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みすずかる信州絵巻


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#16 松本市街地散策 ~湧水群に支えられた城下町の現在~

 2020年11月2日、駒ヶ根高原周辺を訪れた私は、悪天候のため千畳敷カールへの訪問を取りやめた代わりに、地元への帰路の中途で松本市街地に立ち寄りました。雨は降ったり止んだりを繰り返す状態ではありましたが、夕方までの数時間、この信州の城下町を歩いてみることとしました。まずは松本城近くの市営大手門駐車場に車を止めて、松本城へと歩を進めました。近隣では市博物館の整備事業が進んでいるようでした。

松本城

松本城の風景
(松本市丸の内、2020.11.2撮影)
松本城を望む

松本城から城内を望む
(松本市丸の内、2020.11.2撮影)
北門大井戸

北門大井戸
(松本市丸の内、2020.11.2撮影)
北馬場柳の井戸

北馬場柳の井戸
(松本市丸の内、2020.11.2撮影)

 南側から城内に入ります。ゆっくりと進みますと、内堀の向こうに石垣の上に悠然と立つ松本城の天守が目に入ってきます。天気がよければ、天守越しに北アルプスの山並みを望むことができる、松本城を象徴する景色の一つに立ち会うこともできます。黒門から内側に入り、本丸御殿跡を一瞥しながら、天守へ登城しました。最上階からは、盆地に展開している松本の市街地を美しく眺望できます。城内の木々はきれいに色づいていまして、やわらかに雨に濡れる市街地は、低い雲に包まれた山々に抱かれながら、静かに初冬の時間を刻んでいました。国宝の松本城は、その天守が江戸時代以前から存在していた、「現存天守」のひとつとして知られます。大天守に3つの櫓が付属する城は、時代時代に改修や付加が行われた経緯があって、その変遷を象徴する存在が月見櫓です。江戸時代に入り、家光の善光寺参詣の予定に合わせて作られた、饗応のためだけのスペースです。結局、家光の参詣は行われず、使われることのなかったその櫓は、現在では戦国時代の要塞としての城から、藩政期における政庁としてのそれへの変化を今に伝えています。

 太鼓門へと続く枡形を進み、内堀を渡って太鼓門へ。正面の市役所を一瞥しながら、北へ外堀に沿って進みます。松本盆地は扇状地の末端部にあたるため、市街地においても至る所に湧き水が存在していて、人々の生活を支えてきました。松本城の堀の水も、すべてこの湧水から供給されています。市役所北交差点の傍らには、そうした自噴する井戸の一つ、地蔵清水があります。城下町整備の過程で井戸を掘ったところ、地蔵尊が現れたという謂われが伝わります。さらに東へ歩き、現在は一部を残し埋め立てられた総堀を越えた深志橋交差点から北へ。総堀の埋め立てられた跡には、北門大井戸や、地元有志により再興された北馬場柳の井戸などが存在して、松本盆地が水が豊かな場所であることを実感します。近傍には擬洋風建築の校舎として、明治初期の面影を今に伝える旧開智学校の校舎や、現存する数少ない武家住宅の一つである高橋家住宅も立地しています。

旧開智学校

旧開智学校
(松本市開智二丁目、2020.11.2撮影)
高橋家住宅

高橋家住宅
(松本市開智二丁目、2020.11.2撮影)
総堀沿いを歩く

総堀沿いを歩く
(松本市城東一丁目、2020.11.2撮影)
東門の井戸

東門の井戸
(松本市大手四丁目、2020.11.2撮影)

 いまだ弱い雨の降り続く中、楓の木々が色づく市街地を南へ歩きます。総堀から続く街路を歩きますと、東門の井戸と呼ばれる湧水に辿り着きました。水に育まれる地域性を活かそうと、市が「水めぐりの井戸整備事業」を行い、その一環で掘られた井戸の一つがこの東門の井戸です。名称は、松本城の東門馬出跡にあることに基づきます。清冽な水を潤沢に放出するその井戸は、この町はまさに水によって存立し得てきた歴史そのものを示すかのようです。女鳥羽川沿いのナワテ通りや、蔵の街造りの建物が建ち並ぶ中町通りを歩きながら、城下町として栄えてきたこの町の風情を実感します。小さな流れに沿う高砂通りを辿った先には、源智(げんち)の井戸がありました。瑞松寺の門前にあるこの井戸は、松本城下町が開かれる前から利用されてきた湧水です。現在でも、地域の人々によって美しく管理がなされているとのことでした。

 松本駅前へ続く大通りの一つである「あがたの森通り」を横断し、天神様として親しまれる城下町南部の総鎮守・深志神社へ。社殿による創建年代は1339(暦応2)年という古刹は、この地が城下町として整備されるにつれて歴代の藩主の崇敬を受けるようになり、今日に至っています。境内のイチョウや桜、その他の落葉樹は黄色に橙色に豊かに色づいていまして、晩秋の冷たい雨に濡れてよりいっそうその鮮やかさを増していたように感じられました。

中町通りの風景

中町通りの風景
(松本市中央三丁目、2020.11.2撮影)
源智の井戸

源智の井戸
(松本市中央三丁目、2020.11.2撮影)
深志神社

深志神社
(松本市深志三丁目、2020.11.2撮影)


JR松本駅前
(松本市深志一丁目、2020.11.2撮影)

 松本城下町散策の最後は、市の玄関口である松本駅前へと足を伸ばしました。長野県中部における中心都市としてその拠点性を維持してきた趨勢は、駅前から松本城方面辺りへと連担する、中高層の商業・業務系ビルの存在によって窺い知ることができます。近年は新幹線の開業による県都・長野市の存在感も高まっていますが、長野県の国立大学である信州大学がこの町に依然として本部を置き続けていることなど、松本が城下町として培ってきた歴史と文化が、現在の中核都市としての礎となっていることも見逃せない事実であると感じました。

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