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関東の諸都市・地域を歩く


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#165 秩父市街地と横瀬・棚田の風景 ~秩父盆地、多様な景観~
 
 2019年9月15日、長瀞の秋の七草寺めぐりを終えて秩父鉄道・樋口駅へと到達していた私は、そこから三峰口方面の列車に乗車し、秩父駅を目指しました。列車を待つ間、石灰石をたくさん積載した貨物列車が通過していきました。最盛期よりは出荷量は減少しているといいますが、私鉄では現在でも有数の規模を誇るという、秩父鉄道の貨物輸送線としての顔を見ることができました。到着した秩父駅は、駅舎が地場産業センターを兼ねていまして、それは山間の市街地の中心地におけるランドマークとして十分に機能しているように感じられます。

秩父駅

秩父駅
(秩父市宮側町、2019.9.15撮影)
武甲山を望む

秩父神社東側の市道、武甲山を望む
(秩父市番場町、2019.9.15撮影)
秩父神社

秩父神社
(秩父市番場町、2019.9.15撮影)
秩父神社

秩父神社、神門越しに鳥居を望む
(秩父市番場町、2019.9.15撮影)
秩父ふるさと館

秩父ふるさと館
(秩父市本町2019.9.15撮影)
本町通り

本町通り・旧秩父往還の風景
(秩父市本町、2019.9.15撮影)

 駅前のロータリーから南へ歩きますと、程なくして秩父神社の鳥居前へと至ります。社叢の森がうっそうとした雰囲気をつくり、向かいの秩父まつり会館との間の空間には、彼方に秩父のシンボルである武甲山がしなやかな姿を見せています。神社の本殿は境内の中央、神門をくぐった一段高い場所に鎮座しています。例祭は、日本三大曳山祭として知られる「秩父夜祭」で、12月2・3日の両日に開催されます。秩父神社を参詣した後は、本町交差点へ進み、秩父の市街地へを歩を進めます。市街地を南北に貫く道路は、熊谷から秩父盆地を通り、雁坂峠を越えて甲州へと続く「秩父往還」の一部をなします。現在このルートに相当するのが国道140号ですが、現道は市街地の東をバイパスで抜けています。本町交差点に接して、「秩父ふるさと館(国の登録有形文化財)」の建物があります。1930(昭和5)年建築の旧柿原商店の商家建築を資料館として解放しているものです。秩父銘仙の問屋で会った同家の均整の取れた佇まいは、繊維産業で栄えたこの町の往時を偲ばせます。

 本町交差点を西へ路地を入りますと、道はゆるやかな下りとなり、市街地が荒川のつくる段丘上に立地していることが理解されます。市街地は段丘の下へも連続していまして、住宅地の中にものこぎり型の屋根を持つ工場建築などの散見されて、土地の歴史を静かに景観の中に刻んでいました。旧秩父往還は場所ごとに呼び名が変わるようで、本町交差点以北、秩父駅入口までは「みやのかわ大通り」で、交差点以南は本町通り、中町通りとなるようです。通り沿いには、上記の秩父ふるさと館のほか、「ほっとすぽっと秩父館(1879(明治12)年建築、旧秩父館(商人宿))をはじめとした商家・町屋建築が、現代の建築物に混じってよく保存されています。登録有形文化財となる近代建築も多く、昔ながらの豊かな町並みを散策しながら周遊することができました。



のこぎり型の屋根が見える風景
(秩父市本町、2019.9.15撮影)
ほっとすぽっと秩父館

ほっとすぽっと秩父館
(秩父市宮側町、2019.9.15撮影)
段丘を下る路地の景観

段丘を下る路地の景観
(秩父市本町、2019.9.15撮影)
秩父今宮神社

秩父今宮神社
(秩父市中町、2019.9.15撮影)
市街地から見える武甲山

市街地から見える武甲山
(秩父市内、2019.9.15撮影)
黒門通り

黒門通り、秩父銘仙出張所
(秩父市番場町、2019.9.15撮影)

 段丘下の秩父今宮神社を訪ねた後は、市街地の南に位置する矢尾百貨店を一瞥しながら東へ入り、惣円寺の境内を歩きながら北へ針路を採り、黒門通りと呼ばれる通りへと進みました。この通り沿いには、秩父銘仙の取引に関わった建物をはじめとした歴史的な建物が点在しています。秩父銘仙出張所二、あるいは秩父銘仙出張所三と呼ばれる建物がそれで、現在は飲食店などとして利用されるそれには、ファサードや建具などに往時を偲ばせる意匠が残されています。黒門通りの突き当たりは秩父神社の前で、一筋東側の番場通り-秩父神社の参道となる道筋-を南へと歩きます。こちらの通りは参詣道らしく、美しい石畳によって修景されているのが印象的です。秩父神社の宮司家である薗田家住宅など、秩父神社にゆかりのある建物が所在しているのも、神社と共にあったこの町の歴史を物語ります。

 参道は秩父鉄道の御花畑駅前へと続いていきます。付近に芝桜で著名な羊山公園があるため混同されがちですが、この駅名の「御花畑」は、秩父夜祭の御旅所の美称に由来します。御旅所は鉄路を越えた東側、秩父市役所近くの秩父公園内にあって、背後に聳える武甲山の秀麗な姿もあいまって、とても清しい風景が広がります。御旅所の横を緩やかに上る道を進んだ先には西武秩父駅があって、首都圏方面への玄関口として多くの訪問者を迎えています。構内の跨線橋の窓からは、武甲山の雄大な風景が俯瞰できました。

秩父神社前

秩父神社前
(秩父市番場町、2019.9.15撮影)
薗田家住宅

薗田家住宅
(秩父市番場町、2019.9.15撮影)
番場通り

番場通りの風景
(秩父市番場町、2019.9.15撮影)
秩父神社御旅所前から武甲山を望む

秩父神社御旅所前から武甲山を望む
(秩父市熊木町、2019.9.15撮影)
寺坂棚田

寺坂棚田
(埼玉県横瀬町横瀬、2019.9.15撮影)
寺坂棚田

寺坂棚田から武甲山を望む
(埼玉県横瀬町横瀬、2019.9.15撮影)

 秩父訪問の最後は、西武秩父駅から1駅進んだ横瀬駅へと進み、そこからおよそ1.2キロメートルほどの場所にある寺坂棚田を目指しました。県内最大級の棚田は、首都圏からもアクセスしやすい立地にあることから、その秀麗な景観も相まって、この日も数十名ほどの人々がいらっしゃって、武甲山を望む棚田の風景を楽しんでいるようでした。周知のとおり、武甲山は地域のシンボルであるとともに、石灰石の産地として山肌で大規模な採掘が行われてきました。武甲山麓にあるセメント工場を見下ろす棚田の秋の風景は、見頃を迎えていた彼岸花の輝きも加わって、近代から現代へ、地域の資源を活用しながら変容を続けてきた秩父の変遷を鮮やかに表現していました。


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