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シリーズ京都を歩く
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19.冬紅葉、かつ結びかつ散る ~2018年、12月の京都をゆく~ |
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第五十一段 永観堂と醍醐寺、紅葉の織りなす輪舞 2018年12月1日、嵐山から始まった京都の彷徨は、北山から東山へ、京都盆地を取り巻く穏やかな丘陵に抱かれながら歴史を編んだ名刹の美観に触れて、禅林寺へと至っていました。「秋はもみじの永観堂」と称される、京都における屈指の紅葉の名所として知られる禅林寺は、永観堂の通称で知られます。永観堂の別称は、禅林寺の中興の祖として著名な永観(ようかん)律師に由来しています。古来より信仰と修験の場として存立してきた聖域は、この夜、極上のきらめきが顕現されていきました。
禅林寺は、総門の周辺にもふんだんにケヤキが植栽されていまして、塀越しに垣間見える庭園内の紅葉とともに、門前に立つだけでまさに錦のヴェールに誘われているかのような感覚になります。初冬の日射しはみるみるその光量を失っていき、ライトアップの始まる午後5時30分になる頃までには空は夕闇に包まれていました。開門直前にいっせいに境内に光が灯って、およそ3,000本あるともいわれる、カエデの木々が鮮烈に光り輝いて、闇夜との間に張り詰めるかのような妖艶さを放ち始めました。放生池を中心に整えられた池泉回遊式庭園は赤や橙、黄色、そしていまだ緑色をかすかに残す葉をいっぱいに透かせる紅葉によって、この一夜、唯一無二の偉観を完成させていました。 御影堂や阿弥陀堂の堂宇も、秋から冬へ、ドラマティックに移り変わる自然の輪廻を穏やかに見守っているように感じられます。漆黒と緋色とが冬の冷たい空気に溶け合う風景の先には、多宝塔が一際くっきりと浮かび上がっていまして、京都一定の距離を保ちながら東山のこの地で信仰と修験に身を奉じた先人に思いを馳せました。ライトアップされた紅葉は、阿弥陀堂への石段の上を、大海をうねるような紅葉の波が、圧倒的な存在感で躍動しています。目の前の真っ赤に染まったカエデの葉はどこまでも濃密な朱色を表面に湛えていまして、自然と経験に寄り添ってきた和の伝統的な美の世界を表現していました。
禅林寺のライトアップを観賞した後は、既に暗夜の下に沈んでいた南禅寺の境内を抜け、地下鉄東西線・蹴上駅へ。醍醐駅より歩いて醍醐寺へと進みます。醍醐駅の2階部分のペデストリアンデッキから住宅地域を貫通する歩道を歩きますと、府道の高架下をくぐり、旧奈良街道に面する醍醐寺門前に到着します。醍醐山から流出する小流のつくる扇状地状の低地に伽藍を展開する醍醐寺に到着した時は午後7時を回っていましたが、ライトアップは午後8時過ぎまで開催されていたようで、暗夜の下醍醐の諸堂は、水を打ったような静寂の中で、魂を震わせるような美しい紅葉に彩られていました。赤と緑の紅葉が混じり合う西大門(仁王門)をくぐり境内へ。平安時代に創建され、現在の建物は豊臣秀吉の命により和歌山県湯浅より移築された来歴を持つ金堂(国宝)からは、厳かな読経の声が響き、夜空に神妙な音韻を伝えていました。同じく国宝の五重塔や、林泉を中心に観音堂や弁天堂などが佇む風景などを探勝しながら、数々の歴史の舞台となった古刹の夜の風趣に触れました。 林泉の静かな水面には、周囲の輝きに満ちた紅葉の色彩をしなやかに反射していまして、季節の大きな輪廻の躍動の中で命が育む大いなる力を凝縮した、この上のない色合いを宿していたことがとても印象に残りました。醍醐寺はこの金堂などを中心とした「下醍醐」と、醍醐山上に広がる「上醍醐」のふたつの伽藍が存在しています。上醍醐は醍醐寺創始の地です。神醍醐へと続く山道の入口は、どこまでも深閑な暗闇に包まれていまして、この寺院が過ごしてきた壮大な歴史の一端に触れたような気がいたしました。
東山の禅林寺と、その東山の山並みに続く醍醐山の山麓に拠る醍醐寺は、初冬の閑静な夜の帳のおりる中、自然の毅然とした真理と、純粋な庭園美、そして幾星霜の時を超えて繰り返されてきた季節の移ろいの情景とを、五感いっぱいに感じ取ることができる場所であったように思われました。冬の一時、静寂に包まれる時間を経て、再び新たな清明が萌えいずる春に向かい、歓びと慈しみとを表現する紅葉の輪舞は、京都が織りなす雅趣も相まって、この場所を訪れる多くの人々の心を打ちます。紅葉は絶頂を迎えながらその一方ではかなく散り、「紅葉かつ散る」という季語の表現があります。その無常な様に、方丈記の「うたかたは、かつ消えかつ結びて」の一節が脳裏に浮かびました。 |
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