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東京優景 〜TOKYO “YUKEI”〜
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#70 2018年春、都心の桜を訪ねる 〜春空と向き合う極上の風景〜 (千代田区・文京区・新宿区) 2018年3月25日、気象庁の観測で前日にソメイヨシノが満開を迎えていた東京都内を歩きました。この日は早朝から春らしい晴天に恵まれており、千鳥ヶ淵緑道へと進む半蔵門駅周辺の町並みは、ひっそりと静まりかえっていました。内堀通りを越えて、千鳥ヶ淵緑道へ。早朝でまだ人出のまばらな散策路は、満開を迎えたとは言え、水面に面しているためかわずかに開いていない花もあって、微妙な乳白色をはらんだヴェールのような桜の枝が、静かな千鳥ヶ淵の濠にその身を落としていました。
地下鉄で駒込駅へと移動し、しだれ桜で有名な六義園へ。しなやかな枝が春の風に揺れるしだれ桜もまさに見頃を迎えていまして、開園の午前9時には既に多くの観桜客がしだれ桜の大きな木を取り囲んでいました。大名庭園の風情と意匠を現代に伝える六義園の桜は、大泉水を囲んだ園内のここかしこで鮮やかな色彩を魅せていまして、庭園を彩る緑の木々との対象が抜群でした。六義園の素晴らしい部分は、園内に泉や築山、渓流などを巧みに配して奇襲の自然を表現しているところであり、園内にある「藤代峠」からの眺望は筆舌に尽くしがたい快活さに溢れています。駒込には染井霊園も所在するように、品種としてのソメイヨシノの発祥地といわれています。そうした来歴を物語るかのように駒込駅前にはソメイヨシノが多く植えられていまして、今や日本の春の風景を代表する風物の一つとなった「名桜」を称えるかのようでした。 駒込駅からは東京駅へと移動し、開催中の「皇居乾通り一般公開」へと向かいました。東京駅を出て行幸通りを進み、お濠端へ。一般公開の入口となる坂下門近くの皇居外苑では、入場を待つ人々の長蛇の列ができていました。雲一つ無い晴天下の皇居はとても穏やかな空気に包まれていまして、丸の内のビル群も日射しを受けて輝いているようでした。皇居乾通りでは、やはり満開のソメイヨシノの他、しだれ桜やコブシなどの春の花々が花開いていまして、若草色の新芽を芽吹かせ始めた柳の枝もよりいっそうそのしなやかさを増しているように感じられます。観覧後は皇居東御苑へと入り、多くの品種の桜が植えられた園内を散策しました。皇居東御苑は、旧江戸城の本丸、二の丸、三の丸の一部を皇居付属庭園として整備したもので、一般公開されています。苑内には天守台も残されていまして、その上からは春爛漫の庭園と森の向こうに、現代的なビル群が建ち並ぶ風景を見通すことができました。早咲きの桜の木は若々しい葉を既にいっぱいに繁らせていまして、春本番から初夏へ向かう季節を予感させました。
この日の東京桜散歩のしめくくりは、新宿から早稲田へ進みます。新宿東口の雑踏を抜けて明治通りを北へ。新宿総鎮守の花園神社の鳥居前を通ってさらに歩いて行きますと、大久保二丁目交差点を曲がった先に、褐色の枝がかすかに緑色を纏い始めた林を確認することができました。都営アパートや小学校の敷地の間を縫うように進む園地を通りながら、公園の主要部へと近づいていきます。近隣の憩いの場所となっているその公園−戸山公園−でも、ふんだんに植栽されたソメイヨシノが、たおやかな桜色を生み出していまして、都市空間を艶やかに染め上げていました。戸山公園は明治通りを挟んで西側の大久保地区と東側の箱根山地区とに分かれ、今回訪れた後者の園内は豊富な木々に囲まれていまして、さわやかな新緑の季節を迎える前のこの一時は、木という木の樹冠が桜色の温かさをいっぱいに受け止めていたのが印象的でした。戸山公園のある一帯は、藩政期には尾張徳川家の下屋敷がありました。公園にある築山の「箱根山」も、下屋敷時代に設えられていた庭園のそれが受け継がれているものです。 公園をそのまま北東方向に通り抜けますと、学生の街早稲田へと誘われました。穴八幡宮の鳥居が目立つ馬場下町の交差点へ出て、早稲田大学のキャンパス内を辿りながら新目白通りに進み、都電荒川線の早稲田電停へと行き着きました。東京さくらトラムの愛称がある路面電車に乗って、終着の三ノ輪駅まで到達してこの日の活動を終えました。電車内はかなり混雑していて、車窓からの風景を十分に探索することはできなかったものの、面影橋電停付近や、明治通りに並行して神田川をあたるあたりからは、川に沿って植えられたソメイヨシノがえも言われぬ輝かしさを放っている風景をわずかながら視認することができました。
桜が満開となった翌日のこの日、東京は朝から夕方までほとんど雲さえ浮かんでいない、爽快な春空の下、至高のきらめきに終始彩られていたように思われました。そうしたすがすがしい陽気の下、その快さを存分に蓄えながら、春の穏やかさの風雅として、堀端や駅前、公園内、それぞれの場所において、その温もりを表現していたソメイヨシノその他の桜木は、どこまでも端麗で、陽気で、そして儚げでもありました。 |
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