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関東の諸都市・地域を歩く
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#155 越生、山河に新春の自然を見つめる ~外秩父山地に抱かれる風景~ 2019年1月12日、2019年が明けて最初のフィールドワークは、2017年の新春に訪れて以来の埼玉県越生町での開始となりました。東武東上線越生駅への到着は午前8時30分過ぎで、やや明るい雲に包まれながらの晴天の早朝は、厳寒の時期らしい寒さの中にありました。2017年とほぼ同様の散策コースを辿ることとなりましたが、越生中心部とその郊外の山野をめぐりながら、随所に顔を出し始めた春を見つける散策へと出発しました。
昔さながらの簡素な切妻屋根の駅舎には、今では珍しい手書きの駅名標が掲げられていまして、旅情を誘っていました。駅前の町の中心街は程なくして外秩父山地へと続く丘陵の末端に突き当たり、穏やかな木立に覆われた法恩寺の境内へと進みます。商店街には梅の小枝が生けられていた場所もあり、新春の雰囲気を醸し出しています。法恩寺からは北側へ下り、1909(明治42)年に、越生市街地周辺の神社を合祀し造営された、町の総鎮守たる越生神社へと登る山道へと進みます。冬木立は早朝の深閑さに包まれていまして、すっかり葉を落とした木々と、常緑のみずみずしさを保つ照葉樹とのコントラストが、この季節らしい凛烈さを際立たせていました。振り返りますと、やや光量の少ない空の下、静かに佇む越生の町の家並みが寒々しさを印象づけます。谷筋の奥まった場所に境内地を持つ正法寺を参詣した後は、氷がうっすらと張る小流を見やりながら市街地へと戻り、役場や保健センター、小学校などがある道路を北へ歩きました。 住宅地と畑地とが混在するエリアを過ぎ、三滝入口交差点にある歩道橋を越えて、県道に沿って進む町道へと入ります。越辺川を渡る部分は歩行者専用となっているようで、橋上からは水量の少ない冬ざれた河床を見下ろします。渡った先では農地の面積がさらにその割合を増して、穏やかな田園風景の中を歩いて行くこととなります。三角錐状の尖った山容が特徴的な弘法山の山腹には、弘法山観世音が佇みます。ややきつい石段を上った寺域からは、山並みを越えて射し込み始めた冬の朝日が徐々にその暖かさを増して周囲を包み込んで、幻想的な風景をなしていました。斜面を覆うスイセンもいっぱいに花を咲かせていまして、わずかに芳香を漂わせていました。弘法山観世音の参拝後は、越辺川がつくる谷間の平地を西へ、なだらかな山々の稜線を確かめながら歩を進めていきます。集落と水田とが連続する風景は、やがて越生を代表する景観-梅林の広がる風景-へと移り変わります。2月上旬頃には見頃を迎え、多くの観梅客を集める関東有数の梅園は、枝先に数輪の花を開き始めていまして、やがて訪れる歓喜の季節を切望しているように感じられました。
越生梅林のしなやかな表情を探勝しながら到達した最勝寺では、紅梅と蝋梅とがいっぱいに花をつけていまして、新春らしい華やかさに包まれていました。越辺川により沿うように進む道沿いには、製粉や紡織などに利用された水車が稼働していた堰の跡や、随所に栽培されている梅の木々のほか、健康寺(けんごうじ)などこの地域にゆかりを残す太田道灌(及び父の道真)の史跡が点在していまして、清浄な空気の中、快い散策を楽しむことができました。近年は梅の名所として知られるようになりましたが、道中には製材に関連する事業所も少なからず存在していまして、そうした産業の存在に、山とともに生きた里の歴史を垣間見ることができます。梅の木がここかしこに植えられた近隣をさらに進み、何度か目の越辺川の渡河を経て、県道に出、程なくすると越生自然休養村センター(うめその 梅の駅)へとたどり着きました。越生では、冬の時期柚子も盛んに栽培されていまして、それを利用した加工品などもたくさん置かれていました。 センター裏の円通寺を参詣した後は、いよいよ山中然とした風景が卓越する県道沿いを進み、越辺川支流の麦原川のつくる河谷に沿った町道へとさらに山を分け入ります。この道筋は「あじさい山公園」へ続く「あじさい街道」として整えられていて、沿道にはたくさんのアジサイが植えられていました。小杉地区から龍ヶ谷地区へと越える峠道へと針路を採りますと、周辺には特産の柚子の木がたわわに実を付ける様子なども確認できまして、厳冬の山間の風韻をより印象づけていました。時折つづら折りに登る山道は小規模な集落を伴っていまして、奥山における暮らしがどのようなものであったかに思いを致しました。やや勾配のきつい峠道をやっとの思いで越えた先には、龍ヶ谷地区の穏やかな山村の景色が一気に広がっていきました。山中を静かにたゆたうような流れに沿って、鄙びた風貌を呈する龍ヶ谷地区を歩いて行きますと、龍穏寺の簡素ながら重厚な佇まいを見せる山門へと導かれます。同寺の境内地の規模に、深山ながらも、地域に根ざした豊かな暮らしが存立していた歴史を垣間見ました。
龍ヶ谷地区からは、さらに越辺川の支流と支流の間の尾根筋を越える山道へと侵入して再び越辺川本流に沿う県道へと合流し、黒山三滝入口の鉱泉宿が集まるエリアへと到着、最後の目的地で会った全洞院の参詣を終えました。越辺川の流れはとても清らかで、やや緑がかった河床の岩が、その透明さを際立たせていました。間もなく春本番を迎え、いっせいに梅香が春の風に華やぎを与える越生の山野は、どこまでも物静かで、そしてこの上のない気品に満ちていました。 |
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