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シリーズ京都を歩く

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6.東山から伏見・宇治へ
第十四段 東福寺界隈

 8月22日朝、JR東福寺駅を出発して東山から伏見方面への散策をスタートさせました。京都駅からも程近く、行政上も東山区の一部となるエリアであるものの、JR線や新幹線という強力なエッジの存在により、一見しますと東山というよりは洛南の延長上のような印象も受けます。五条通から南へ、伏見区まで一丁目から二十二丁目にもなる町名を伴いながら連続する本町通も、これらの鉄路によって自動車道路としては寸断されてしまいます。本町通は伏見区内に入りますと「深草直違橋」という町名に変わりまして、これまでとは逆に十一丁目からカウントダウンして伏見方面へと続きます。伏見(伏水)街道とも呼称されるこの通りは、伏見を経て大和(奈良県)方面へと連絡する通路として、古来より要路であったのだそうです。現在の本町通は住宅地の中を進むこぢまりとした道路となっていまして、日常生活の中に穏やかに溶け込んでいるように感じられます。

 本町通に4つ架かっていたという橋のひとつ「一ノ橋」があったという一橋小学校の南を東へ折れますと、泉涌寺門前へと続く泉涌寺道となります。道は京都市街地を環状に貫通する道路の一角を担う東大路を越えて、白壁や蔵などの残る住宅地を通って、泉涌寺の総門へと至ります。ここからは道は次第に傾斜が意識されるようになり、道の両側に木々が迫って、東山の峰の豊かな緑も間近になって、ここは洛南などではなく、やっぱり東山だった、と実感するわけです。昨年(2005年)の12月に泉涌寺道を歩んだとき、東山の山懐に展開する寺院群と、しっとりと色づいた紅葉とがたいへんに落ち着いた雰囲気を醸していましたのを思い出しました。泉涌寺参拝を終え、泉涌寺道を戻り、東大路を経由して東福寺へと続く街路の途上も、カエデなどの木々の緑が目にしみます。

本町通

本町通の景観
(東山区本町十一丁目付近、2006.8.22撮影)
泉涌寺道

東大路・泉涌寺道交差点付近
(東山区泉涌寺門前町、2006.8.22撮影)
泉涌寺道

泉涌寺道の景観
(東山区泉涌寺山内町、2006.8.22撮影)
泉涌寺道

泉涌寺道から北方向の景観
(東山区泉涌寺門前町、2006.8.22撮影)

 九条家の始祖兼実の孫道家が1236(嘉禎2)年に祖父の菩提寺創建を発願したことに始まる東福寺は、奈良の東大寺と興福寺にあやかってその寺号としたとされています。東大路から南へ、約5万坪(16.5万平方メートル)にも及ぶという寺域を、数々の塔頭寺院の立ち並ぶ参道を進んでいきます。残暑の季節、成熟したカエデの緑は、盛夏の輝きをいっぱいに凝縮させたような、極上のきらめきのなかにあるように感じられます。境内を渓谷のように貫く臥雲橋まで至りますと、京都でも随一の紅葉の名所である境内のようすを概観できます。ここが一寺院の境内かとにわかには信じがたいほどに緑に溢れた眺望の中、谷に架かる通天橋が緑の海の中に浮かんでいるように見えます。紅葉の美しさは言うに及ばず、新緑の頃も命萌えいずる活力に満ち溢れるような、躍動感のある光に満ちた色彩に塗りこめられるのだろうと想像がはたらいてまいります。

 巨大な三門は1405(応永12)年の建立と伝えられ、禅宗三門としては現存最古のものとして国宝に指定されています。紅葉の時期には芋を洗うような人出となる通天橋からの眺めを楽しみながら、開山堂へ。切妻の堂宇の上層に楼閣を配した開山堂の前庭は、左手は枯山水、右手は築山風の池庭と、堂の左右で異なったデザインとなっていまして、右手の庭の背後は借景としての東山の山並みがたおやかに連続していきます。塔頭寺院のひとつである芬陀院(雪舟寺)の美しい庭を拝見しながら、平家の六波羅第の遺構を移建したとされる六波羅門の門前を南へ、寺院と住宅地とが穏やかに並ぶエリアへと進んでいきます。

東福寺参道

東福寺への参道
(東山区本町十五丁目、2006.8.22撮影)
通天橋

臥雲橋より通天橋を望む
(東山区本町十五丁目、2006.8.22撮影)
東福寺・開山堂

東福寺・開山堂
(東山区本町十五丁目、2006.8.22撮影)


東福寺・三門
(東山区本町十五丁目、2006.8.22撮影)


東福寺・通天橋の景観
(東山区本町十五丁目、2006.8.22撮影)
雪舟寺

芬陀院(雪舟寺)
(東山区本町十五丁目、2006.8.22撮影)

 伏見街道(本町通)を見下ろす恰好の街路を、伏見方面へと歩むルートは、緑に溢れた閑静な住宅地の中を縫うように続いていきます。西側へ視界が開ける部分では、鴨川に向かって緩やかに下っていく地勢が穏やかに見て取れまして、山麓の高台から見下ろす京の市街地の景観がたいへんに印象的です。両脇に緑を携えた泉涌寺道からの眺めや東福寺通天橋の渓谷美、そして著名な清水の舞台など、こうして町をゆったりと俯瞰できる景観は、東山エリアに共通する地域性といいますか、文化遺産といってもいいものなのかもしれません。こうした東山の風景が、有名な寺院や町並みの中のみならず、ごくありふれた住宅地にあっても体現されるところが、東山の凄みなのではないかなとも思われます。この地域にとっては、それが普通であり、日常であるわけです。

 やがて街路は寺院の境内地から外れて、住宅地としての卓越性が強まっていき、行政区は東山区から伏見区へと遷移してまいります。「東山」の空気は突然に消え去るのではなくて、ごく自然に、「洛南」のそれへと移り変わっていきます。白壁や石壁などの美しい屋敷が連なる住宅地域の中を、丁字路にぶつかりながら、時には人ひとり通るのがやっとの道幅の路地に入り込みながら、進んでいきます。その細い細い道は、家々の軒先を経由しながら、朱塗りの鳥居が印象的な神社の境内へと導かれていきます。

住宅地景観

東福寺南側付近の住宅地景観(西方向を望む)
(東山区本町十五丁目、2006.8.22撮影)
住宅地景観

重厚な門構えの家
(伏見区深草地内、2006.8.22撮影)



第十五段へと続きます。


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