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関東の諸都市・地域を歩く


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#164 2019年、長瀞秋の七草寺めぐり ~七草と秋の花々に魅せられる~
 
 2019年9月15日、ここ数年この時季に訪れている、埼玉県長瀞の秋の七草寺めぐりにこの年も出かけました。夏の暑さの余韻が空の輝きに存分に滲む朝、秩父鉄道長瀞駅前を、宝登山神社の大鳥居のある参道入口の交差点に向けて、まず出発しました。

宝登山神社の鳥居

宝登山神社の鳥居
(埼玉県長瀞町長瀞、2019.9.15撮影)
宝登山神社への参道

宝登山神社への参道、キバナコスモス
(埼玉県長瀞町長瀞、2019.9.15撮影)
不動寺・撫子

不動寺・撫子
(埼玉県長瀞町長瀞、2019.9.15撮影)
不動寺参道から長瀞の町並みを望む

不動寺参道から長瀞の町並みを望む
(埼玉県長瀞町長瀞、2019.9.15撮影)
稲穂が垂れる水田

稲穂が垂れる水田
(埼玉県長瀞町長瀞、2019.9.15撮影)
桑畑のある風景

桑畑のある風景
(埼玉県長瀞町長瀞、2019.9.15撮影)

 これまでもご紹介してきたとおり、長瀞の秋の七草寺めぐりは、1つの寺院に1つずつ秋の七草が割り当てられていて、それらを歩いて巡礼するというものです。巡る順番は特には決められていませんが、長瀞駅から出発するウォーキングコースとしては、宝登山麓にある不動寺(撫子)を皮切りに、真性寺(女郎花)を経て荒川を渡って法善寺(藤袴)を参詣、再び荒川の左岸へ出て、多宝寺(桔梗)、洞昌院(萩)と回って山道を登った先の遍照寺(葛)へ到達後、三度荒川の左岸に位置する道光寺(尾花)を目指すというルートになっています。それぞれの寺院における七草は、各秋らしい情趣を存分にみせてくれていまして、残暑の様相を残す気候の下にあって、とても清々しい散策を楽しむことができました。今回は、秋の七草めぐりの道のりにおいて随所に見つけることのできた、七草以外の風景に認める「秋」を中心に、文章を進めていければと思います。

 長瀞を代表する風物といえば、岩畳と秩父赤壁に代表される荒川の渓谷美と、ライン下りです。この七草寺めぐりにおいても、荒川を三回渡ることになるので、その美しい風景を目にすることができます。しかしながら、そうした河谷の景色の他に、それらの背景にある雄大な山並みと、それらの抱かれる大地のたおやかさこそ、長瀞という土地をより象徴しているのではないかと、このイベントに参加するたびに思えるようになっています。宝登山神社の鳥居をくぐり、山頂へ向かうロープウェイ駅へと進む車道の坂道を進んだ先にある不動寺への往復では、宝登山の山稜と山裾の穏やかな山林、そして帰路には盆地にゆるやかに広がる長瀞の家並みを感じることができます。路傍にはキバナコスモスや彼岸花なども咲いて、それらが秋の訪れを告げています。

真性寺・女郎花

真性寺・女郎花
(埼玉県長瀞町本野上、2019.9.15撮影)


金石水管橋からみた荒川
(埼玉県長瀞町本野上/井戸、2019.9.15撮影)
法善寺とサルスベリ

法善寺とサルスベリ
(埼玉県長瀞町井戸、2019.9.15撮影)
法善寺・藤袴

法善寺・藤袴
(埼玉県長瀞町井戸、2019.9.15撮影)
多宝寺・桔梗

多宝寺・桔梗
(埼玉県長瀞町本野上、2019.9.15撮影)
コスモスの咲く風景

コスモスの咲く風景
(埼玉県長瀞町野上下郷、2019.9.15撮影)

