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関東の諸都市・地域を歩く
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#151 今市から奥日光・湯元へ ~晩秋の今市と湯ノ湖周辺の風景~ 2018年10月21日、立冬を間近に控えたこの日、日光市の下今市駅を訪れました。日光街道の宿場町として栄えた今市宿を基礎とする今市の町並みは、大谷川がつくる扇状地の扇頂部に位置することも相まって、同街道の他、壬生道(日光例幣使道)、日光北街道、会津西街道が収束する交通の要衝として栄えました。報徳二宮神社を参詣した後、町並みの裏道を北へ辿り、大谷川端の川原町まで出ますと、広々とした河川敷の向こう、女峰山から男体山へと連なる山並みを快く眺めることができました。
堤防上のサイクリング・歩行者用の散策路を歩きます。桜並木や大谷川沿いの河畔林がみずみずしい空気を漂わせる、気持ちよく歩くことのできる道筋です。時々認められる水田は既に刈り入れが終わっており、路傍のヨメナがやわらかな秋の日射しを受けて瞬いていました。部分的にカエデなどの紅葉が始まっているだいや川公園内をそぞろあるきながら東武線の下をくぐって、杉並木が涼やかな木陰をつくる日光街道へと出ました。江戸時代に整備された杉並木はかなりの高さに成長していまして、並木というよりは、杉の森の中を歩いているような感覚です。道路沿いには水路に清冽な水が流れていまして、藩政期そのままの雰囲気を豊かに残しているように感じられます。今市小前の交差点で国道に接続した旧街道筋は、瀧尾神社の木の鳥居が厳かな佇まいを見せていました。この日は、恒例の今市屋台まつりが開催されていまして、各町内から繰り出した彫刻屋台や花屋台が華やかな風情を演出していました。 下今市駅に戻り、電車で東武日光駅へ。駅前のバスターミナルで湯元温泉行きのバスを待ちました。奥日光の紅葉が見頃を迎えていたこの季節は、いろは坂を中心に道路は渋滞していまして、12時50分出発のバスが日光東照宮入口の神橋に達したのが1時30分頃、いろは坂を登り切って中禅寺温泉のターミナルに到着したのは午後4時手前になっていました。その間、いろは坂の様子を車窓から長い時間眺めることができたのですが、紅葉はまだこれからといった印象で、背景の山々も幾分か緑色を残した色合いであったように思います。日が傾き始めた中禅寺湖のきらきらした湖面を時折確認しながら、バスは相変わらずのゆっくりとしたペースで進みます。中禅寺湖畔は紅葉が進み始めていて、黄色や橙色に色づき始めた風景が夕方の空気に溶け込む様子を眺めていました。
龍頭の滝を過ぎ、徐々に交通渋滞も解消して、草紅葉が鮮やかな色を一面に広がる戦場ヶ原は空色と茜色と、湿原の黄金色とが絶妙なコントラストを見せていまして、沿道の落葉松の森も芥子色に染まっています。バスは戦場ヶ原の北側に入った場所にある光徳温泉を経由して国道に戻り、湯滝入口バス停に着いたのは午後4時50分になってしまっていました。いろは坂より山側に入った、中禅寺湖や戦場ヶ原、湯元温泉にかけての一帯は一般的に「奥日光」と呼ばれます。いろは坂を上った先には日本三大瀑布のひとつである華厳の滝があります。男体山からの噴出物によって堰き止められたことによって中禅寺湖が誕生し、華厳の滝もそれによりできあがった段差を滑り降りています。中禅寺湖北の龍頭の滝も同様に噴火による段差によって生まれていますし、湯ノ湖と湯滝も同じく、堰止め湖とその湖から流出する滝という関係にあります。鮮やかに色づく木々と、常緑針葉樹林とが混交する散策路を進み、日が徐々に傾く中、湯滝へと歩を進めました。 滝壺近くの観瀑台から見た湯滝は白い水しぶきを上げながら、豪快に溶岩流によって形成された崖を流れ下っています。カエデの中間の木々は本当に美しく朱色に、黄色に色づいていまして、だんだんと暗がりの中に沈みつつある山の光景の一部となっていました。上流の湯ノ湖へは、この湯滝に沿って進む遊歩道で向かうことができます。滝の落差分だけゆるやかに登っていく道のりからは、しなやかなシルクの布のような湯滝の流れを横から眺めながら歩いて行くこととなります。薄暗くなる時間帯ではありましたが、紅葉の木々はそのわずかな日光を受けてもなおとびきりの光彩を見せていまして、深まりつつある晩秋の風景をリアルに表現していました。湯滝の直上からの風景の彼方には、奥日光のたおやかな山並みが広がって、古来より修験の場として神聖視されてきた幽境の荘厳さを感じさせました。
遊歩道はやがて湯ノ湖のほとりに出て、山奥の静かな湖面が漆黒に包まれある中をゆったりと歩を進めました。湖面には夕方の秋の空がそのまま反射していまして、やがて訪れる沈黙の季節を前に、一時慎ましやかな時間を過ごしているように認識されます。湯ノ湖へは湯元温泉の湯も流れ込んでいまして、温泉に近い辺りでは湯煙やほのかな匂いも漂います。秋の観光のハイシーズンであり、東武日光駅へ戻るバスが来るのを、しばし湯ノ湖の湖畔で待ちました。バスが遅れて湯ノ湖に着いたのが夕刻となったことで目にすることのできた黄昏の奥日光・湯ノ湖周辺の風景は、命萌える季節から盛夏を過ぎ、次代へと繋ぐ季節へと進む1年の循環を総括するような崇高さを放っているように思われました。 ※一部写真はバス車内から撮影しているため、車中が映り込んでいます。ご了承ください。 |
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