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東京優景 〜TOKYO “YUKEI”〜

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#76 新宿御苑から四谷、千鳥ヶ淵へ 〜陽春の穏やかな下町の風景〜 (新宿区・千代田区・文京区)

 2019年3月25日、午後から所用で東京に出てきた私は、その合間の時間を利用して春の新宿御苑を訪れました。この年のソメイヨシノの開花は東京では3月21日で、苑内のソメイヨシノは少しずつ花の量を増やしていまして、一部では満開に近いものも見られました。ソメイヨシノのほか、桜色が濃い「ヨウコウ」や、葉が同時に映えるオオシマザクラ系の桜も見ごろを迎えていまして、日本庭園や芝生の広場(風景式庭園)など多様な造園が行われる苑内の春を概観することができました。大木戸門から新宿御苑を出て、新宿通りを進みます。

バスタ新宿前

バスタ新宿前
(渋谷区千駄ヶ谷五丁目、2019.3.25撮影)
甲州街道沿い

甲州街道沿いの風景
(新宿区新宿三丁目、2019.3.25撮影)
新宿御苑・新宿門

新宿御苑・新宿門
(新宿区内藤町、2019.3.25撮影)
新宿御苑

新宿御苑・開花するヨウコウ
(新宿区内藤町、2019.3.25撮影)
新宿御苑

新宿御苑・日本庭園
(新宿区内藤町、2019.3.25撮影)
新宿御苑

新宿御苑・ソメイヨシノ
(新宿区内藤町、2019.3.25撮影)

 新宿通りはかつての甲州街道筋を踏襲したもので、新宿駅東口一帯の旧街道沿いには内藤新宿の町場が形成されていました。市街地はその後の新宿駅の開設に伴い西へと拡大し、ターミナル化による副都心としての成長を経て現在に至っていることは周知のことと思います。四谷四丁目交差点に接している四谷区民センターの傍らには、「玉川上水水番所跡」や「四谷大木戸跡碑」などの史跡がひっそりと残されています。四谷大木戸は、1616(元和2)年に甲州街道における江戸への入り口として設けられた大木戸(通行人や荷物などを取り締まる関所のようなもの)で、四谷四丁目交差点のある位置に設置されていました。木戸は後の1792(寛文4)年に撤去され、江戸城外堀の四谷見附から大木戸を経て、内藤新宿までの間は一体的な町場として活気ある往来となっていたようです。

 現代の新宿通り沿いは、大繁華街の新宿のビル群を西に見ながら、マンションや業務系のビルに飲食店や店舗が一階に入るような建物群が立ち並んでいます。交通量も人通りも多くて、それは都心と副都心とを結ぶ利便性の高い立地を反映しています。四谷三丁目交差点を経て、外堀の中に設置された四ツ谷駅前へと到達します。駅近くの外堀は水が抜かれていまして、駅施設やグラウンドとして利用されています。都心に向かう広大な空間地としての外堀は、都市に明確なエッジとしてのアクセントを添えるとともに、ここがかつて巨大な武家政権の拠点であったことを示す壮大な文化的景観としても重要な位置を占めているように思います。四谷見附を越えますと、麹町エリアとなりますます業務系のビルが多くなっていきます。藩政期は江戸城に近いこともあり、麹町の台地上は武家地でしたが、甲州街道(新宿通り)沿いだけは例外的に町人地となっていました。麹町一丁目付近は「麹町大通り」の通称も通用しているようでした。やがて新宿通りは内堀通りに突き当り、その先は半蔵門となります。皇居を取り囲む内堀は雄大な風景を構成していまして、満開を迎えつつあるソメイヨシノがそれに彩を添えていました。

四谷四丁目交差点

四谷四丁目交差点
(新宿区内藤町、2019.3.25撮影)
四谷大木戸跡碑

四谷大木戸跡碑
(新宿区内藤町、2019.3.25撮影)
新宿通り

新宿通りの景観
(新宿区四谷三丁目、2019.3.25撮影)
四谷見附

四谷見附交差点
(新宿区四谷一丁目、2019.3.25撮影)
四ツ谷駅

JR四ツ谷駅
(新宿区四谷一丁目丁目、2019.3.25撮影)
四谷見附

四谷見附の景観
(千代田区麹町六丁目、2019.3.25撮影)

 半蔵門前からは内堀に沿って北へ、千鳥ヶ淵方面へと歩を進めます。半蔵濠の名がある内堀沿いは快い散策路となっていまして、花の数を増やしつつあるソメイヨシノが、徐々に光量を落としつつある午後の春空をやさしい桜色に染めています。内堀の斜面には菜の花が点々と鮮やかな黄色を早緑色の草の絨毯の上に落としていまして、春らしい、あたたかな風情を穏やかな水面に映しています。首都高速の都心環状線が右側に現れますと、その構造物を右手に見ながら千鳥ヶ淵緑道へと歩道はつながっていきます。都心における有数の桜の名所の一つである千鳥ヶ淵のソメイヨシノはまだ満開を迎える前で、お濠へと流れ下るようにして並ぶ桜の枝のしなやかさが、春の穏やかな午後の風に触れて、いっそう豊かな情感を目に触感に響かせていました。木によっては満開に近いほどの花を開いているものもあって、桜色に染まる景色を想像しながら、行き交う人々とともに春のひと時を味わいました。

 この日の最後の訪問は、前日日中に訪れていた六義園の門を再びくぐりました。九段下から飯田橋駅を経て駒込駅へと向かって、恒例のライトアップが行われているシダレザクラを鑑賞しました。満開のシダレザクラは闇夜に浮かび上がるようにして佇んでいまして、艶やかな風合いをその身に存分に纏わせながら、春の夜の豊潤な空気をより濃密な風趣へと導いていました。園内も随所にライトアップが施されていまして、春本番を迎えた名園の美に改めて酔いしれました。

麹町

麹町の景観
(千代田区麹町四丁目付近、2019.3.25撮影)
内堀

内堀の風景
(千代田区麹町一丁目、2019.3.25撮影)
半蔵門

半蔵門
(千代田区千代田、2019.3.25撮影)
千鳥ヶ淵

千鳥ヶ淵の風景
(千代田区北の丸公園、2019.3.25撮影)
六義園

六義園・シダレザクラのライトアップ
(文京区本駒込六丁目、2019.3.25撮影)
六義園

六義園・ライトアップされた園内
(文京区本駒込六丁目、2019.3.25撮影)

 六義園での歓喜を一通り探勝した後はソメイヨシノが瞬くようなJR駒込駅前へと進み、この日は帰路につきました。江戸城の城下町としての都市構造を基礎とする東京都心の街並みは、現代の大都市となった今でも、その時代の資産としての旧道や見附、堀などの史跡に依拠して今日までの時間を経たことを、春のしなやかな情景に包まれながら実感する午後の方向となったように思いました。



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