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シリーズ京都を歩く

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11.真朱明浄の趣 〜2011京都紅葉散歩〜
第三十二段 洛西の家並み 〜向日市街地とその周辺〜

  京都市内のフィールドワークを東福寺訪問で終え、その足でJR京都駅に戻り、そのまま大阪方面へ電車を乗り継ぎ、京都市の南西に位置する向日市へと向かいました。JR向日町駅からほど近い阪急東向日駅へ。駅の南を斜めに通過する府道206号kの南側を南南西方向に進む路地はかつての西国街道の道筋でした。路傍には「築榊講(つきさかこう)常夜燈」があって、1842(天保13)年に伊勢参りの講の一つであった築榊講の人々によって建てられたという往時を忍ばせました。

常夜燈

旧西国街道筋・築榊講常夜燈
(向日市寺戸町、2011.12.3撮影)
旧西国街道・道標

旧西国街道筋・道標
(向日市寺戸町、2011.12.3撮影)
旧西国街道筋

旧西国街道筋の景観
(向日市寺戸町、2011.12.3撮影)
畑の見える景観

畑の見える景観
(向日市寺戸町付近、2011.12.3撮影)

 向日市は人口5万3千人あまり、面積は8平方キロメートル弱と、全国でも3番目に面積の小さい市域を持ちます。地図で見ると西から北、東の三方を京都市に囲まれているのが分かります(南から西にかけては長岡京市に接する)。1889(明治22)年に町村制が施行されて乙訓郡向日町として発足して以降、1972(昭和47)年に単独で市制施行し現在に至っており、市町村合併を一度も経験していない自治体です。現在では京都市郊外のベッドタウンとして宅地化・市街化が進むほか、京都市西京区へと連なる丘陵地では自然や農村的な風情も残っているようで、狭いながらも都市と自然とのバランスの取れた都市といった印象です。

 旧西国街道は、京都の東寺口を起点として摂津国へと抜けて山陽方面へと続く街道筋で、その前身を辿りますと律令時代の大路に比定される歴史のある道筋です。江戸時代に再整備され、大坂を経ずに西国から京へ抜けることのできるルートとして参勤交代にも利用される主要道路でした。沿線には、板塀の町屋や格子のある町屋、長屋門風の建築が所々に残り、大原野神社や淳和天皇御陵、桓武天皇皇后御陵などへの道標が残るなど、かつての面影が随所に残ります。野菜が植えられた畑もあって、上述した郊外の農村地域としての地域性と、主要道路沿いであったという要衝性とが共存した景観が続きます。道幅も藩政期当時とあまり大差はないのではないかと思われます。府道67号(愛宕道)に合流する地点付近には府指定重要文化財の須田家住宅が残ります。明治中葉まで醤油の製造販売を営んでいた旧家で、向日町の中心性を物語る事物であるといえそうです。現在でも一帯は伝統的な向日市の中心市街地のようで、道路に商店街の所在を示すアーチがかけられていました。

須田家住宅

須田家住宅
(向日市向日町、2011.12.3撮影)
向日神社鳥居

向日神社鳥居
(向日市向日町、2011.12.3撮影)
向日神社の紅葉

向日神社の紅葉
(向日市向日町、2011.12.3撮影)
向日神社

向日神社
(向日市向日町、2011.12.3撮影)

 府道を南へ進み、この地域でも紅葉の名所として知られる向日神社へ向かいました。向日山と呼ばれる小高い丘に建つこの旧社は、718(養老2)年の創建と伝えられます。当初は向神社(むこうじんじゃ)と称され、後に同じ向日山に鎮座した火雷神社(ほのいかづちじんじゃ)を併祭して向日神社と称し、今日に至っています。府道に面して大きな石造の鳥居があって、そこから向日山に向かって緩やかに上る参道が続いています。鳥居の傍らにはソメイヨシノの木も鮮やかに色づいていて、春は桜も美しいであろうことが想像されました。

 夕闇が迫る中、静けさが周囲を支配する参道を穏やかに歩みました。石畳の道と徐々に色づきつつある紅葉のコントラストが黄昏時の陰影を引き立てているようでもあり、晩秋から初冬へ向かう季節の哀感をつつましやかに表現しているように思われました。本殿は1418(應永25)年の建造。室町時代の建築様式である「三間社流造」の代表的な建造物として、国の重要文化財の指定を受けています。同神社の社殿は明治神宮のモデルになったという来歴もあります。

 
向日神社参道

向日神社参道
(向日市向日町、2011.12.3撮影)
京都駅・クリスマスツリー

JR京都駅・クリスマスツリー
(下京区東梅小路町、2011.12.3撮影)

 歴史ある街道筋の昔ながらの家並みに触れながら、やはり長い時間を経た神社の醸す情感に包まれた紅葉に出会う行程となった向日市街地散策は、夕方の短い時間の中に濃密にそのたおやかさを描き出す地域の豊かさに癒される貴重な経験となりました。再び戻った京都駅では、この日の朝に見た巨大クリスマスツリーがきらびやかに光彩を放っていて、歳の瀬の華々しい雰囲気を盛り上げていました。

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