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関東の諸都市・地域を歩く
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#176 奥鬼怒温泉郷から鬼怒沼へ ~関東の秘湯から鬼怒川源流の湿原へ~ 2020年10月8日、栃木県日光市の北部、鬼怒川の源流地に近い女夫渕を訪れました。この日は朝から雨が断続的に降っていて、周囲の山々も靄がかかっていました。ここ女夫渕には、かつて温泉ホテルが立地していましたが、2013(平成25)年に地震による損壊を受け廃業、現在は建物などは無く、奥鬼怒温泉郷などへ向かう人々のための駐車場があるのみとなっています。雨模様であったため、この日投宿する予定にしていた奥鬼怒温泉郷のひとつ・加仁湯へは徒歩で行くことは断念し、宿の送迎バスを利用することとしました。
奥鬼怒温泉郷は、この加仁湯のほか、八丁の湯、日光澤温泉、手白沢温泉の4つの温泉を指して呼ぶようです。これらの温泉地へは自家用車では到達することができず、徒歩や送迎などによって行くことしかできません。そのため、関東地方でも有数の秘湯とも目される温泉地です。奥鬼怒スーパー林道と呼ばれるこのルートは、県境を越えて群馬県側までつながるものですが、車両の通行は禁止されていて、奥鬼怒温泉郷までの区間においても先述の送迎のためのみに制限されています。およそ25分の所要でヘアピンカーブの続く林道を進み、加仁湯に到達しました。この日は終始雨が降り続いたため宿の中で過ごし、翌日を待ちました。 翌10月9日、雨はやみましたが天気は回復せず、曇り空の朝となりました。除雪用の車両が駐車された加仁湯の前を出発し、鬼怒川源流に広がる高層湿原・鬼怒沼へと向かいました。加仁湯から鬼怒川の源流に沿った登山道を歩き、およそ10分で奥鬼怒温泉郷の一つである日光澤温泉に到達します。ここには登山届入れがあり、本格的な登山道が始まる場所ともなっているようでした。赤いトタン屋根の日光澤温泉の裏手へ登って登山道を進み、徐々に狭くなる川沿いの山道を、足元に気を付けながら歩いていきます。場所によっては細かい落石で覆われ歩きにくい箇所もあって、雨上がりの山道は滑りやすくなっていました。勾配もきつくなり始めたあたりから、鬼怒川を渡る吊り橋のたもとに到達しました。吊り橋の先は県境を越えて群馬県側の丸沼付近へと進む登山ルートです。そのルートの途中には、ヒナタオソロシの滝の展望台もありますが、この日はそのまま鬼怒沼へ進む登山道を歩きました。
丸沼分岐からオロオソロシの滝の観瀑台を経て進む箇所は、つづら折りの箇所が連続する、急登の斜面を上がっていくこととなります。落葉樹の中に、アスナロなどの針葉樹が混交するようになっていきます。ニホンカモシカの個体にも出会って、いっそう秘境の山中へと進んでいく実感がわいていきます。雨は落ちてはいないものの、依然として雲に覆われた登山道周辺は、雲の向こうからわずかに漏れる明るさとは裏腹に、霧がかかっているような状況が続いていました。木製の階段が整備されている個所もありますが、基本的には土が露出した山道の連続で、所々に岩が転がる、歩きにくい沢筋をまたぐような場所も存在していました。木々は美しく色づいて、雨露に濡れた木々はとてもみずみずしい色彩を見せて、秋の深まりを視覚で感じさせました。 1時間ほどの歩程で急激な登りは終わって、鬼怒沼へ向かうゆるやかな登りへと山道は変化していきました。木々の根が絡まりあうような根元が、大地にしがみつかなかれば生きることのできない厳しい自然を表現する登山道をひたすらに進んでいきます。鬼怒沼への距離を示す標柱がこまめに設置されているので、その鬼怒沼への距離が小さくなるごとに、自然と歩を進める足も軽くなるような気がします。加仁湯を出発しておよそ2時間30分あまり、高層湿原・鬼怒沼が木々の間から見えて、一気に視界が開けました。鬼怒沼の標高は2000メートル、尾瀬よりも高く、日本でも標高の高い高層湿原の一つです。東西410メートル、南北720メートルの範囲の中に大小の池塘が発達する湿原は、かつての火口が埋没や隆起によって現在のかたちへと変化したものとされています。湿原はすっかりと草紅葉へと変化していて、やがて訪れる白銀の世界への序章を演出していました。
天候は相変わらず好転することはなく、曇り空に覆われた湿原はすぐ先への視界も十分に利かず、深い深い霧の只中にありました。遮るもののない低地のため強風も容赦なく吹き付けて、枯草色に染まる湿原や鉛色の池塘、周辺の針葉樹林を凍えさせていました。その晩秋の湿原の風景の中にあって、私はただ四季の変化が織りなす豊かで、また時折厳しい表情の態様に、ただその身を委ねるだけでした。 |
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