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東京優景 〜TOKYO “YUKEI”〜

#89(福生編)のページ

#90 玉川上水緑道に沿った風景 〜拝島駅から玉川上水駅へ、武蔵野の情景〜 (福生市・昭島市・立川市)

 2020年11月7日、東京都多摩地方北部に位置する福生市を訪れていた私は、玉川上水の流れに沿って進み、JR拝島駅付近まで到達していました。多摩地域における交通結節点の一つである拝島駅の駅前は、商業集積という点では大型の施設があるというわけではなくて、交通の要衝としての性格がより強い駅前の風景であるように目に映りました。

日光橋

日光橋
(福生市熊川、2020.11.7撮影)
拝島駅

拝島駅
(昭島市美堀町五丁目、2020.11.7撮影)
玉川上水緑道

玉川上水緑道の景観
(昭島市美堀町五丁目、2020.11.7撮影)
上水公園の風景

上水公園の風景
(昭島市拝島町、2020.11.7撮影)

 玉川上水は、多摩川の水を羽村で取水し、江戸市中へ通水した上水で、1653(承応2)年に築かれました。人口が急増する江戸に上水を供給するために計画され、完成した近世遺構です。現在でもその区間の多くは往時の佇まいを感じさせるままに保存されていて、一部区間は東京都の水道施設として現役で活用されている部分もあるといいます。拝島駅近くにある日光橋は国内に残存する最古の道路レンガアーチ橋と考えられる橋梁で、その完成は1891(明治24)年です。そのすぐ下流にある平和橋のたもとからは、玉川上水に沿って遊歩道が整備されていまして、その帯状の緑地帯は、都立公園「玉川上水緑道」と呼ばれています。平和橋のある場所からは、拝島分水と呼ばれる水路が分流しています。上水としてでなく、上水の通る村々に生活や農業のための用水を分けることにより、武蔵野台地における開発にも、玉川上水は重要な役割を果たしました。

 緑道沿いには、クヌギや松、カエデなど、多様な木々が植栽されています。周辺は穏やかな住宅地となっていまして、緑道は地域における憩の場として供されている様子が好感を持てました。西武拝島線を踏切で越えて、都道220号を横断した先には、昭島市立の上水公園の緑地が整えられていました。上水緑道と有機的に一体となった森は、武蔵野の原風景である雑木林の雰囲気を濃厚に感じさせました。ヨメナやススキなど、晩秋を彩る草花ものびやかな輝きをそれに加えていました。昭和の森ゴルフコースに接する部分は緑道は途切れて、上水の北側のみに緑道が続いていきます。緑道は住宅地の近隣を通過しながら、あるいは宅地の合間につくられている畑地の横となりながら、清冽な水を流す玉川上水に寄り添って続いていきます。

天王橋の風景

天王橋の風景
(立川市一番町二丁目、2020.11.7撮影)
西武拝島線の電車

西武拝島線の電車が通過する
(立川市一番町四丁目、2020.11.7撮影)
見影橋

見影橋
(立川市上砂町四丁目、2020.11.7撮影)
畑地の広がる風景

畑地の広がる風景
(立川市柏町四丁目付近、2020.11.7撮影)

 松中橋で交通量の多い道路を横断し、いったん郊外における主要交通路の喧噪に触れたあと、緑道はまた住宅地や畑地に包まれた穏やかな土地の中を進んでいきます。多くの人々が暮す近隣を通過していますので、上水には道路橋や歩行者専用のものなど、大小様々な、たくさんの橋が架けられています。それらの一つひとつには特色ある名前が付けられていまして、それは緑道沿いに設置されている表示板によって確認することができるようになっています。天王橋では、多摩地域における主要な幹線道路のひとつである五日市街道と交差します。南北方向の多摩大橋通りも接続するため、玉川上水緑道沿道においては有数の交通量の多い交差点となっています。

 このあたりからは、上水の北側に併走する西武拝島線の電車が見えるくらい近い場所を通過しています。同線の玉川上水駅以西は1968(昭和43)年開通していまして、首都圏においては比較的新しい路線の部類にあたります。この一帯は立川市に合併する前は砂川町であったエリアで、住所としても「砂川町」を名乗る地区が多くを占めています。武蔵野台地上の農村的な地域から、交通路が至便になるにつれて住宅地としても成熟し、新旧の地域の特質が反映された、とても穏やかな風景が形成されていたのが印象的でした。見影橋は江戸時代から架橋されていた橋であったようで、橋の付近には当時の名主の名前に因んだ「源五右衛門分水の取入口の跡も残されています。

畑地と宅地の交錯する風景

畑地と宅地の交錯する風景
(立川市柏町四丁目付近、2020.11.7撮影)
住宅地と緑道が接する風景

住宅地と緑道が接する風景
(立川市柏町四丁目付近、2020.11.7撮影)
玉川上水駅付近の玉川上水

玉川上水駅付近の玉川上水
(立川市柏町四丁目、2020.11.7撮影)
多摩都市モノレール

玉川上水駅付近の多摩都市モノレール
(立川市柏町四丁目、2020.11.7撮影)

 晩秋を迎え、上水沿いの木々は徐々に色づき始めていまして、秋から冬へと移り変わる季節を実感させます。住宅地が広がる中にあって、緑道が提供する豊かな緑はどこまでもたおやかで、先人が残した生活用水の風景が、現在の都市空間において、人々の生活に潤いを与える存在になっていることは、都市を構成するインフラが歴史を越えて人々に寄り添い続ける尊さを表現しているようにも感じます。多摩都市モノレールが開業し、結節点として拠点性を高める玉川上水駅に到達したところで、この日の活動を終えました。緑道はさらに下流へ、杉並区内まで続いていきます。

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