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シリーズ・クローズアップ仙台

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#16 「どんと祭」を訪ねて 〜仙台地方に息づく伝統行事を見つめる〜


これまでの「クローズアップ仙台」は、仙台市内の地域を軸に書き進めてまいりましたが、今回は趣向を変えまして、地域に息づいたイベントを中心にまとめてみたいと思います。仙台でイベント、といいますと、多くの方が夏の七夕や、冬の光のページェントを思い浮かべることと思います。春の青葉祭ともに、七夕とページェントは仙台を代表するイベントとして、多くの観光客を集めていますが、今回取り上げたいのは、「どんと祭(どんとさい)」です。小正月の行事で、神社の境内などに御神火というお焚き上げを行い、正月飾りや松飾りなどを燃やして無病息災を祈るものです。この行事は、全国的に行われていまして、各地でさまざまな呼び方がなされているようです。どんどん焼き、どんど焼き、さえど、左義長(さぎちょう)など、日本の諸地域で特色ある行事として受け継がれているようです。仙台地方では、毎年1月14日に、「どんと祭」として行われています。仙台地方では、大きな神社のみならず、村内の小さなお社でも、この夜にはお焚き上げが行われているようです。仙台市内では最も規模が大きいものの1つである、青葉区八幡の大崎八幡宮の「どんと祭」に出かけてみることにしました。

大崎八幡宮のどんと祭は、仙台市内では特別な存在のようです。JR仙台駅前から、大崎八幡宮行きの臨時バスが多数運行されることは、そのことをよく示していると言えるでしょう。しかも、臨時バスとは言いましても、行き先表示にまでしっかりと「どんと祭」と掲げられますし、車内アナウンスも運転手さんの生の声ではなく、一般の路線バスと同じ音声が使われています。1年に1度だけの行事のために、ここまでの設備が整えられていること自体に、「どんと祭」が仙台市民にとって、特別な行事なのだな、ということがひしひしと感じられました。なお、仙台市電が現役で町を走っていた頃は、八幡町行きの市電が、同様の仕様で運行されていたようで、大崎八幡宮のどんと祭には、市電で行くものだった、と当時を回想される方も多いと聞いています。

青葉通、仙台ホテル前の臨時停留所から、午後5時30分過ぎ、「どんと祭」行きのバスに乗り込みます。電力ビル前、中央警察署商工会議所前とバス停に止まるたびに、手に正月飾りを持った参拝客が乗り込んできます。この日は水曜日で平日だったのですが、この日ばかりは夕方の帰宅を急ぐ日常の風景とは趣を異にした人々の喧騒があったように思います。県庁市役所(青葉区役所)前を過ぎて、二日町の交差点を左折して二日町北四番丁、木町通二丁目とバス停を経由して、大学病院前へ。ここからはバスは大崎八幡宮の入口までノンストップになります。このあたりからは、沿道に下帯姿で鈴を鳴らしながら大崎八幡宮を目指す裸参りの列を目にするようになりました。仙台高層マンション史に新たな一ページを刻んだライオンズタワー仙台広瀬のたもと、土橋通りの交差点を過ぎると、車両の通行が禁止されます。ここから八幡五丁目交差点までの区間が、午後5時から9時までの間、交通規制がされていたようでした。なお、土橋通り〜北三番丁〜切通と経て澱橋に向かう「Z」の字型のクランク街路につきましては、以前拙稿「八幡町を歩く」でご紹介しましたが、交差点に接していた商店や家が一部立ち退き、更地になっていました。クランクが解消されて、澱橋方面へ直線で行けるようになる日も近いのかもしれません。

八幡町、天賞酒造前

八幡町、天賞酒造前
(青葉区八幡三丁目、2004.1.14撮影)
大崎八幡宮参道

大崎八幡宮参道、裸参りの列
(青葉区八幡四丁目、2004.1.14撮影)
お焚き上げ

お焚き上げのようす
(大崎八幡宮境内、2004.1.14撮影)
裸参りの列

裸参りの皆さんが御神火を回ります
(大崎八幡宮境内、2004.1.14撮影)
龍宝寺

龍宝寺
(青葉区八幡四丁目、2004.1.14撮影)
龍宝寺前の道

龍宝寺前、雪が降る
(青葉区八幡四丁目、2004.1.14撮影)

天賞酒造の前でバスを降り、大崎八幡宮へと向かいます。天賞酒造は、蔵と黒い板塀とが美しい表情を見せていまして、八幡町の町並みを象徴する美観を与えています。雪がはらはらと舞い始めていました。冬の日はすっかりと沈み、薄暗い国道48号線、車が全く走っていない道路の両側には、赤い提灯の列が続き、幻想的な雰囲気を作り出しています。大崎八幡へ向かう人の群れや、寒さをこらえながら御神火を目指す裸参りの列が、その静かな、薄暗い、ノスタルジックな町並みを進んでいます。これだけの人々が集っているのに、活気で溢れているはずなのに、そこは本当に閑々とした空間に支配されていました。国道に面した大鳥居をくぐり、石段を登り、四ツ谷用水の橋を渡り、石鳥居の横に出ますと、正面にはどんと祭のメイン、御神火が勢いよく火の粉と炎と煙とを上げていました。

