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シリーズ京都を歩く
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11.真朱明浄の趣 〜2011京都紅葉散歩〜 |
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第三十段 東山・洛北の紅葉をめぐる(前) 2011年12月3日、夜行バスで到着した土曜日早朝の京都駅はまだそれほど賑わってはいませんでした。未明は時雨模様であったようで、空は灰色がかって初冬の様相を呈し、路面はたっぷりと湿っていました。穏やかな冬空の下の紅葉は鮮やかなものです。一方、冬本番を前にしたこの時季は、鈍色の空と一時の雨とがえもいわれぬ情趣を醸し出すこともあって、その風景に京都らしい季節感を味わうこともできます。京都の紅葉の本番は12月に入ってからであることが多く、暦の上では初冬になります。紅葉といえば季節としては秋なのですが、こうした秋の余韻を存分に残しながらも冬らしいエッセンスを加えた見ごたえのある景色の中をそぞろ歩きできるのも、京都の紅葉の醍醐味の一つといえると思います。駅構内には恒例の巨大クリスマスツリーがお目見えしていました。
バスで東山五条へ移動し、五条坂から茶椀坂とも呼ばれる清水新道を経由し、清水寺へ。清水の舞台から見下ろす錦雲渓(きんうんけい)の紅葉はまさに見頃を迎えていました。しっとりと水を含んだ床や参道に散りばめられたカエデの葉が冬の気配を伝える手紙のように季節の行間を埋めていました。音羽の滝から流れ落ちる水の音も快く耳に届きます。それは寺号の由来ともなりました。音羽山から止むことなく湧き出るその清水に崇高な霊験を求めた古来からの篤い信仰の歴史を重ねながら、しばらくその情景を眺めていました。真っ赤な紅葉の海の向こうには、京都の街並みが平らかに眺められます。 産寧坂の石段を下り、法観寺・八坂の塔へ。清水寺への参道として人出の絶えない道筋は、藩政期から続く町家造りの美しい景観が多くの人を引き付けています。土産店の軒先などにカエデやハギなどのちょっとした植栽もあって、四季折々の風物を大切にしている雰囲気もすてきです。1440(永享12)年に足利義政により再興されたという八坂の塔はそうした清水・八坂界隈の街並みに歴史的資産としての意味を与えているように思います。このあたりは平安京遷都前から開けていた場所で、八坂の塔のある法観寺もその時代からの由緒を持っているようです。豊かな水の集まる盆地に臨み、ゆるやかな山並みと緑に恵まれたこの地域を、八坂や清水といった名前は端的ながらも的確かつ雅に捉えているといえるのかもしれません。
八坂の塔の下を後にして、北に隣接する高台寺へ。豊臣秀吉の正室北政所が秀吉の菩提を弔うために建立した寺として知られます。高台寺に着く頃までには雲間から青空が垣間見られて、グレースケールの東山の風景に天窓から差し込む朝日にような耀きを加えていました。境内や庭園は緋色や橙色にきらめくカエデが冬空に沈む風景の中にあって一際映えていました。常緑の木々のうるおいに満ちた緑色とのコントラストも見事でした。高台寺の西側には、京町屋と石畳の路地とが伝統的な雰囲気を演出する一角が広がります。ねねの路やねねの小径、石塀小路といった名前で呼ばれる路地は、石塀や板壁などに昔ながらの風情を感じられる場所として広く紹介されるエリアです。 石塀小路を抜け、八坂神社方面へ歩を進めます。京都の夏を彩り、京都三大祭のひとつである祇園祭の舞台となる同社は、多くの参詣客が訪れる年末年始を前に、ちょっとした静けさに包まれているような印象でした。東に接する円山公園では、やはり鮮やかに赤く染まるカエデの木々が池に穏やかな陰影をはためかせる中にあって、春には見事な桜色に染まる枝垂桜が、孤高に冬空に向かい、凛としたたたずまいを見せていました。
円山公園を北へ抜ければ、知恩院の門前です。同院の壮大な山門の前を通り、青不動で知られる青蓮院門跡の包み込まれるようなクスノキの下を進み、三条通へと至ります。かつての東海道や中山道のルートにあたるこの道筋は、京都に入る代表的な入口である「京の七口」のひとつ「粟田口」と呼ばれる一帯をなします。平安神宮の大鳥居を前方に見ながら疏水に沿って東進しますと、南禅寺門前へと到達します。その手前には元老山縣有朋が1894(明治27)年から1896(明治29)年にかけて造営した別荘「無鄰菴」があり、その庭園(国の名勝)で小休止しました。苔に落ちるカエデの葉や、東山を借景とした自然そのままの空間、そしてその上を目まぐるしく行き過ぎる雲の速度に、秋から冬への移ろいを感じました。 |
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