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シリーズ・クローズアップ仙台

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#21 根白石界隈 〜川と、森と、大地と〜


仙台の大地は、夏のぎらぎらした日差しのもと、ただしずかに佇んでいるように感じられました。泉区の西部、七北田(ななきた)川にむかってゆったりと広がる水田や、背後の段丘上の林は、穏やかに輝いていました。この日は日曜日。目的地であった根白石まで直接向かうバスがなかったようなので、近くの団地行きのバスに乗車し、七北田川手前の鼻毛橋バス停にて下車、田園風景の中をゆっくりと歩き始めました。泉中央あたりでは河川敷が広がる七北田川も、このあたりでは、豊かな木々を両岸にふんだんに纏っていまして、水はヤナギや笹のヴェールの下を流れていきます。葛の蔓もかなりはびこっており、赤紫の花をつけている個体も見られました。川の近くの耕地には、茶豆が栽培されていました。生産調整(いわゆる減反)の結果でしょうか。

七北田川

七北田川(鼻毛橋より)
(泉区小角、2004.8.8撮影)
小角地区の集落景観

小角地区の集落景観
(泉区小角、2004.8.8撮影)
水田と段丘崖の林、丘陵

水田と段丘崖の林、丘陵
(泉区小角、2004.8.8撮影)
野菜の畑

野菜の畑
(泉区小角、2004.8.8撮影)

水田がさわやかに展開する小角(おがく)地区を歩きます。今年は猛暑ということもあり、冷夏だった昨年とは一転して、稲の生育も順調のようです。すでに稲穂でいっぱいです。側溝には水がさらさらと流れていきます。付近には自家消費すると思われる野菜の畑もあって、ナスやサヤインゲン、トマト、長ネギ、茶豆などの多種多様な野菜が栽培されていました。白藤観世音の前を過ぎると、七北田川が寄り添ってきて、根白石地区へと至ります。

稲穂に溢れる水田

稲穂に溢れる水田
(泉区根白石、2004.8.8撮影)
「根白石」は「ねのしろいし」と読みます。根白石は大字の名前で、また東接する七北田村と合併し「泉村」となった1955(昭和30)年4月10日までは宮城郡の村の名前でもありました。当時の根白石村は、現在の大字でいうと、福岡、西田中、根白石、朴沢、小角、実沢、古内の各地区からなっていました。これら7大字は、市町村制による統合(1889年/明治22年4月1日)時に泉ヶ岳からとったと思われる「泉獄(いずみがだけ)村」を名乗った後、その8年後「根白石村」に改称するという変遷を経ているようです。大字の根白石地区は、戦国期には城柵が設けられており、その後も一貫して地域の中心集落として発達しました。村名の変更には、もしかしたら、このような根白石の中心性が反映されているのかもしれません。なお、根白石村と七北田村との合併によって成立した「泉村」はほぼ現在の泉区の範囲に相当します。泉村は1957(昭和32)年8月1日には町制施行、1971(昭和46)年11月1日には市制施行と、急速に都市化が進行していくこととなります。人口も、泉村成立時(1955年)には14,041人だったものが、2004年7月の推計値では206,846人となっており、泉における都市化がどのようなものであったかを如実に示しています。しかしながら、歩いている根白石界隈は、そんな泉の趨勢とは離れた、穏やかな田園風景、集落景観の展開するエリアです。都市化の受け皿となった住宅団地の多くは段丘を数段登った丘陵上に開発されました。

下町公会堂

下町公会堂
(泉区根白石、2004.8.8撮影)
昔ながらの商家

昔ながらの商家
(泉区根白石、2004.8.8撮影)
根白石の街並み

根白石の街並み
(泉区根白石、2004.8.8撮影)
クランクになっている街路

クランクになっている街路
(泉区根白石、2004.8.8撮影)

根白石の集落は、いくつかのクランクを含む通りを中心として発達しています。バス停名にもなっている「下町」「町頭」などの字名が見えまして、この地域では抜きん出た中心性を持つ地域であったことが分かります。通りに面して、昔ながらの商家が軒を並べている場所もあり、鉤の手状の道路の景観とともに、ローカルな商業中心集落の往時を思い起こさせるような雰囲気でしたね。この日は、仙台七夕祭りが開催されており、ここ根白石でも家々の軒先に、鉢植えされた笹に七夕飾りを飾ったものが置かれていまして、市街地の豪勢なものとは一味違った、慎ましやかな七夕の美しさを演出していました。

根白石バス停と七夕飾り

根白石バス停と七夕飾り
(泉区根白石、2004.8.8撮影)

根白石界隈は、広域中心都市仙台の都市化の波を濃厚に反映させる泉区の中にあって、ひときわこの地域の原風景を今に留めるエリアとなっているようでした。のびやかな田園風景、ゆるやかな丘陵景観、そして地域を見つめる泉ヶ岳と七北田川などの豊かな自然。仙台の、泉の貴重な資源として、今後とも大切にしていってほしいな、と心より思います。


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