勢いよく燃え盛る御神火を、4本の竹が囲んでいます。御神火の中央にも数本軒の柱が立てられています。大崎八幡宮では、この「どんと祭」を「松焚祭」と呼び習わしているのだそうですが、これは先にご紹介した「左義長」という正月の行事として知られるものです。「御神火」は罪穢を焼き尽くすと言われていまして、その火に当たると心身が祓い清められ、ご加護を頂戴しその年一年無病息災、家内安全に過ごすことが出来るとも言われているのだそうです。
※この1段落は、大崎八幡宮のホームページの記述を参考にしました。同ページには、どんと祭の由来が紹介されています。興味がおありの方はのぞいてみてはいかがでしょうか。

人々が集り、正月飾りを投げ入れては、その火勢に見入っています。御神火の周囲を、裸参りの皆さんが次々に回っていきます。混雑はしていましたが、美しい光景だな、と柄にもなく感動してしまいました。雪はますます勢いを増して、はらはらと夜の空気を滑っていきます。火の粉と、雪の粒とが、煙と炎が立ち上る夜空に重なります。なんて、すてきな、安寧に満ちた光景なんだろう。家族の安寧、世界の安寧、そして、来る1月17日に9回目の震災の日を迎える、阪神・淡路地域の犠牲になられた皆さんのご冥福と安寧を、お祈りしました・・・。

社殿での参拝を済ませ、東の脇の道を東へ進むと、大崎八幡宮の別当寺である龍宝寺の境内に入ることができます。宝塔がライトアップされた境内は、うっすらと雪景色をしていまして、以前舞い降りる雪の中に一際映えていました。龍宝寺から八幡町へ下る道筋からは、青葉山の丘陵や市街地方面の夜景が家々の間に眺められます。凍結した足許に気をつけながら、その慎ましやかな夜景を眺めました。

臨時バスで仙台駅前に戻り、地下鉄に乗り換えて愛宕橋駅で下車し、愛宕大橋を渡ると、広瀬川にせまる丘陵の稜線に沿って、点々と灯りが続いています。その丘陵上にある愛宕神社でも、この日はどんと祭が開催されていたのでした。丘陵につけられた急な階段の両側にも、灯篭の灯りがほのかに続いて、やはり幻想的な雰囲気を作り出しています。神社の山門をくぐると、社殿の前で、お焚き上げが行われていました。さすがに大崎八幡宮の規模には届かない、ささやかなお焚き上げでしたが、それでも火の勢いや静かさ、そしてその炎や煙に寄せる人々の思いには一寸の違いもありませんよね。地域の皆さんがたくさん訪れる、地域に根ざしたお焚き上げ、という印象でしたね。人々は御神火を囲んで、赤々と燃え盛る火の影を満面の笑みを浮かべる顔いっぱいに映していました。

愛宕神社と参道の灯り

愛宕山稜線上に連なる灯り
(愛宕大橋上より、2004.1.14撮影)
愛宕神社のお焚き上げ

愛宕神社のお焚き上げ
(太白区向山四丁目、2004.1.14撮影)
御神火と愛宕神社社殿

御神火と愛宕神社社殿(奥)
(太白区向山四丁目、2004.1.14撮影)
愛宕神社から望む夜景

愛宕神社から望む夜景
(太白区向山四丁目、2004.1.14撮影)

ある人が、「お正月より、お正月っぽいよね」と言いました。そう言えば、そうかも知れないな、と思いましたね。こうして、信じあえる人と、共通の炎を囲み、一年間無事に過ごせたことを確認し、来る一年の健やかなるを祈る。これこそ、正月の本分そのものなのかもしれません。豪勢ながらも、どこか落ち着いた、慎ましやかな流れを感じたのは、この夜がしんしんと冷えて、雪が舞っていたためだけではないような、そんな気がいたしました。

なお、愛宕神社は、広瀬川を望み、仙台の中心市街地に至近に対峙する位置にあるため、市街地の高層ビルディングを含む、素晴らしい夜景を堪能することができる、隠れたスポットのようです。冬の澄んだ空気の中、仙台の夜景もまた、一際の輝きを放っておりました。

翌日、河原町から長町を歩いた時(前項及び前々項参照)、地域の鎮守と目されるお社の境内においても、多くの場合で、お焚き上げが行われた跡を見つけることができました。まさに、この「どんと祭」が、仙台地方に息づいた、伝統のある行事なのだ、ということを何物よりも強く物語っているように思いました。


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