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シリーズ京都を歩く
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4.嵐山・嵯峨野散歩 |
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第十段 嵯峨野彷徨
嵯峨野の風景は、寺院の穏やかな佇まいあり、集落のたおやかな景観あり、野菜があおあおと葉を茂らせるのびやかな田園風景あり、多様な顔を持ちながらも、全体としてたいへん落ち着きのある、のどかな景観として展開しているように思われました。嵐山から野宮神社あたりの竹林を越えて、常寂光寺、二尊院などと続く山裾の寺院を過ぎ、畑の只中に佇む落柿舎(らくししゃ)の落ち着いた容貌を楽しみながら山懐の小径に戻り、祇王寺や滝口寺などを経て化野念仏寺、鳥居本へ至るルートは、観光都市京都にあって、極度に観光地化されたエリアであるようです。冬の日が傾き、少しずつ寒気が漂い始めた山野を、多くの人々がそぞろ歩いています。京の町の郊外にあって、のびやかな田園景観や山並み、水辺のあった嵯峨野あたりは、古来より多くの都人が遊んだ地であるといわれます。現代都市・京都にあって、嵯峨野は都市近郊における静かな住宅地域としての顔がより濃厚になっているようにも思います。
大河内山荘の横を抜けて、小倉池東側の小径を進みます。初冬の穏やかな午後は、静かに行き過ぎて、目の前に展開する、ゆるやかな嵯峨野の風景をなめらかに、そしてゆったりと包み込んでいきます。西日本らしい、常緑の照葉樹のてかてかした風合いの中に、しっとりと色づいた紅葉が重なる景観は、実に美しい冬の情景でした。門前に向って軽やかに下る参道もまた落ち着いた雰囲気です。向井去来が閑居したという落柿舎周辺は、蔬菜が栽培される畑が広がっていまして、周囲の緑多き集落景観などとあいまって、これぞ嵯峨野とでも表現できるような、すてきなエリアを形成しています。野菜畑の傍らには、「歴史的風土特別保存地区」と刻まれた石碑がありました。「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」により規定された区域であるようで、京都市内でも多くの地域がその指定を受け、保護の対象となっているようです。
嵯峨野の小径は、化野(あだしの)念仏寺あたりの小規模なみやげ物街を抜けて、鳥居本(とりいもと)へと続いていきます。鳥居本は、古い家並みが連続した愛宕神社の門前に栄えた町です。伝統的建造物群保存地区にも指定されます。以下、現地に設置された説明標示板の表現を引用し、地域の概略をご紹介します。愛宕神社一の鳥居に近い上地区は、茅葺などの農家風の建物が建ち並び、下地区では瓦葺でむしこ窓や京格子、ばったり床机(しょうぎ)などを設けた町屋風の建物が建ち並ぶ構造となっています。この農家風の建物と町屋風のそれとが共存する景観が鳥居本を特徴づけていまして、嵯峨野の自然景観とともに、美しい風景を作り出しています。ばったり床机とは、店先に設置された縁台のことです。商品が並べられて商いがなされたり、客との話し合いがなされたりする場所で、本来は「揚見世(あげみせ)」と呼ばれます。縁台を捲き揚げたときに、脚が台の裏側に収納できるように工夫されていまして、必要に応じて「ばったり」と上下しながら利用されたことから、「ばったり床机」という通称が生まれたものであるとのことです。 |
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