪れた記録を紐解きながら、私なりの視点でその風光をご紹介します。
 
松島湾

五大堂から見た松島湾
(宮城県松島町、2011.12.23撮影)

天橋立・飛龍観

天橋立・飛龍観
(京都府宮津市、2013.7.13撮影)

厳島神社大鳥居

厳島神社・大鳥居
(広島県廿日市市、2003.8.29撮影)
※撮影当時は宮島町
 

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ページ設置:2016年4月30日

この地域文は3部構成です。
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陸奥の松島 ~“憧憬の辺境”の風光~

 古来よりこれほどまでに多くの人々のあこがれの的となり、わが国を代表する佳景として幾多の賞賛を受け続けた場所はあったでしょうか。「白砂青松」と形容される、美しい海岸風景の代表として、今日でもここを訪れるたくさんの人々を魅了しています。現在でこそ東北最大の都市仙台市の近郊というロケーションからアクセスが容易なため、比較的身近な観光地となっていますが、遠い昔、松島は陸路はるばる東へ進み、その最果てにある、ほぼすべての京の人々にとって、数少ない伝聞や詩歌などからその風景を慮ることしかできない場所でした。松島はその秀麗な景観はもちろんのこと、歴史を重ねる中で洗練されてきた自然美への先人の希求が随所に垣間見られることもその魅力であるように思います。島々に与えられた数々の名称の機微や「四大観」と呼ばれる修景地点の存在などは、この地がいかに限りない愛着の対象となってきたのかを端的に物語っているといえるでしょう。

塩釜港

塩釜港
(塩竃市湊町一丁目、2011.12.23撮影)
マリンゲート塩釜

マリンゲート塩釜
(塩釜港内、2011.12.23撮影)
松島湾の景観

松島湾の景観
(松島湾内、2011.12.23撮影)


仁王島
(松島湾内、2011.12.23撮影)
鐘島

鐘島
(松島湾内、2011.12.23撮影)
五大堂

五大堂遠景
(松島湾内、2011.12.23撮影)

 2011年12月23日、JR本塩釜駅を出発し、松島遊覧船が発着する塩釜港・マリンゲート塩釜へ向かいました。この年の東日本大震災では塩釜港周辺にも津波が押し寄せています。松島湾口に点在する島々が防波堤の役割を果たし、他の三陸沿岸地域に比べ津波による被害は少なくなりましたが、マリンゲート塩釜の一部はいまだに閉鎖され、建物の内外や岸壁の周辺には散乱したタイルや亀裂、陥没などが認められ、津波や地震の爪痕が残されていました。冬晴れの空はどこまでもクリアに輝いて、港内の海面もその青さを反射して澄んだマリンブルーを呈していました。宮城県域の大半を占め、北上川を遡って岩手県域まで達する広大な仙台平野を南北に分ける松島丘陵が海岸に達し、溺れ谷となった場所が松島です。七ヶ浜半島と野蒜から宮戸島にかけての突出部に抱かれるような内湾は、松尾芭蕉をして「扶桑第一の好風」と言わしめた景観を醸成し、塩釜港は天然の良港として栄えてきました。塩釜港を出港し、松島海岸の松島桟橋まで約50分、松島湾に浮かぶ、多様な姿を見せる島々や遠景の山々が織りなす風景を船上より楽しむことができます。

 松島桟橋に到着後は、名刹瑞巌寺を中心とした松島海岸周辺を散策しました。海岸に沿って続く国道45号沿いは土産店などが軒を連ねる一角が形成されていますが、その一隅に杉の木立に包まれた瑞巌寺(臨済宗妙心寺派)への参道が総門を介して接続しています。観光中心のエリアからの喧騒を離れた参道を進みますと、国宝や重要文化財の指定を受ける建造物がある境内へと到達します。2008(平成20)年から続けられている修復工事のため、訪問時は国宝の本堂は公開されておらず、同じく国宝の庫裡を拝観することができる状況でした。瑞巌寺は正式名称を「松島青龍山瑞巌円福禅寺」といい、その開山は828(天長5)年に遡ります。比叡山延暦寺座主慈覚大師円仁が淳和天皇の詔勅により「延福寺」として創建したと伝わります。その後長い歴史の中で宗旨や名称が変遷し、藩政期には伊達政宗による造営が行われるなど伊達家の篤い庇護を受けて、今日の瑞巌寺の礎が築かれました。たおやかな海と島々が織りなす悠久の風景は、信仰と思想が醸成される土壌もまた包含していました。瑞巌寺周辺には円通院をはじめとした寺院や神社が集まっており、寺町小路として趣ある街並みが形成されていました。

松島湾

松島海岸から眺望する松島湾
(松島町松島、2011.12.23撮影)
瑞巌寺参道

瑞巌寺参道
(松島町松島、2011.12.23撮影)
瑞巌寺庫裡

瑞巌寺・庫裡
(松島町松島、2011.12.23撮影)
圓通院霊屋

圓通院霊屋
(松島町松島、2011.12.23撮影)
五大堂

五大堂
(松島町松島、2011.12.23撮影)
西行戻しの松公園

西行戻しの松公園から見た松島
(松島町松島、2013.4.28撮影)

 瑞巌寺界隈を回った後、松島の風光と信仰の歴史を象徴する建築物である五大堂を訪れながら、松島の散策を終えました。震災による被災を受けながらも、今もなお多くの人々の羨望を集める松島は、その地をまだ見ぬ者にとっては極楽浄土のごとき崇高な存在であり、またその地を目にした者にとっては時を超えて蓄積された美観と信心とが結実した唯一無二の情景として、鮮烈な心象を与えることとなるのだと思います。


 2013年4月、再び訪れた松島にて、桜の名所として知られる西行戻しの松公園からは、そうした人々の感情をたおやかに受け入れているかのように、どこまでも長閑な多島海の景色が広がっていました。


丹後天橋立へ続きます。



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