 不動寺から真性寺へは、国道140号の歩道は通らず、長瀞第一小学校脇の歩道橋で国道を越えるまでは、国道より西側の丘陵の麓を辿る小路を進みます。この道筋には、桑畑や小規模な水田があって、繊維産業で栄えた秩父盆地の歴史や、稲穂が垂れた初秋らしい風景に出会うことができます。交通量の多い国道を避けているのは、歩行者の安全を確保することが目的なのだと思いますが、そうした喧噪から離れて、落ち着いた景観の集落の中をゆったりと歩くことができるのは、このコースの醍醐味の一つであると言えるのかもしれません。小学校に接する歩道橋で国道の東側に出ますと、秩父鉄道の鉄路に沿った、住宅の多いエリアの中を進みます。真性寺はそんな家並みに重なるように佇むこぢんまりとしたお寺さんなのですが、門前に咲き誇る女郎花は例年たいへん見事な黄色や白を秋空に映えさせてくれています。

 さくら名所100選にも採られている長瀞の桜並木が続く町道を横断し、金石水管橋を渡って藤袴の法善寺へと向かう部分は、荒川のつくる豪快な峡谷の風景と、東西の山並みとを、よりダイナミックに捉えることができる行程であると思います。荒川右岸は長瀞の市街地を包摂する左岸側とは異なって、畑地が多い、より農村的な土地利用がなされているのが特徴です。地域を南北に貫く県道にはサルスベリが街路樹として植栽されていまして、サルスベリ独特なしなやかさと鮮やかさとが溶け合うような花が咲き誇るさまは、山並みと畑とが形づくる緑の多い集落景観に実に涼やかに馴染んでいるように感じられます。そうした山を背に営まれる法善寺の堂宇は、藤袴の野趣溢れる花弁のほかに、シュウカイドウやヨメナの花などの秋の草花によって彩られていました。

洞昌院・萩

洞昌院・萩
(埼玉県長瀞町野上下郷、2019.9.15撮影)
洞昌院境内

洞昌院境内から萩と山並みを望む
(埼玉県長瀞町野上下郷、2019.9.15撮影)
遍照寺・葛

遍照寺・葛
(埼玉県長瀞町野上下郷、2019.9.15撮影)
遍照寺への参道の森

遍照寺への参道の森
(埼玉県長瀞町野上下郷、2019.9.15撮影)
道光寺・尾花

道光寺・尾花(ススキ)
(埼玉県長瀞町岩田、2019.9.15撮影)
長瀞の山並み

長瀞の山並み
(埼玉県長瀞町岩田、2019.9.15撮影)

 多宝寺境内の西側に、桔梗がいっぱいに植えられた花畑があるのですが、桔梗の花期は一般的な秋の花々よりも早いこともあって、このイベントが行われる9月上旬ではその盛りが過ぎていることが多いように思います。境内には鉢植えの桔梗がいくつか青紫の花を咲かせていまして、センニチコウのかわいらしい花と並んで、秋の清涼を演出してくれていました。多宝寺から萩の洞昌院へと進むルートは、再び国道140号をクロスして、西側の山並みの麓をなぞるようにつながっていきます。山を刻む小流を渡ったり、コース前半に確認したものよりも面積の広い水田の脇を通ったりしながら、視界いっぱいに展開する、長瀞の美しい山並みを堪能しながらの歩行となります。コスモスや酔芙蓉がやさしいピンク色の花をつけていたのが印象に残っています。もちろん、洞昌院の萩の花も、風情に溢れた色合いを湛えていました。

 洞昌院から葛の遍照寺までの道のりは、本稿で過去に長瀞をご紹介していた際に記しているように、昔ながらの養蚕農家の特徴を残す民家などが残る谷間の道路を上った後、やや急勾配の山道を登っていく、このハイキングコースの中では唯一の体力を要する箇所を含むものとなっています。遍照寺は山の中腹に境内地を広げているため、その前後では広葉樹の森の中を歩く格好となります。暦の上では秋となっているとはいえ、山の木々はまだ濃い緑をそのままに残していまして、葛の花が漂わせる甘いかすかな芳香と、輝かしい日射しとを、ゆるやかに受け止めていました。葛の花は、国道140号の歩道を北へしばらく進み、樋口駅手前で駅の東側へと進む町道の脇、荒川を見渡す道端にもいっぱいに認められまして、茂みの下に可憐な青い花をつける露草と絶妙なコントラストをみせていました。尾花(ススキ)の道光寺で七箇所目の参拝を終えて、ゴールとなる樋口駅へと進む間でも、長瀞の山並みと荒川の渓谷美とを存分に味わうことができまして、そのパノラマもまた、コスモスやサルスベリなどのたくさんの秋の草花によって装飾されていました。


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