Japan Regional Explorerトップ > 地域文・関東甲信越地方 > 東京優景・目次

東京優景 〜TOKYO “YUKEI”〜

#30(池上・田園調布編)のページ
#32(都心北縁桜めぐり編)のページへ→
#31 高尾山周遊 〜身近で繁華な自然の宝庫を歩く〜 (八王子市)

 2010年1月23日、午前10時30分過ぎに到着したJR高尾駅前は冬の穏やかな晴れ間の下にありました。ここから至近の京王線の駅から高尾山駅へ移動し、高尾山散策をスタートさせます。関東山地のやわらかな山並みに溶け込むようなケーブル清滝駅まで、案内川に沿った穏やかな参道を進みます。観光地となった現在は多くの登山客を受け入れるこの場所でも、元来修験場であった鄙びた雰囲気も感じさせます。

 高尾山の魅力は多様な登山コースが用意されていることです。1号路から6号路まで付番されたルートは登山ルートになっているもの(1・3・4・6)と同じ地点に戻る周回コース(2・5)に大別されます。それぞれが自然や歴史に着目したテーマを持っていて、尾根筋を行く「稲荷山コース」とともに個性ある周遊を楽しむことができるようになっています。

高尾山ケーブルカー・清滝駅

高尾山ケーブルカー・清滝駅
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
ケーブルを俯瞰

高尾山ケーブルの索道を俯瞰
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
八王子市街地

高尾山・霞台展望台から八王子市街地を望む
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
都心方向

高尾山・霞台展望台から東京都心方向を望む
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)

 今回は初の訪問ということもあって、多くの人々が利用するケーブルを利用し中腹まで向かいました。最も急な位置で31度18分という、日本一の斜度を持つケーブルカーです。並行して動くリフトとともに、豊かな森に包まれた高尾山の山容と眼下の市街地の眺望をよりダイナミックに体感することができます。終点の高尾山駅には展望台があり、山麓の八王子市街地をはじめ、都心から相模原市の中心部(橋本)、横浜中心部から神奈川県南部藤沢方面、江の島も遠望できる大パノラマが展開しています。ケーブルカーやリフトは「表参道コース」と呼ばれる1号路の一部をショートカットするような格好になっていまして、山頂を目指す道路は6号路を除きこの高尾山駅周辺(霞台)が起点(1号路は中間点)となっています。また、2号路はこれらのルートを連接しながらこの周辺を周回するループコースとして設定されています。

 展望台を後にして、霊山として古くより修業の場となってきた参道(1号路)を進みます。十分に整備された参道を進みますと、高尾山薬王院境内の入口である浄心門へと至ります。傍らには市指定天然記念物の蛸杉が凛とした樹勢を見せています。浄心門からは百八段の階段を経てゆるやかな山道が本堂へと続いています。樹齢一千年近いという巨杉の並木は、ここが信仰の山高尾山の只中であることを実感させます。齢を重ねた杉は注連縄を施され、高尾山の精霊たる天狗の宿る拠り所としても重要視される存在でもあるようです。薬王院の本尊である飯縄大権現の随身として古くから神格化された天狗は、この地で修業を重ねる山伏たちの態様や山そのものが持つ霊気とあいまって信仰の対象とされ、同時に高尾山を象徴する事物の一つとなっています。見上げるような高い樹冠をつくる杉のつくる暗がりはそうした雰囲気を想像させるに余りある荘厳さを放っているように感じられました。

浄心門

高尾山薬王院・浄心門
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
杉並木

高尾山薬王院・参道の杉並木
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
天狗像

高尾山薬王院・天狗の像
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
山門

高尾山薬王院・山門
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)

 新年を迎える松と杉の飾り付けが五色幕に映えていた山門を通り、本堂への石段を上って下り、仁王門へと歩を進めます。多くの参詣役が訪れる本堂は、冬の鮮やかな青空の下でたおやかな姿で人々を迎えていました。薬王院は正式には「高尾山薬王院有喜寺」と号します。744(天平16)年、聖武天皇の勅令により東国鎮守の祈願寺として、行基により開山されたと伝えられます。真言宗智山派である当院は、成田山新勝寺と川崎大師平間寺とともに同派の三大本山として知られています。

 本堂の近くには飯縄大権現を本尊として祀る本社もあり、仏教信仰と神社信仰とが並立してきた日本における伝統的な様式が典型的に認められるのも特徴です。大師堂や不動堂(奥の院)とともに、江戸期における代表的な寺社建築として都の指定有形文化財にも指定されています。本堂などの中心的な堂宇は高尾山の中腹、南の山肌に面して開けた斜面に展開していました。参道の木々に包まれたほの暗い空間を経て到達する光にあふれる境内は、あらゆる邪気をも突き抜けて安寧を希求する舞台であるようにも感じられました。平和は輝かしく、そして揺るぎないもの。豊富な種類の植物が集まりひとつの生態系を構成する高尾山は「小さな地球」としてそれを体現しているかのようでした。

本堂

高尾山薬王院・本堂
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
山頂への山道

高尾山頂への山道
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
高尾山頂

高尾山頂からの山並み(この日は富士山は見えず)
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)
高尾山頂

高尾山頂の景観
(八王子市高尾町、2010.1.23撮影)

 薬王院を後にして、山頂へ向かいます。奥の院の脇を西へ進み、照葉樹に覆われたなだらかな尾根筋を歩くと、およそ10分ほどで山頂へと到着できました。落葉広葉樹と照葉樹、そして針葉樹それぞれの分布域が交錯する高尾山は霊山としてそれぞれの時代の権力者から保護を受け、近現代も貴重な自然を保護する政策がなされて今日までその環境を維持してきました。厳冬の季節、多くの木々が葉を落とす中で、冬の柔らかな日差しを返す照葉樹の輝きや冬ざれた雰囲気をさらす針葉樹の姿はまさにその希少性の具現そのものでした。十三州の山々を眺望できたというパノラマはまさに筆舌に尽くしがたく、幾重にも重なる山々がたなびく姿はまさにこの国の多彩な風土を表現しているかのようで、現代都市が広がる広大な関東平野もこれらのおびただしい山野に抱かれて存立していることを改めて教えられたようにも思えました。

 古来より修験の山として信仰と畏怖との対象となってきた高尾山は今日、多くの観光客を受け入れる一大観光地として優しいほほえみを絶やすことがないように思えます。富士山や筑波山などのように独立した山体を持ちそれを日々見上げる人々を抱くような崇高さを持つ山に対して、高尾山は連なる峰々の間で人々に寄り添い導く存在であるようにも感じます。自然を愛し、尊敬し、四季の移ろいに学びながら育まれた我が国の文化の基底には、そうした千山万水への愛着や敬慕があるとも思います。高尾山の風景は、未来へと承継するかけがえのない財産であると確信しました。

#30(池上・田園調布編)のページ

#32(都心北縁桜めぐり編)のページへ→
このページのトップへ          東京優景目次ページへ        ホームページのトップへ

Copyright(C) YSK(Y.Takada) 2014 Ryomo Region,JAPAN