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東京優景 〜TOKYO “YUKEI”〜
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#80 三鷹駅から吉祥寺駅へ、武蔵野市を歩く 〜上水と街道筋と現代の町並み〜 (三鷹市・武蔵野市・杉並区) 2019年11月4日、初秋の快い陽気の下、JR中央線の三鷹駅を訪れました。三鷹駅は総武中央線の各駅停車の西の始発駅で、三鷹駅から西には快速列車のみが直通します。都心と都下の地域とを連絡する当駅は、他の路線の接続がない割には利用者が多く、構内外を多くの人々が行き交っています。北口を出て、駅の直下をくぐり抜けている玉川上水沿いに北西へと進みます。
駅周辺の店舗が多いエリアを過ぎますと、すぐに周辺は穏やかな住宅街へと移り変わります。緑道の緑も濃く、幹の太い古木も多く生育していまして、穏やかな水の流れが周囲の町並みに潤いを与えています。野鳥の森公園や西久保公園などの緑を一瞥しながら、交通量の多い新武蔵境通りへと出ました。いちょう橋と呼ばれる玉川上水を渡る橋の横にある「ぎんなん橋」の下には、ここより北に位置する武蔵中央公園のある一帯に戦時中まで立地した、旧中島飛行機武蔵工場へと続く引込線の橋台跡が残ります。引込線の跡は戦後の一時期まで旅客線として利用された後、現在では一部が「グリーンパーク遊歩道」として活用されています(「グリーンパーク」は、戦後米軍が接収した際の工場跡地の呼び名に由来)。 井ノ頭通りを越えて五日市街道へと進み、西進した先の武蔵野大学前交差点では、玉川上水から分水した千川上水の流れへと行き当たります。千川上水は1696(元禄9)年に江戸市中への通水などの目的で建設されたもので、それは飲料水のほか、農業用の灌漑用水や水車による製粉などの動力源としても広く活用されました。付近には上水に架けられた石橋を供養するための供養塔の遺構が残って、往時の民俗を偲ばせています。千川上水は都の清流復活事業により豊かな流れを取り戻していまして、穏やかな散策路として供されています。千川小前の交差点から東へ入って武蔵野中央公園へと進み、先に紹介したグリーンパーク遊歩道を南へ戻り、五日市街道へと出ました。現在では東西に一直線に貫く中央線の鉄路が地域を特徴づけるエッジとなっていますが、藩政期以降この地域を貫いた主要路はこの五日市街道で、土地割りも五日市街道に直行する形となっています。都市化が進んだ街道沿線には、一部に畑地や土蔵造の建物があって、この地域の原風景をわずかに感じさせました。
明治期の地勢図を確認しますと、五日市街道沿いに家並みがあって、その背後は畑地が広がっていたことが分かります。その街村的な村落の中には、八幡社(関前八幡神社)や延命寺、源生寺、隣接する西窪稲荷神社などの寺社も見えまして、都市化が進みながらも、かつての土地利用を基盤として現在の町並みが構築されてきたことが理解されます。そんな新旧の事物が豊かに混じり合う町並みを感じながら、五日市街道を東へと歩いて行きますと、やがて成蹊大学の正門前へと到達します。成蹊学園関連の学校群を取り巻くように、美しいケヤキ並木が初秋のキャンパスに涼やかな木陰を作り出しています。そのしなやかな木々のシルエットは、周辺の宅地とも調和していまして、全体として穏やかな武蔵野の郊外における清閑な住環境を演出していました。 成蹊学園付近を通過した後は、穏やかな住宅地の中を縫うように東へと針路を採り、吉祥寺通りを横断、武蔵野吉祥七福神めぐりにおける福禄寿を祀る大法禅寺へ。そこからはさらに北東方向に住宅地域を歩いて行きました。その行程の途上で、狭い住宅地域でバスが転回できるスペースがないために、バスがその上に乗ると回転してバスの向きを変えるターンテーブル(転車台)のあるバス停を見つけました。条約の安全確保のため、降車前に乗客を乗せたまま回転するという珍しい光景が見られるバス停としてそこは知られているようです。このバス停から北へ進み、最初のY字路を右へ折れてさらに歩きますと、善福寺池を中心に整備された都立善福寺公園へと到達します。
武蔵野の大地を穿つ湧水が作り出した池が豊かな緑地を形成した園内には、多くの人々が集っていまして、穏やかな初秋の一日を思い思いに過ごしているようでした。そのみずみずしい森の中を歩きながら東京女子大学の敷地の東を経て女子大通りに出て、四軒寺交差点から吉祥寺通りへと戻り、吉祥寺駅方面へと進みました。吉祥寺は都内でも屈指の繁華街を持つ町である一方、武蔵野八幡宮や安養寺などの寺社も多く残っていまして、駅に程近い井の頭公園の景観も相まって、都市と自然と歴史とを一体的に感じることのできる巷となっていました。玉川上水から千川上水、そして武蔵野の往時を存分に偲ばせる風景に出会うこのできる今回の彷徨は、現代の都市の中を歩くなかで、数多くの風趣と情緒に富んだ極上の散策であったように思います。 |
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