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シリーズ京都を歩く

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6.東山から伏見・宇治へ
第十六段 宇治散策

 宇治橋からたおやかに眺める宇治の風景は、どこまでもあざやかで、繊細な要素に包まれているように感じられました。646(大化2)年に初めて架けられたというわが国でも最も古い歴史を持つ橋のひとつである宇治橋。天災などによって幾たびも流されたり破損したりしてきた橋は、その都度架け替えられて、1996(平成8)年に完成した現在の橋につながるまでの歴史を歩んできました。袂に寄れる柳の木の向こうに、木製の高欄と擬宝珠があしらわれた現代の橋が美しいラインを作り出していました。古碑「宇治橋断碑」で知られる“橋寺”放生院常光寺の門前を過ぎ、川の右岸に沿っておだやかな町並みのなかの散策路を進みました。

 石畳もしつらえられたこの散策路は「さわらびの道」と呼ばれています。源氏物語の宇治十帖の「早蕨(さわらび)」の古跡があることからの呼称のようです。源氏物語は全54帖のうち、45帖以降の10帖が宇治を舞台とした光源氏没後のエピソードとなっていることから、このように呼ばれていることはよく知られていることと思います。源氏物語を愛する人々によって宇治川周辺に源氏物語、宇治十帖のそれぞれにちなんだ古跡が設定され、源氏物語の世界へと誘われるよすがとなっていると現地に設置された案内板は語っていました。

宇治橋

宇治橋・北詰より
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
さわらびの道

“さわらびの道”(宇治上神社手前付近)
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
宇治上神社

宇治上神社・拝殿
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
宇治川の景観

宇治川の景観
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
琴坂

興聖寺参道・琴坂
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
興聖寺

興聖寺・楼門
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)

 さわらびの道を歩みますと、都市機能的には閑静な住宅街が展開しています。その風景の中にわが国最古の神社建築としてその拝殿と本殿が国宝に指定されているとともに、世界文化遺産「古都京都の文化財」の1つに含められる古社「宇治上神社」や、末多武利(またふり)神社などの史蹟もたたずんでいまして、宇治の歴史を濃厚に感じさせる風情もまた随所に散りばめられています。緑の中に沈み行くような「琴坂」の先に鎮座する興聖寺をめぐりながら、水が溢れんばかりに流れ下る宇治川の河畔をゆったりと歩きました。のびやかな稜線にみずみずしい緑の木々に抱かれた宇治川の見える風景は、彼方の森に隠れるようにある保養地群の建物の表情とあいまって、宇治が京の人々にとって身近にくつろぎと和やかさを感じるのことのできる場所であったことが改めて実感として理解されるような気がいたします。

 朱塗りの欄干と薄緑の擬宝珠が特徴的な朝霧橋を渡り、宇治川の中洲「浮島」へ。橘島は上流の「塔の島」と下流の「橘島」に分かれていまして、その橘島を経由しながら木製の橘橋を越えますと、著名な平等院の境内へと到達します。伏見の町で大雨を降らせていた雨雲は残暑のなかさらに水蒸気を蓄えて上空を渦巻いていたようで、平等院に辿り着くあたりからも天気雨がスコールのように落ちるようになっていました。逆光の中、鳳凰堂のシンボルである屋根の上の鳳凰の姿をはっきりと認めることができないシーンもあったものの、光り輝く鳳凰堂の前によぎる雨粒の風景がどこか神々しい雰囲気でして、夏の終わりの季節感とともに、まばゆいばかりの堂宇が印象的でした。

朝霧橋

大朝霧橋より下流方向
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
宇治橋

宇治橋南詰
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
平等院鳳凰堂

平等院鳳凰堂
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
平等院鳳凰堂

平等院鳳凰堂・その2
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
宇治市街地

宇治市街地・朝日山丘陵を望む
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)
宇治市街地

宇治市街地・町屋
(宇治市宇治、2006.8.22撮影)

 平等院を後にして参道を歩き、再び宇治橋の袂まで戻ります。橋の南詰めはちょっとしたオープンスペースがありまして、源氏物語の最終帖の名前にちなみ、「夢浮橋ひろば」と命名されているようでした。説明版の傍らには巻物を手にする紫式部像が設置されていました。ここまで歩んできまして、ふと宇治川の流れる岸辺周辺のみならず、宇治市街地の町並みにとっても、宇治周辺の丘陵-朝日山など-はたいへん重要な借景となっているなと気づかされました。宇治の市街地は宇治橋から南西へ「宇治橋通り商店街」として連接していきます。通過する自家用車も多いものの、JR宇治駅側に後に貫通したと思われるバイパス的な市道があることから、若干は渋滞が緩和されているようです。

 商店街は昔ながらの雰囲気を濃厚に残す穏やかさがたいへん印象的でして、明治中期から残存する町屋をはじめ、大正期から昭和初期を髣髴とさせるモダンな建物も認められまして、明治期以降も一定の中心性を維持してきた町並みの凄みに満ちています。町並みの背後、バイパス市道方面には中層のマンションも比較的多く立地しているのも特徴的です。伏見と同じように、高度経済成長期を経て相対的に中心市街地が沈滞化し、かわって大都市圏郊外地域の住宅都市としての都市機能をより強化させながら、今日を迎えているという、現代都市としての顔も覗かせます。穏やかで美しい町並みを楽しみながら、時折来た方向を振り返りますと、明治期の町屋、大正昭和前期のモダンな建物、現代のマンションなどがゆるやかにミックスされた宇治の町並みの向こうに、なめらかなみずみずしさをたたえる山並みの緑がたいへん爽快に目に入ってまいります。土地利用や人々は時代によって移り変わろうとも、宇治の町は今も昔も、このどこまでも快い峰々に抱かれながら、時代を歩んでいくことでしょう。


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