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#15 晩秋の伊那谷・駒ヶ根高原へ ~自然と歴史が織りなす風景~ 2020年11月2日、長野県南部、伊那谷の千畳敷カールを訪れようと、早朝から地元を出発し、高速道路を西へ、車を走らせました。空が白み始めた頃小休止のために到達した長野道・姨捨サービスエリアからは、善光寺平の夜景を見通すことができました。近傍の姨捨駅からの景色は、日本三大車窓のひとつにも数えられています。その後は中央道諏訪湖サービスエリアから、紅葉が美しい諏訪湖の風景を確認した後に諏訪インターチェンジで高速を降り、高遠へ向けて国道152号を進みました。
杖立峠へとヘアピンカーブを上がりながら辿る道は紅葉も進んでいまして、信州らしい穏やかな山並みの風景も相まって、とても軽やかな気持ちになります。峠を下った先は、伊那谷の東側を南北に細く連なる中央構造線由来の長大な谷筋を進みます。幾重にも山並みが続く信州の地域にあって、伊那谷や西側の木曽谷の穿つ谷間は人々の生活の舞台であるとともに、中山道などの交通の要路となってきました。峠を下った国道沿いには、御堂垣外(みどがいと)の旧宿駅と基礎とした町並みが残されていました。 伊那市高遠地区は、春は高遠城址公園の桜が有名な、山間の小さなかつての城下町です。多くの観光客が訪れる春とは打って変わって、晩秋の町並みは、訪れる人も無く、とても穏やかな佇まいでした。高遠城址公園のタカトオコヒガンの木々はすっかりと葉を落としていましたが、イロハカエデは美しく紅葉していまして、移りゆく季節をしっとりと彩っていました。高遠から伊那市中心部へ向かう途上で、三峰川(みぶがわ)の桜並木が美しく色づいているのを見つけ、立ち寄りました。桜並木は、昭和20年代後半に三峰川総合開発工事で切り倒されましたが、1994(平成6)年にそのことを学習した美篶小の児童がかつての桜並木を復活させようと植えたものであるそうです。地域の風景に新たな息吹が加わって、深みを増す現場を見たような気がいたしました。
天竜川沿いに出てからは、一路南へ進路を取り、駒ヶ根高原へと向かいます。天竜川の支流、大田切川がつくる、大規模な田切地形を駆け上がりながら、中央道駒ヶ根インターチェンジを抜けて、菅の台バスセンターへ。このバスセンター一帯が駒ヶ根高原と呼ばれるエリアで、千畳敷カールへの玄関口ともなっている場所です。本来の目的は、ロープウェイに乗って到達できるその千畳敷カールへ進むことだったのですが、この日は次第に天候が崩れる予報で、次第に雨となる見込みであったことから、この駒ヶ根高原周辺を散策しつつ、ロープウェイへと進む道路を散策するツアーに参加して、晩秋の高原の風景を探勝することとしました。 木々が徐々に色づき始めていた駒ヶ池を一瞥した後、高原の南に位置する古刹・光前寺へと歩を進めました。穏やかな山林に包まれた寺の近傍には、国の重要文化財指定を受ける旧竹村家住宅も移築されるなど、歴史文化的な景観が整えられているのも印象的です。紅葉が鮮やかに進む境内には、国の名勝となっている庭園が設えられて、晩秋の情趣をいっぱいに、厳かな風景の中に満たしていました。860(貞観2)年、本聖上人が開基したと伝わる天台宗の寺院は、時代を超えて多くの信仰を集め、この伊那谷の一隅にて静かに時を刻んでいました。
菅の台バスセンターへ戻る頃には、雨が徐々に降り始めていて、楓が色づく太田切川の河床の礫も、晩秋の雨にしっとりと濡れ始めていました。千畳敷カールへと進む県道を散策しながら、一雨ごとに冬めく季節を実感しました。そして、山深い信州の、多様な山岳景観は、だんだんと緑色から黄色、そして褐色へ、その表情を変えようとしていました。 |
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