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シリーズ京都を歩く
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17.緑風典雅の響 ~2016年京都・新緑の輝き~ |
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第四十三段 嵐山・嵯峨野の青葉 ~古刹と名園の風韻~ 2016年大型連休の最後の土日、前夜に地元を出発した夜行高速バスで到着した京都駅前は、穏やかな曇天の下にありました。荷物をコインロッカーに預けた後、嵯峨野線で嵯峨嵐山駅へ。早朝の嵐山界隈は行き交う人はほとんどなくて、紅葉シーズンにおける雑踏がうそのような静けさに包まれていました。
行き交う人も車両もまばらな天龍寺門前を経て、渡月橋へ進みます。春の桜の時季はもとより、秋の紅葉のシーズンには溢れんばかりの多くの観光客を集める嵐山は、大堰川の瀬音が間近に聞えるくらいの穏やかさに包まれていました。嵐山の山肌もつややかな新緑に染められていまして、乳白色の空にその光耀を伝えていました。保津川とも呼ばれる川沿いを上流に進み、階段を上って嵐山公園の亀山地区へと向かいます。このあたりの保津川は、一の井堰もしくは葛野大堰(かどのおおい)と呼ばれる堰のために流れが緩やかで、鏡面のようになった川面には嵐山の緑がそのまま映り込んでいました。緑に包まれた公園内を歩いて最上段に来ますと、保津峡と呼ばれる渓谷を手に取るように眺望することができます。川の反対側には木々の間に京都の中心市街地が眺められまして、ここが古来より都に近接する遊興の地であったことを彷彿とさせました。 嵐山公園の高台を北へ下りますと、嵯峨野を象徴する景観のひとつである竹林の道へと至ります。この場所も普段は多くの観光客でひしめく場所なのですが、この日は早朝であることも手伝ってほとんど訪れる人もなく、整然とした幹が凛とした表情を見せる小道は、変わらぬ風情を醸成していました。薄曇りの空を抜けて差し込む朝日は、竹の葉の涼しげなスリットを通して爽やかな暁光を地面に差し込ませていました。野宮神社の境内も鮮やかな新緑に包まれていまして、苔のエメラルドグリーンは得も言われぬ光彩を放っていました。竹林の道をそぞろ歩きながら、小倉山麓の散策路を歩きます。小倉池から常寂光寺へと進む道は紅葉が美しい場所ですが、この季節はそうした木々がいっぱいに道をおおってしなやかな蒼色の世界へと染め上げていまして、紅葉とはまた違った感動を与えてくれます。
何層も折り重なるような緑のヴェールに包まれた常寂光寺の門前を下り、嵯峨野らしい山と畑地とに囲まれた風景が広がる落柿舎へと向かいます。落柿舎の柿の若葉は薄曇りの空の下でも瑞々しくきらめいて、初夏の芳しい雰囲気を宿していました。嵐山から小倉山へと連なる山並みも極上の緑の輝きをしっとりと湛えていまして、嵯峨野の家並みに静かに寄り添います。二尊院から清凉寺へと進み、山門から南へ、渡月橋へと続く道を辿って天龍寺前へと戻りました。塔頭寺院が建ち並ぶ参道も、背景の山並みの緑を受けてとても清新な佇まいを見せています。ツツジやサツキも鮮やかな花をいっぱいにつけていまして、早緑色の景色に彩りを添えています。午前8時30分を過ぎて拝観が始また天龍寺に立ち寄り、京都随一の美観で知られる方丈裏庭(曹源池庭園)の風光にしばし見入っていました。池を中心に幾重にも続く緑の小波が目に眩しく映ります。背後の高まりからは、境内の木々の向こうに京都の町並みを展望することができました。晩春から初夏へ、漲る生命力をそのまま表現したかのような木々の色彩は、どこまでも明瞭で、たゆみのない物質の輪廻を彷彿とさせました。 天龍寺の自然と庭園美とが渾然一体となった景色を観賞した後は、嵐電の愛称で親しまれる京福電気鉄道を利用し、臨済宗妙心寺派大本山である妙心寺へと向かいました。嵐電妙心寺駅から南へ。昔ながらの古い家屋が立ち並ぶ一条通沿いを進みますと、妙心寺の境内は至近です。妙心寺は境内に多数の塔頭寺院を持っていまして、本瓦葺の薬医門である北門から入りますと、参道の両側には数々の堂宇が緑の多い生け垣越しに甍を並べていました。大方丈や仏殿、法堂(はっとう)などを拝観し、朱塗りの三門を一瞥しながら、塔頭寺院のひとつである退蔵院へ。枯山水庭園や新緑が池に映える池泉回遊式庭園である余香苑が鮮やかな風合いを見せていまして、さまざまな濃淡を呈する青葉のグラデーションが庭を彩っていました。
嵐山から嵯峨野、そして花園界隈の名刹へと進んだ散策は、随所にいきいきとした緑に包まれた初夏の風景に出会える道のりでした。秋には鮮やかな紅葉に包まれる山や庭園は、5月初旬の一時、極上の光風や碧水をいっぱいに湛えていました。妙心寺の広大な境内を散策した後は妙心寺道を東へ進み、西大路を経て北野天満宮へと歩を進めました。 |
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